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資本市場にはまだ法則がある。感情は、法則すらない

彼女は深く息を吸い込み、スマートフォンを取り出して、湊の番号を押した。


コールが三回鳴った後、電話がつながる。


湊の声はいつものように淡々としていて、落ち着いた口調だった。


「真理奈?」


しかし、真理奈の声は氷のように冷たかった。


「湊、あなた、私に説明があるんじゃない?」


湊は相変わらず淡々としている。


「時には、計画よりも先に、予想外のことが起こるものだよ。」


真理奈は冷笑し、とうとう堪忍袋の緒が切れた。


「回りくどい言い方はやめて。私が知りたいのは、あなたが私を騙していたのか、それともあなた自身も騙されたのか、ただそれだけ。」


湊はしばらく沈黙した後、少しだけ声に確信を込めて言った。


「俺は、騙される側の人間じゃない。」


「じゃあ、残る可能性は二つ——無能か、もしくは別の思惑があるか。」


「俺の力を、君は思っているよりも低く見積もっているようだね。」


「だったら、証明して。」


湊は再び、淡々とした口調に戻った。


「いずれ分かるよ。」


彼との会話はまるで噛み合わない。質問に答えているようで、何も答えていない。最初に感じた落ち着いた信頼感は、今や霧のようにぼやけてしまった。


——この人は信用できない。


真理奈は心の中で、そう結論を下した。


通話を切ると、彼女は周囲を見回し、ふと空虚な気持ちに襲われる。


どこにも行く当てがない。結局、METに戻るしかなかった。



METのオフィスは相変わらず活気に満ちていた。キーボードを叩く音が、絶え間なく響き渡っている。


真理奈は自分のデスクへ向かい、椅子に腰を下ろすと、PCの電源を入れた。


ふと、蓮のオフィスをじっと見つめてしまう。


——「でも、覚えておくといい。METに、秘密なんてない。」


蓮の、あの意味深な言葉が脳裏をよぎる。


もし彼が最初からすべてを見抜いていたとしたら?この状況を操っているのは、彼なのか?


もう我慢できなかった。


真理奈は立ち上がり、蓮のオフィスへ向かう。彼に確かめなければならない。



なんという偶然だろうか。ちょうど彼のオフィスの前にたどり着いたとき、清奈と鉢合わせた。


清奈は口元に微笑を浮かべる。


「奇遇ね。あなたも彼に用が?」


真理奈は答えず、そのままオフィスのドアに手をかけ、押し開けた。


蓮はデスクに座り、横にはコーヒー。誰かを待っていたのは明らかだった。


彼は顔を上げ、真理奈と清奈が並んで立っているのを見ると、一瞬、視線が止まる。


二人はどちらも譲る気配を見せない。


蓮はゆっくりと立ち上がり、二人の間を見渡しながら、真理奈を見つめる。


「真理奈。」


清奈は軽く顎を上げ、いつもの気だるげな口調で言った。


「本当に、それでいいの?」


蓮はわずかに躊躇い、しかし、柔らかな声で真理奈に言った。


「あとで話そう。」


清奈は唇の端を少し持ち上げると、そのままオフィスの中へゆっくりと歩いていく。


そして、さりげなくドアを閉めた。まるで何かを誇示するように。



目の前で扉が閉じる。


真理奈は立ち尽くし、そのまましばらくドアを見つめていた。


…正直、少しだけ落ち込んだ。


だが、すぐに自分を嘲笑する。——何を期待していたの?


