資本市場にはまだ法則がある。感情は、法則すらない
彼女は深く息を吸い込み、スマートフォンを取り出して、湊の番号を押した。
コールが三回鳴った後、電話がつながる。
湊の声はいつものように淡々としていて、落ち着いた口調だった。
「真理奈?」
しかし、真理奈の声は氷のように冷たかった。
「湊、あなた、私に説明があるんじゃない?」
湊は相変わらず淡々としている。
「時には、計画よりも先に、予想外のことが起こるものだよ。」
真理奈は冷笑し、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「回りくどい言い方はやめて。私が知りたいのは、あなたが私を騙していたのか、それともあなた自身も騙されたのか、ただそれだけ。」
湊はしばらく沈黙した後、少しだけ声に確信を込めて言った。
「俺は、騙される側の人間じゃない。」
「じゃあ、残る可能性は二つ——無能か、もしくは別の思惑があるか。」
「俺の力を、君は思っているよりも低く見積もっているようだね。」
「だったら、証明して。」
湊は再び、淡々とした口調に戻った。
「いずれ分かるよ。」
彼との会話はまるで噛み合わない。質問に答えているようで、何も答えていない。最初に感じた落ち着いた信頼感は、今や霧のようにぼやけてしまった。
——この人は信用できない。
真理奈は心の中で、そう結論を下した。
通話を切ると、彼女は周囲を見回し、ふと空虚な気持ちに襲われる。
どこにも行く当てがない。結局、METに戻るしかなかった。
◆
METのオフィスは相変わらず活気に満ちていた。キーボードを叩く音が、絶え間なく響き渡っている。
真理奈は自分のデスクへ向かい、椅子に腰を下ろすと、PCの電源を入れた。
ふと、蓮のオフィスをじっと見つめてしまう。
——「でも、覚えておくといい。METに、秘密なんてない。」
蓮の、あの意味深な言葉が脳裏をよぎる。
もし彼が最初からすべてを見抜いていたとしたら?この状況を操っているのは、彼なのか?
もう我慢できなかった。
真理奈は立ち上がり、蓮のオフィスへ向かう。彼に確かめなければならない。
◆
なんという偶然だろうか。ちょうど彼のオフィスの前にたどり着いたとき、清奈と鉢合わせた。
清奈は口元に微笑を浮かべる。
「奇遇ね。あなたも彼に用が?」
真理奈は答えず、そのままオフィスのドアに手をかけ、押し開けた。
蓮はデスクに座り、横にはコーヒー。誰かを待っていたのは明らかだった。
彼は顔を上げ、真理奈と清奈が並んで立っているのを見ると、一瞬、視線が止まる。
二人はどちらも譲る気配を見せない。
蓮はゆっくりと立ち上がり、二人の間を見渡しながら、真理奈を見つめる。
「真理奈。」
清奈は軽く顎を上げ、いつもの気だるげな口調で言った。
「本当に、それでいいの?」
蓮はわずかに躊躇い、しかし、柔らかな声で真理奈に言った。
「あとで話そう。」
清奈は唇の端を少し持ち上げると、そのままオフィスの中へゆっくりと歩いていく。
そして、さりげなくドアを閉めた。まるで何かを誇示するように。
◆
目の前で扉が閉じる。
真理奈は立ち尽くし、そのまましばらくドアを見つめていた。
…正直、少しだけ落ち込んだ。
だが、すぐに自分を嘲笑する。——何を期待していたの?
