第1章 100円ショップの勇者
異世界転生 100円ショップの勇者
第一章:突然の終焉、そして異世界への誘い
佐藤太郎、二十歳。ごく普通の大学生。特にこれといった取り柄もなく、かと言って不満があるわけでもない、平凡な毎日を送っていた。アルバイトが終わった帰り道、いつものように信号待ちをしていた時だった。
「ニャーオ…」
弱々しい猫の鳴き声が聞こえた。見ると、一匹の小さな猫が、猛スピードで走ってくるトラックに轢かれそうになっている。
「あぶない!」
太郎は考えるよりも先に体が動いていた。猫を助けようと、車道に飛び出したのだ。次の瞬間、けたたましいブレーキ音と、衝撃。
「…え?」
太郎の意識はそこで途絶えた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。ふと気が付くと、太郎は真っ白な空間に立っていた。
「ん…?ここは…?」
戸惑う太郎の目の前に、優しい光が降り注ぎ、一人の美しい女性が現れた。
「ようこそ、審判の場へ。佐藤太郎さん」
女性は微笑みながら言った。
「え…?貴方は…?」
「私はあなた達が言う神、と言うものです。厳密には違いますが」
神と名乗る女性の言葉に、太郎はますます混乱する。
「え?って事は…僕、死んだの?」
「そうです。トラックに引かれて」
女性の言葉に、太郎は自分が死んだことをようやく理解した。
「あ、あの猫は無事だった?」
死んだはずの自分が、なぜ猫のことを気にしているのだろうか。しかし、それは純粋な心配だった。
「猫は無事ですよ。……ふむ、自分が死んだにも関わらず、猫の心配をするとは。ポイントが高いですね」
女神は少し感心したように言った。
「はー…ろくでもない人生だったなぁ。女の子と付き合えないし…」
自嘲気味に呟く太郎に、女神は優しく微笑みかけた。
「そう悲観することはありませんよ、佐藤太郎さん。私はあなたの善行に感動しました」
「え…?」
突然の言葉に、太郎は目を丸くする。
「佐藤太郎さん。あなたに、異なる世界に転生する機会を与えましょう」
「え?異世界転生って奴!?」
思わず声が大きくなる。異世界転生。それは、最近流行りの小説や漫画の世界でよく見かける設定だ。まさか、自分がそんな体験をすることになるとは。
「しますか?しませんか?」
女神は優しく問いかける。
「す、するよ!」
太郎は即答した。こんなチャンス、逃す手はない。
「分かりました。では、言語理解と…ふむ、これなんて面白そうです」
女神は何かを思案するように呟き、そして言った。
「スキル、『100円ショップ』」
「え?100円ショップ?」
スキル名を聞き間違えたかと思った。異世界で役立つスキルが、まさかの100円ショップとは。
「はい、『100円ショップ』スキルです。100円ショップの商品をいつでも取り寄せられるスキルです」
「はぁ…」
想像していたものとは違うスキルに、太郎は微妙な反応をしてしまう。しかし、女神は気にすることなく話を続ける。
「では、初回異世界生活特典に1000pポイントを上げますね」
女神はそう言うと、眩い光を放った。
「では、良い異世界生活を」
「わぁぁ…」
光に包まれ、太郎の意識は再び遠のいていった。次に目を開けた時、彼は全く知らない場所に立っていることに気が付く。異世界での、新たな生活が始まったのだ。100円ショップのスキルと共に――。