彼が自分を優先するはずだと?そんな理由はどこにもない。


もう、昔の関係ではないのだから。


真理奈は深く息を吸い込み、振り返って自分のデスクへと戻る。


今は、感情に振り回されている場合じゃない。


蓮と清奈が何を話していようと、自分は自分のやるべきことを進めるだけだ。

清奈は蓮の向かいに座り、ガラス越しに外を見やった。

――その視線の先には、冷ややかにこちらを見つめる真理奈の姿があった。


「本当に、これでいいの?」


彼女の皮肉めいた問いかけを、蓮は軽く流し、手元の書類をすっと差し出した。


「これを見たほうがいい。お前が本当に気にするべきなのは、こっちだ」


椅子の背にゆったりと身を預け、蓮の視線は鋭く、しかしどこか余裕を感じさせる。


「俺の提案はまだ有効だよ、清奈。じっくり考えるといい」


清奈はすぐに書類をめくった。

――これは……ベンチャーキャピタルの投資意向書!?しかも、業界でも名の知れたSSI!?

つまり、これは……


蓮は落ち着いた口調で続ける。その声音には、全てを掌握している者の余裕があった。


「これは、METの未来を示している。QVとは、まるで次元が違う」


彼は少し前に身を乗り出し、清奈の驚きを楽しむように微笑んだ。


「さて、これで状況ははっきり見えたか?」


清奈は慎重になった。この場で軽々しく答えるべきではない。


「少し待って。いくつか確認させてもらうわ」


すぐに彼女は自身のネットワークを駆使し、SSIの動向を探った。

――本当に、SSIはMETに興味を持っている……!

瞬く間に情勢が大きく動いたのを実感する。

そして同時に、自分の野心が刺激されるのを抑えられなかった。


蓮の声が、さらに低く深く響く。


「好きなだけ確認しろ。俺が提示しているのは、確かなチャンスだ。倉田のような空約束とは違う」


彼は椅子にもたれ直し、長い指をテーブルに置いた。

ただそれだけの動作でも、彼の持つ圧倒的な存在感は揺るがない。


「さあ、決めるのはお前だ」


清奈は窓の外をちらりと見た。


「……なぜ私? 真理奈こそ、あなたが特別扱いしている人じゃないの?」


「清奈、公私を混同するな」


蓮の声は淡々としていた。


「お前のQVでの立場は調べてある。もしQVが本当にお前を評価していたら、今頃ここにはいないはずだろう? だが、お前の政府や医療機関への人脈、パブリックな交渉力、資本市場での嗅覚……METにとっては、どれも極めて価値がある」


