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リスク投資なんて、俺にとってはただのゲームの一つさ

Ledge Towerの頂上にて

翌日の午後、Ledge Towerの最上階。

ここには最近オープンしたばかりの高所ロープ降下ラペリングのアトラクションがある。


強風が摩天楼の間を吹き抜け、ガラス張りの壁面に太陽の光が反射し、眩しい輝きを放っている。

涼真はダークグレーのスポーツウェアに身を包み、エレベーターを降りるとすぐに真理奈の姿を見つけた。


彼女はプラットフォームの端に立ち、眼下に広がる数百メートル下の街並みを見下ろしている。風が彼女の髪を揺らしていた。


涼真は歩み寄り、軽く声をかける。

「随分と落ち着いてるな。」


真理奈は横目で彼を見た。

「高いところは好きなの。人が少ないし、窮屈じゃないから。」


ふと横を見ると、すでに恐怖に耐えかねた観光客たちが、手すりをしっかりと掴みながら「無理!降りたい!」と悲鳴を上げている。そのおかげで、彼女の立ち位置はより開けたものとなっていた。


真理奈は迷いなくハーネスを装着し、ロープの安全を確認すると、そのままスタッフの指示を待つことなく、自らの意思で後ろに体を倒した。


——次の瞬間、彼女の足はプラットフォームから完全に離れた。


百メートルの高さ、風に吹かれながら、まるで空中ブランコのように揺れながら降下していく。


そのスローモーションのような瞬間、涼真は彼女が振り返り、こちらを見るのを目撃した。


彼はわずかに眉を上げ、ためらうことなく隣のロープを掴むと、一気に跳び降りた。


風が唸り、ガラスの壁面には、二人の大胆な影が映し出されていた。


ロープ降下を終えた後——


二人は、クラブ併設のガーデンテラスでシャンパングラスを掲げた。


涼真の目には、一種の賞賛の色が浮かんでいた。

「真理奈さん、その集中力には改めて感心しますよ。」


真理奈はクスッと笑う。

「実は、このビル、QVのオフィスビルより低いんだけどね。」


涼真は軽くグラスを彼女のグラスに触れさせる。

「高さの問題じゃない。大事なのは、その心構えだ。あなたは、ほとんどの人よりも肝が据わっている。」


真理奈はわずかに目を細め、意地悪そうに微笑んだ。

「じゃあ、蓮と比べたら?」


涼真は手元のシャンパングラスを軽く揺らす。琥珀色の液体が、陽光を受けてきらめいた。

彼は真理奈をじっと見つめ、直接の答えは避ける。


「さあ、どうでしょうね……ただ、今日の場において、あなたが自ら蓮の話を持ち出したのは意外でしたよ。」


しかし、彼をさらに驚かせたのは、真理奈が自嘲気味に微笑みながら、こんな冗談を口にしたことだった。


「だって、元カレだし?」


「なるほど。元恋人であり、ライバル企業の代表。どうやったらそんな関係になるのか、むしろ興味が湧くな。」


涼真はわずかに首を傾け、洞察するような視線を向ける。

「でも、それ以上に気になるのは……あなたにとって彼は何なのか、ということですよ。」


「何って……」


真理奈は即答できなかった。


そのとき、脳裏をよぎったのは、先日、二人の噛み合わない口論だった。


——自分があそこまで罵倒したのに、蓮の表情にはどこか愉しげな色が滲んでいた。まるで、それすらも満足げに味わっているかのように。


「……バカじゃないの。」


思わず、ぽろっと呟いてしまう。

だが、なぜか口元には笑みが浮かんでいた。


涼真は興味深そうに片眉を上げる。

「ん?」


真理奈は一瞬、自分の失言に気付き、軽く口元を押さえた。


だが、すぐに落ち着きを取り戻し、話題を切り替える。

「……さて、涼真。私はSSIの投資を取り付けたいの。」


涼真は彼女を見つめたまま、しばし沈黙する。


その視線には、彼女の言葉の一つ一つを吟味するような鋭さがあった。


ゆっくりとグラスを傾けながら、淡々と言う。

「真理奈さん、その率直さは嫌いじゃない。でも、SSIの投資は、たかがロープ降下の度胸試しで手に入るものではありませんよ?」


彼は少し間を置き、意味深に微笑んだ。

「それに……あなたも知っているでしょう? 私はMETに投資する予定なんです。」


「もちろん。」


真理奈は自信たっぷりに微笑む。


「だから、ちゃんと準備してきたわ。」


彼女は、用意していたビジネスプランを差し出す。


涼真は、それを受け取り、ページをめくり始めた。

真理奈はQVの未来の展開について、詳細かつ実現可能な計画を立てていた。その中には――METの買収も含まれている。

涼真の指が一瞬止まり、ふと顔を上げて真理奈を見た。事態が俄然面白くなってきた。

「METの買収?蓮は知ってるのか?」

真理奈は、涼真の言葉に込められた意図を読み取り、落ち着いた表情で彼の視線を受け止めた。

「もし蓮がQVを買収すると言い出したとしても、私は驚きません。」

涼真はふっと微笑んだ。

「元カノとしての直感?」

真理奈は肯定も否定もしない。

「それに、元同僚として。彼の動きは、ほとんど予測できます。」

涼真は彼女をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「じゃあ、俺たちが結んだのが『対決契約』だってことも予想してた?」

彼はゆったりとカップを置き、指を組んだ。その声音には、試すような響きが混じっていた。

「蓮の賭け金はMET、オールインだ。もし期限内に目標を達成できなければ、METの持ち株は俺のものになる。」

「それで?」涼真は指先でテーブルを軽く叩きながら続ける。「真理奈、君はこの投資のために、何を賭ける?」

真理奈はシャンパングラスの脚をなぞりながら、何かを思案するような仕草を見せた。

「私たちの間で、わざわざ賭けをする必要はありません。あなたはMETを手に入れたい。そして私は、あなたが勝てるようにできる。もっと確実な方法で。」

だが、涼真は即座にその提案を却下した。

「いや、それじゃつまらない。」

彼の目には、どこか危うい楽しみの色が浮かんでいた。

「四半期以内に、QVの市場シェアをMET以上にする。乗るか?」

真理奈は瞬時に頭の中で計算を始めた。

QVのモデルテストの結果は好評で、急成長中だ。もし利益配分が蓮に有利に働くなら、次の四半期で市場シェアを伸ばすのはMET側になる。

「四半期じゃ足りません……彼が負けるには、一年は必要ですね。QVの圧倒的な実力をお見せします。」

「一年?」

涼真は一瞬考え、グラスを持ち上げ、真理奈のグラスに軽く触れた。まるで考える時間を与えるかのように。そして、ゆっくりと言葉を続けた。

「一年、いいだろう。ただし、条件を一つ追加させてもらう。」

彼は身を乗り出し、悪魔のささやきのように言った。

「もし達成できなければ、君の手でQVを蓮に渡してもらう。」

彼の微笑みには、どこか愉快げな悪意が滲んでいた。

「ほら、君にも彼にも、フェアな条件にしておいたよ。」

真理奈は表情を崩さず、ただ少し疑問を口にした。

「その組み合わせ、あなたにどんなメリットがあるんですか?」

涼真はグラスの中でシャンパンを軽く揺らし、立ち上る泡をしばらく眺めてから、真理奈に目を向けた。

口元に、意味深な笑みを浮かべながら――

「理解しなくていい。」

彼はさらりと言った。その声は相変わらず、上品で洗練された響きを持っていた。

「リスク投資なんて、俺にとってはただのゲームの一つさ。」

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