彼が自分を優先するはずだと?そんな理由はどこにもない。
もう、昔の関係ではないのだから。
真理奈は深く息を吸い込み、振り返って自分のデスクへと戻る。
今は、感情に振り回されている場合じゃない。
蓮と清奈が何を話していようと、自分は自分のやるべきことを進めるだけだ。
清奈は蓮の向かいに座り、ガラス越しに外を見やった。
――その視線の先には、冷ややかにこちらを見つめる真理奈の姿があった。
「本当に、これでいいの?」
彼女の皮肉めいた問いかけを、蓮は軽く流し、手元の書類をすっと差し出した。
「これを見たほうがいい。お前が本当に気にするべきなのは、こっちだ」
椅子の背にゆったりと身を預け、蓮の視線は鋭く、しかしどこか余裕を感じさせる。
「俺の提案はまだ有効だよ、清奈。じっくり考えるといい」
清奈はすぐに書類をめくった。
――これは……ベンチャーキャピタルの投資意向書!?しかも、業界でも名の知れたSSI!?
つまり、これは……
蓮は落ち着いた口調で続ける。その声音には、全てを掌握している者の余裕があった。
「これは、METの未来を示している。QVとは、まるで次元が違う」
彼は少し前に身を乗り出し、清奈の驚きを楽しむように微笑んだ。
「さて、これで状況ははっきり見えたか?」
清奈は慎重になった。この場で軽々しく答えるべきではない。
「少し待って。いくつか確認させてもらうわ」
すぐに彼女は自身のネットワークを駆使し、SSIの動向を探った。
――本当に、SSIはMETに興味を持っている……!
瞬く間に情勢が大きく動いたのを実感する。
そして同時に、自分の野心が刺激されるのを抑えられなかった。
蓮の声が、さらに低く深く響く。
「好きなだけ確認しろ。俺が提示しているのは、確かなチャンスだ。倉田のような空約束とは違う」
彼は椅子にもたれ直し、長い指をテーブルに置いた。
ただそれだけの動作でも、彼の持つ圧倒的な存在感は揺るがない。
「さあ、決めるのはお前だ」
清奈は窓の外をちらりと見た。
「……なぜ私? 真理奈こそ、あなたが特別扱いしている人じゃないの?」
「清奈、公私を混同するな」
蓮の声は淡々としていた。
「お前のQVでの立場は調べてある。もしQVが本当にお前を評価していたら、今頃ここにはいないはずだろう? だが、お前の政府や医療機関への人脈、パブリックな交渉力、資本市場での嗅覚……METにとっては、どれも極めて価値がある」
彼はさらに身を乗り出し、低く囁く。
「倉田の計画は、もはや手の施しようがない。だがMETは、まさに飛躍の直前にいる」
蓮は指先でテーブルを軽く叩いた。
「お前をここに呼んだのは、その飛躍を確実なものにするためだ」
清奈は静かに書類を閉じ、瞳を深く細めた。
「もし私があんたにつくなら、QVとは完全に決裂する。倉田とも、もう後戻りはできない」
彼女は小さく笑い、蓮をじっと見つめた。
「まさか『未来』なんて曖昧なものだけで、私を動かせると思ってるわけじゃないわよね?」
彼女は、彼が差し出す本当の条件を待った。
蓮は鋭い眼差しで清奈を見据え、静かに言った。
「SSIの資本が入れば、METは急成長する。市場規模が一気に拡大する。その時、俺たちには市場を知り、人脈を持ち、迅速に動ける人間が必要だ」
彼は真正面から清奈を見つめた。
「清奈、お前がMETの新しいマーケティングディレクターだ」