彼はさらに身を乗り出し、低く囁く。


「倉田の計画は、もはや手の施しようがない。だがMETは、まさに飛躍の直前にいる」


蓮は指先でテーブルを軽く叩いた。


「お前をここに呼んだのは、その飛躍を確実なものにするためだ」


清奈は静かに書類を閉じ、瞳を深く細めた。


「もし私があんたにつくなら、QVとは完全に決裂する。倉田とも、もう後戻りはできない」


彼女は小さく笑い、蓮をじっと見つめた。


「まさか『未来』なんて曖昧なものだけで、私を動かせると思ってるわけじゃないわよね?」


彼女は、彼が差し出す本当の条件を待った。


蓮は鋭い眼差しで清奈を見据え、静かに言った。


「SSIの資本が入れば、METは急成長する。市場規模が一気に拡大する。その時、俺たちには市場を知り、人脈を持ち、迅速に動ける人間が必要だ」


彼は真正面から清奈を見つめた。


「清奈、お前がMETの新しいマーケティングディレクターだ」


そして、淡々と付け加えた。


「QVでは、いずれ限界にぶつかる。倉田は決してお前に実権を渡さない。だがMETなら、お前の決断が会社の未来を左右する」


蓮はゆったりと椅子にもたれ、わざと軽い調子で言った。


「まさか、お前がこのまま倉田の下に甘んじるとは思わないけど?」


その言葉は、清奈の野心を巧妙に刺激した。

蓮は、まさに起業家としての胆力と戦略眼を持っていた。


清奈は書類を握る手に、力が入るのを感じた。

――もしMETに資本が入れば、その成長は確実だ。

そして、蓮が差し出したポジションは、確かに魅力的だった。


だが、清奈は慎重な人間だ。

単なる言葉に踊らされるような甘い性格ではない。


彼女はゆっくりと蓮を見上げ、試すような目を向けた。


「悪くない話ね。でも、私はマーケティングディレクターという肩書きだけで満足するつもりはないわ」


彼女ははっきりと自分の望みを口にした。


「私は、METの創業株が欲しい」


蓮の目がわずかに細まる。


「それ相応の対価が必要だ」


彼の声には、一切の妥協の余地がなかった。


清奈はその意味を即座に理解した。

――すべては、取引。


彼女は動じず、指先で書類をなぞりながら、ゆっくりと問いかける。


「……私に、何を求めるつもり?」


蓮は微笑を浮かべながら、静かに立ち上がり、机を回り込んだ。


そして、彼女に向かって一歩、また一歩と近づく。


彼の影がすぐそばに落ちたとき、低く囁かれた言葉が、清奈の耳に届いた。


その瞬間、彼女の瞳孔がかすかに揺れる。


「……本気?」


思わず問い返した彼女を、蓮はじっと見つめたまま、口角をわずかに上げた。


「当然だろう? それに、これはお前にしかできないことだ」


清奈はわずかに息を吐き出す。

この交渉の真意を、彼女はまだ完全には見抜けていなかった。


「……私のこと、よくわかってるのね?」


蓮はくすりと笑い、ふっと陰に紛れるように身を引いた。


「多少の賭けもあるさ」


清奈はゆっくりと頷いた。


「いいわ、乗ってあげる。でも、約束は守ってもらうわよ?」


そして彼女は、窓の外へ視線を向けた。


――そこには、真理奈の冷たい眼差しがあった。

清奈は視線を戻し、ゆっくりと蓮に身を寄せた。その仕草はまるで伸びをする猫のように優雅だった。

彼女の唇がそっと彼の頬に触れる。従順さを滲ませた、軽やかな口づけ。


「これで満足?」


蓮の声は淡々としていたが、その響きには否応の余地がなかった。


「足りないな」


言葉が落ちると同時に、彼は清奈を強く引き寄せた。腕を巻きつけ、その身を完全に支配するように。

清奈が気づいたときには、すでに彼の腕の中に囚われていた。


彼の気配が隙間なく押し寄せ、逃げ道を奪う。まるで、この瞬間をもって何かを宣言するかのように。

清奈の瞳がかすかに揺れ、指先は無意識のうちに彼のシャツの袖を掴んだ。心臓の鼓動が、不規則に跳ねる。


遠くから、その光景を真理奈が静かに見つめていた。

その表情には何の波も立たず、ただ思案しているのか、それとも何かを抑えているのか——。


部屋の外、順平たち三人組は呆然と窓の向こうを見つめていた。

誰もが言葉を失い、まるでMETの歴史に残る"ありえない光景"を目撃したかのようだった。


アリサの顔には、驚愕と落胆が入り混じる。


「蓮のクソ野郎!真理奈のこと好きとか言ってたくせに、たった二週間で清奈と!?ふざけんな!」


バンッ!

