ep 3
混乱したまま問いかける太郎に、少女は優しい微笑みを向けた。
「私の名はサリー。村の外で貴方が倒れているのを見つけて、私の家に運んだんです。」
サリーと名乗る少女の言葉に、太郎は自分が助けられたのだと理解した。
「あ、ありがとう。僕は佐藤太郎。」
改めて自己紹介をすると、サリーは顔を近づけてきた。
「太郎さん、痛い所はありませんか? 私、少しの怪我くらいなら魔法で直せます。」
サリーの言葉に、太郎は驚きを隠せない。
「回復魔法……! す、凄いんだね、サリーさんは。」
思わず敬称をつけてしまった太郎に、サリーはくすくすと笑った。
「呼び捨てで良いですよ、太郎さん。それにしても太郎さん、不思議な格好をしてるんですね。」
サリーは太郎の着ているジャージを指さした。確かに、この世界の人々が着ている服とは明らかに違う。
意を決した太郎は、サリーに全てを話すことにした。別の世界から神に飛ばされてきたこと、そして『100円ショップ』という不思議なスキルを与えられたことを。サリーは目を丸くして、太郎の話に耳を傾けた。
「100円ショップってどんなスキルなんですか?」
サリーの問いかけに、太郎は実演してみせることにした。心の中でスキルを唱え、『100円ショップ』のウィンドウを開き、その中からカラフルな飴を取り出した。そして、それをサリーに差し出した。
「えっと……これ、食べてみて。美味しいよ。」
サリーは不思議そうに飴を受け取ると、口に含んだ。
「……!」
サリーの目が大きく見開かれた。
「あ、甘い! 美味しい!」
サリーは頬を染めて、目を輝かせた。
「太郎さん、凄い!」
純粋なサリーの反応に、太郎は少し照れながら笑った。
その後、太郎はサリーにこの世界、そしてこの村について色々と教えてもらった。この大陸はワンダー大陸と呼ばれ、魔法や魔物が存在する世界。冒険者ギルドもあり、人々はそれを利用して生活しているらしい。サリーの住む村は人口100人ほどの小さな村で、農業で生計を立てている平和な村だという。
サリーに村を案内されながら、太郎はのどかな村の風景に心が安らいだ。
「良い村なんだね。」
太郎が呟くと、サリーは優しい目を細めて言った。
「ええ、平和な村なんです。」
村を案内し終えたサリーは、太郎に言った。
「是非、村長の父に会ってみてください。」
サリーに連れられ、村長の家へ向かうと、 へやの中には恰幅の良い男が待っていた。彼が村長のササガだった。
「やぁ、元気になって何よりじゃ。」
ササガは朗らかな笑顔で太郎を迎えた。
「この度は助けていただき、ありがとうございます。」
太郎は深々と頭を下げた。ササガは笑って手を振った。
「なぁに、困っている人がいれば助けるのは当たり前のことじゃ。ゆっくりしていってくれ。」
ササガとサリー、そして村人たちの優しさに触れ、太郎は心から感謝した。異世界での初めての朝は、温かい人情に包まれた、穏やかな始まりとなったのだった。