そして、淡々と付け加えた。
「QVでは、いずれ限界にぶつかる。倉田は決してお前に実権を渡さない。だがMETなら、お前の決断が会社の未来を左右する」
蓮はゆったりと椅子にもたれ、わざと軽い調子で言った。
「まさか、お前がこのまま倉田の下に甘んじるとは思わないけど?」
その言葉は、清奈の野心を巧妙に刺激した。
蓮は、まさに起業家としての胆力と戦略眼を持っていた。
清奈は書類を握る手に、力が入るのを感じた。
――もしMETに資本が入れば、その成長は確実だ。
そして、蓮が差し出したポジションは、確かに魅力的だった。
だが、清奈は慎重な人間だ。
単なる言葉に踊らされるような甘い性格ではない。
彼女はゆっくりと蓮を見上げ、試すような目を向けた。
「悪くない話ね。でも、私はマーケティングディレクターという肩書きだけで満足するつもりはないわ」
彼女ははっきりと自分の望みを口にした。
「私は、METの創業株が欲しい」
蓮の目がわずかに細まる。
「それ相応の対価が必要だ」
彼の声には、一切の妥協の余地がなかった。
清奈はその意味を即座に理解した。
――すべては、取引。
彼女は動じず、指先で書類をなぞりながら、ゆっくりと問いかける。
「……私に、何を求めるつもり?」
蓮は微笑を浮かべながら、静かに立ち上がり、机を回り込んだ。
そして、彼女に向かって一歩、また一歩と近づく。
彼の影がすぐそばに落ちたとき、低く囁かれた言葉が、清奈の耳に届いた。
その瞬間、彼女の瞳孔がかすかに揺れる。
「……本気?」
思わず問い返した彼女を、蓮はじっと見つめたまま、口角をわずかに上げた。
「当然だろう? それに、これはお前にしかできないことだ」
清奈はわずかに息を吐き出す。
この交渉の真意を、彼女はまだ完全には見抜けていなかった。
「……私のこと、よくわかってるのね?」
蓮はくすりと笑い、ふっと陰に紛れるように身を引いた。
「多少の賭けもあるさ」
清奈はゆっくりと頷いた。
「いいわ、乗ってあげる。でも、約束は守ってもらうわよ?」
そして彼女は、窓の外へ視線を向けた。
――そこには、真理奈の冷たい眼差しがあった。
清奈は視線を戻し、ゆっくりと蓮に身を寄せた。その仕草はまるで伸びをする猫のように優雅だった。
彼女の唇がそっと彼の頬に触れる。従順さを滲ませた、軽やかな口づけ。
「これで満足?」
蓮の声は淡々としていたが、その響きには否応の余地がなかった。
「足りないな」
言葉が落ちると同時に、彼は清奈を強く引き寄せた。腕を巻きつけ、その身を完全に支配するように。
清奈が気づいたときには、すでに彼の腕の中に囚われていた。
彼の気配が隙間なく押し寄せ、逃げ道を奪う。まるで、この瞬間をもって何かを宣言するかのように。
清奈の瞳がかすかに揺れ、指先は無意識のうちに彼のシャツの袖を掴んだ。心臓の鼓動が、不規則に跳ねる。
遠くから、その光景を真理奈が静かに見つめていた。
その表情には何の波も立たず、ただ思案しているのか、それとも何かを抑えているのか——。
部屋の外、順平たち三人組は呆然と窓の向こうを見つめていた。
誰もが言葉を失い、まるでMETの歴史に残る"ありえない光景"を目撃したかのようだった。
アリサの顔には、驚愕と落胆が入り混じる。
「蓮のクソ野郎!真理奈のこと好きとか言ってたくせに、たった二週間で清奈と!?ふざけんな!」
バンッ!