手にしていた書類を力任せにデスクへ叩きつける。周囲の視線が一斉に集まるが、彼女は意に介さない。


「お、おい……落ち着けって」


隣の同僚がそっと声をかける。


「落ち着け!?どうやって!?」


アリサの肩が怒りで上下する。


「『縁が切れてなかった』とか言ってたのに?それで数日後には清奈とベタベタ!?バカにしてんの!?」


その目に宿るのは怒りだけでなく、深い失望だった。


「……これじゃ、真理奈があまりにも不憫じゃん……」


珍しく、圭介も毒を吐かない。


「でもさ、俺の見た感じ、真理奈って最初から一度も振り返ってなくね?傷ついたっていう感じもしないし」


「……っ!」


アリサは思わず圭介を睨みつける。


「だからって蓮がクソなのは変わんないでしょ!」


「まあな」


順平は肩をすくめる。


「ただ、真理奈がいつ蓮を本気で信用した?ずっと冷静だったじゃん」


アリサは言い返そうとして、言葉に詰まる。

確かに、真理奈は一度も溺れなかった。最初から最後まで、自分の道を進んでいた。


「……そうならいいけど」


彼女はそう呟いたが、心の奥には割り切れないものが残っていた。


一方で、圭介は手元のコップをくるくると回しながら、静かに言う。


「恋愛なんて結局流動的なもんだよ。蓮は真理奈に本気だったかもしれないし、清奈にも本気かもしれない」


アリサは眉をひそめる。


「でもさ、そんなの早すぎない?もし本当に真理奈のことが好きだったなら、どうしてすぐに清奈に……?」


「好きと行動は別だよ」


圭介は淡々と言う。


「蓮は自分の立場をわかってる。彼は彼自身であると同時に、METのCEOでもある。真理奈は、最初から彼のそばにいる気はなかった。だから、彼もずっと待つわけにはいかない」


その場の空気が重くなる中、順平がまた軽口を叩いた。


「はいはい、倉田の株、また急上昇〜!やっぱ職場恋愛はロクな結末にならねぇな」


アリサはため息をついた。


「……でも、なんか納得いかない」


圭介は薄く笑い、ぽつりとこぼす。


「恋愛は、真剣になったほうが負ける」


アリサは腕を組み、考え込む。


「……もしかして、蓮のこれは作戦なのか?清奈を取り込むための」


圭介は少し考え、ゆっくり答えた。


「可能性はある。ただ、もし蓮が本当に恋愛を駆け引きの道具に使ってるなら、視野が狭すぎるな。ビジネスの世界では、策略は手段にはなるが、感情は決して安定した駒にはならない。……それに、人の気持ちを弄ぶやつは、いつか必ず自分がそれに足をすくわれる」


アリサは机にもたれ、深いため息をついた。


「……恋愛って、資本市場よりもよっぽど不確かね」


圭介もわずかに目を細める。


「資本市場にはまだ法則がある。感情は、法則すらない」


その頃、清奈は上機嫌で部屋を出てきた。

軽やかな足取りに、唇にはかすかな笑みを浮かべている。


真理奈は静かに彼女を見つめた。その眼差しは深く、冷ややかだった。


清奈は首を少し傾け、意味ありげに微笑む。


「彼が呼んでるわよ。入っていいって」

蓮はデスクの向こう側に座っていた。背後の光が彼の輪郭をぼんやりと照らすだけで、表情は影に隠れている。

そのデスクは、まるで二人の間に横たわる深い裂け目のようだった。


真理奈はじっと蓮を見つめ、核心に迫る問いを投げかける。


「私が見たのは、偽のデータですか?」


蓮はすぐには答えなかった。少し首を傾け、何かを考えているように見える。

やがて、静かに口を開いた。


「いや、データに問題はない」


真理奈の胸に、じわりと疲労感が広がった。


「いつまで私を騙すつもりですか?」


蓮の瞳には、どこか哀れみの色が滲んでいた。


「真理奈、俺は君を騙していない」


「METのモデルを外部の会社で使ったら、全然違う結果になったんです」

彼女は蓮を見据えた。声は冷静だったが、その奥には疑念が滲んでいる。

「これを、どう説明するんですか?」


蓮は静かに口を開く。声は低く、どこか優しさすら含んでいた。


「ということは——」


彼はゆっくりと告げる。


「君は機密情報を不正に持ち出したと認めるんだな? それは企業法的にも違法行為だ」


その声音には責める色はない。問い詰めるというより、諭すような響きがあった。


真理奈は背もたれに軽く寄りかかり、表情を変えずに言い返す。


「今それを持ち出すのは、私を脅してるんですか?」


蓮は首を横に振る。


「違う。忠告だ」


そう言うと、彼はわずかに身を乗り出し、影から顔を覗かせた。


「言っただろう? METには、秘密なんて存在しない」


張り詰めた空気が、部屋を支配する。時間の流れが、ひどく遅く感じられた。


蓮は静かに立ち上がると、デスクを回り込んで真理奈の前に立つ。そして、穏やかながらも強い口調で命じた。


「俺が戻るまで、このオフィスを出るな。倉田とも連絡を取るな」


真理奈は蓮を見上げた。その目には、警戒と反発の色が宿っている。


「蓮、私を監禁するつもりですか?」


「違う。これは君のためだ」


真理奈は静かに目を細め、薄く笑った。その唇から、冷ややかな声が落ちる。


「つまらない人ですね」


その言葉には、鋭い棘が潜んでいた。


「もう清奈がいるのに、どうして私に構うんです?」


蓮はゆっくりと上体を起こし、真理奈の言葉の裏にある感情を探るように見つめた。

そして、ふっと笑う。


「清奈は清奈。君は君だ」


彼は一定の距離を取り、淡々と続ける。


「君の代わりなんて、どこにもいない」


真理奈は軽く椅子を後ろに引き、心底呆れたように目を逸らす。


「そのセリフ、清奈にも言いました?」


蓮は微笑を浮かべる。その目には、どこか挑発的な光が宿っていた。


「彼女は違うよ」


窓の外を見ながら、まるで面白いゲームでも眺めているかのような表情を浮かべる。

その視線の先で、清奈がこちらに向かって甘い微笑を返していた。


「彼女は、最初から自分の立場を理解している。それに——」


蓮は再び真理奈に目を向け、わずかに口角を上げる。


「君より、ずっと素直だ」


真理奈の中で、何かが静かに弾ける音がした。


深く息を吸い、冷えた視線を蓮に向ける。


「ご自由に」


蓮の表情には、どこか寂しげな影が落ちた。


「少なくとも、彼女は自分の欲しいものがわかっている」


そう呟くと、彼は無言でブラインドを下ろす。

厚い布が音もなく降りて、外界の光を完全に遮断する。


室内は、閉ざされた密室のように静まり返った。


蓮はドアの前に立ち、最後に一言だけ残して去る。


「少し、一人で考えろ」

真理奈の体が一瞬こわばった。


――彼は一体、どんな人間なのか?


かつて、彼女に優しく寄り添い、「特別な存在」だと思わせた蓮。だが今、その姿はまるで幻のように思えた。


本当の蓮とは、倉田を巧みに陥れ、自らの手で引きずり落とした男。交渉の場では一切の容赦なく相手を追い詰め、倉田を冷静さを失わせた策略家。冷酷で、計算高く、一切の情けを持たない捕食者――それが、蓮の本当の顔。


彼女はようやく気づいたのだ。自分は今まで、蓮のことを何一つ理解していなかったのだと。


そして今、彼はまた彼女をこの場所に閉じ込め、精神を揺さぶってくる。


だが、予想に反し、蓮はすぐに戻ってきた。


彼は真理奈の手を取り、ドアの方へと向かう。


「……!」


真理奈は反射的に手を振り払った。声は冷え冷えとしていた。


「何をするつもり?」


「お前は、俺たちのテストデータを信用していないんだろ?」蓮の声は低く、落ち着いていた。「だったら、今ここで証明してやる」


「……証明?」


「お前が見てきたのは、あくまで数字にすぎない。その数字の裏側にいる“生身の人間”を見せてやるよ」


一瞬、真理奈は言葉を失った。だが次の瞬間、皮肉げに口元を歪める。


「へえ……ずいぶん気前がいいじゃない。企業機密を私に見せる気?」


蓮の表情には、迷いの色はなかった。


「ああ。テストの過程を、お前自身の目で見てこい。被験者も、実際のユーザーも――すべてな」


あまりにも真っ直ぐなその眼差しに、真理奈はわずかにたじろぐ。


短い沈黙の後、彼女は静かに息をついた。


「……いいわ。私の知らない“真実”とやら、確かめさせてもらう」

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