手にしていた書類を力任せにデスクへ叩きつける。周囲の視線が一斉に集まるが、彼女は意に介さない。
「お、おい……落ち着けって」
隣の同僚がそっと声をかける。
「落ち着け!?どうやって!?」
アリサの肩が怒りで上下する。
「『縁が切れてなかった』とか言ってたのに?それで数日後には清奈とベタベタ!?バカにしてんの!?」
その目に宿るのは怒りだけでなく、深い失望だった。
「……これじゃ、真理奈があまりにも不憫じゃん……」
珍しく、圭介も毒を吐かない。
「でもさ、俺の見た感じ、真理奈って最初から一度も振り返ってなくね?傷ついたっていう感じもしないし」
「……っ!」
アリサは思わず圭介を睨みつける。
「だからって蓮がクソなのは変わんないでしょ!」
「まあな」
順平は肩をすくめる。
「ただ、真理奈がいつ蓮を本気で信用した?ずっと冷静だったじゃん」
アリサは言い返そうとして、言葉に詰まる。
確かに、真理奈は一度も溺れなかった。最初から最後まで、自分の道を進んでいた。
「……そうならいいけど」
彼女はそう呟いたが、心の奥には割り切れないものが残っていた。
一方で、圭介は手元のコップをくるくると回しながら、静かに言う。
「恋愛なんて結局流動的なもんだよ。蓮は真理奈に本気だったかもしれないし、清奈にも本気かもしれない」
アリサは眉をひそめる。
「でもさ、そんなの早すぎない?もし本当に真理奈のことが好きだったなら、どうしてすぐに清奈に……?」
「好きと行動は別だよ」
圭介は淡々と言う。
「蓮は自分の立場をわかってる。彼は彼自身であると同時に、METのCEOでもある。真理奈は、最初から彼のそばにいる気はなかった。だから、彼もずっと待つわけにはいかない」
その場の空気が重くなる中、順平がまた軽口を叩いた。
「はいはい、倉田の株、また急上昇〜!やっぱ職場恋愛はロクな結末にならねぇな」
アリサはため息をついた。
「……でも、なんか納得いかない」
圭介は薄く笑い、ぽつりとこぼす。
「恋愛は、真剣になったほうが負ける」
アリサは腕を組み、考え込む。
「……もしかして、蓮のこれは作戦なのか?清奈を取り込むための」
圭介は少し考え、ゆっくり答えた。
「可能性はある。ただ、もし蓮が本当に恋愛を駆け引きの道具に使ってるなら、視野が狭すぎるな。ビジネスの世界では、策略は手段にはなるが、感情は決して安定した駒にはならない。……それに、人の気持ちを弄ぶやつは、いつか必ず自分がそれに足をすくわれる」
アリサは机にもたれ、深いため息をついた。
「……恋愛って、資本市場よりもよっぽど不確かね」
圭介もわずかに目を細める。
「資本市場にはまだ法則がある。感情は、法則すらない」
その頃、清奈は上機嫌で部屋を出てきた。
軽やかな足取りに、唇にはかすかな笑みを浮かべている。
真理奈は静かに彼女を見つめた。その眼差しは深く、冷ややかだった。
清奈は首を少し傾け、意味ありげに微笑む。
「彼が呼んでるわよ。入っていいって」
蓮はデスクの向こう側に座っていた。背後の光が彼の輪郭をぼんやりと照らすだけで、表情は影に隠れている。
そのデスクは、まるで二人の間に横たわる深い裂け目のようだった。
真理奈はじっと蓮を見つめ、核心に迫る問いを投げかける。
「私が見たのは、偽のデータですか?」
蓮はすぐには答えなかった。少し首を傾け、何かを考えているように見える。
やがて、静かに口を開いた。
「いや、データに問題はない」
真理奈の胸に、じわりと疲労感が広がった。
「いつまで私を騙すつもりですか?」
蓮の瞳には、どこか哀れみの色が滲んでいた。
「真理奈、俺は君を騙していない」
「METのモデルを外部の会社で使ったら、全然違う結果になったんです」
彼女は蓮を見据えた。声は冷静だったが、その奥には疑念が滲んでいる。
「これを、どう説明するんですか?」
蓮は静かに口を開く。声は低く、どこか優しさすら含んでいた。
「ということは——」
彼はゆっくりと告げる。
「君は機密情報を不正に持ち出したと認めるんだな? それは企業法的にも違法行為だ」
その声音には責める色はない。問い詰めるというより、諭すような響きがあった。
真理奈は背もたれに軽く寄りかかり、表情を変えずに言い返す。
「今それを持ち出すのは、私を脅してるんですか?」
蓮は首を横に振る。
「違う。忠告だ」
そう言うと、彼はわずかに身を乗り出し、影から顔を覗かせた。
「言っただろう? METには、秘密なんて存在しない」
張り詰めた空気が、部屋を支配する。時間の流れが、ひどく遅く感じられた。
蓮は静かに立ち上がると、デスクを回り込んで真理奈の前に立つ。そして、穏やかながらも強い口調で命じた。
「俺が戻るまで、このオフィスを出るな。倉田とも連絡を取るな」
真理奈は蓮を見上げた。その目には、警戒と反発の色が宿っている。
「蓮、私を監禁するつもりですか?」
「違う。これは君のためだ」
真理奈は静かに目を細め、薄く笑った。その唇から、冷ややかな声が落ちる。
「つまらない人ですね」
その言葉には、鋭い棘が潜んでいた。
「もう清奈がいるのに、どうして私に構うんです?」
蓮はゆっくりと上体を起こし、真理奈の言葉の裏にある感情を探るように見つめた。
そして、ふっと笑う。
「清奈は清奈。君は君だ」
彼は一定の距離を取り、淡々と続ける。
「君の代わりなんて、どこにもいない」
真理奈は軽く椅子を後ろに引き、心底呆れたように目を逸らす。
「そのセリフ、清奈にも言いました?」
蓮は微笑を浮かべる。その目には、どこか挑発的な光が宿っていた。
「彼女は違うよ」
窓の外を見ながら、まるで面白いゲームでも眺めているかのような表情を浮かべる。
その視線の先で、清奈がこちらに向かって甘い微笑を返していた。
「彼女は、最初から自分の立場を理解している。それに——」
蓮は再び真理奈に目を向け、わずかに口角を上げる。
「君より、ずっと素直だ」
真理奈の中で、何かが静かに弾ける音がした。
深く息を吸い、冷えた視線を蓮に向ける。
「ご自由に」
蓮の表情には、どこか寂しげな影が落ちた。
「少なくとも、彼女は自分の欲しいものがわかっている」
そう呟くと、彼は無言でブラインドを下ろす。
厚い布が音もなく降りて、外界の光を完全に遮断する。
室内は、閉ざされた密室のように静まり返った。
蓮はドアの前に立ち、最後に一言だけ残して去る。
「少し、一人で考えろ」
真理奈の体が一瞬こわばった。
――彼は一体、どんな人間なのか?
かつて、彼女に優しく寄り添い、「特別な存在」だと思わせた蓮。だが今、その姿はまるで幻のように思えた。
本当の蓮とは、倉田を巧みに陥れ、自らの手で引きずり落とした男。交渉の場では一切の容赦なく相手を追い詰め、倉田を冷静さを失わせた策略家。冷酷で、計算高く、一切の情けを持たない捕食者――それが、蓮の本当の顔。
彼女はようやく気づいたのだ。自分は今まで、蓮のことを何一つ理解していなかったのだと。
そして今、彼はまた彼女をこの場所に閉じ込め、精神を揺さぶってくる。
だが、予想に反し、蓮はすぐに戻ってきた。
彼は真理奈の手を取り、ドアの方へと向かう。
「……!」
真理奈は反射的に手を振り払った。声は冷え冷えとしていた。
「何をするつもり?」
「お前は、俺たちのテストデータを信用していないんだろ?」蓮の声は低く、落ち着いていた。「だったら、今ここで証明してやる」
「……証明?」
「お前が見てきたのは、あくまで数字にすぎない。その数字の裏側にいる“生身の人間”を見せてやるよ」
一瞬、真理奈は言葉を失った。だが次の瞬間、皮肉げに口元を歪める。
「へえ……ずいぶん気前がいいじゃない。企業機密を私に見せる気?」
蓮の表情には、迷いの色はなかった。
「ああ。テストの過程を、お前自身の目で見てこい。被験者も、実際のユーザーも――すべてな」
あまりにも真っ直ぐなその眼差しに、真理奈はわずかにたじろぐ。
短い沈黙の後、彼女は静かに息をついた。
「……いいわ。私の知らない“真実”とやら、確かめさせてもらう」




