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公爵夫人の微笑み

「あら?私のアサシンドール……標的を一人逃したのね?」


東屋の中で、報告に来たアサシンドールを見ると不愉快そうに私は眉を潜めた。


私の前に、感情の籠らない無表情で膝を付く男は、かつて王立アカデミーの卒業パーティーで婚約破棄をした男だったの。


金色の髪を一つに結わえ、私の主人と良く似た顔立ちの青年。


そう、生前の名はカリス・フォン・ドュース。


ドュース王国の王族であり、元第一王子。


そして……クエスの兄でもあったわ。


私は目を瞑り当時を思い出す。






この男は……馬鹿な男爵令嬢に誑かされ、私に婚約破棄をして冤罪による断罪と言う暴挙を起こしたの。


しかも、熱に浮かされた側近の男達と共にね。


男爵令嬢カルイーニャは、終始私を悪役令嬢だと意味不明な事をほざき、自分はヒロインだと言っていたわ。


けど、これは王家と我がシュバルツ侯爵家の契約による婚約だったの。


契約違反の代償は、不貞を犯したカリスと、その原因を作ったカルイーニャ、そして主であるカリスを諌めず、同じく誑かされた側近達の命と死よ。


誇り高く、痛烈さと冷酷さを併せ持つ我がシュバルツ侯爵家は屈辱を与えた愚か者を赦さない。


私は直ぐに、可愛い可愛い死霊達を召喚したわ。


私の周囲に広がる魔法陣が紅い血の色として光ると、そこから無数の手が出てきて這い上がる。


現れたのは、私達と同じ年頃の令息や令嬢達。


見た目は普通の人間と変わらないけれど、違うのは生気がない顔色だけ。


……えぇ、そうなの。


こいつらはカルイーニャの取り巻きだった下級貴族の令息や令嬢の成の果て。


男爵や子爵の令息や令嬢ごとき下等な身分の癖に、侯爵令嬢である私に嫌がらせを繰り返したばかりか、私に暴力を振るおうとしたのよ?


当然許されることではないわ。


こいつらの両親達は、事実を知って私やシュバルツ侯爵家に謝罪し、我が子をその場で貴族籍から消した。


後は、煮るなり焼くなり判断を任された私だったけど……。


私は新しい玩具が手に入って喜んだわ。だから直ぐに殺して綺麗な状態で上位のアンデッドに作り替えた。


上位のアンデッド、グレイターアンデッドは下位のアンデッドと違って肉体は人間と変わらないまま、食事はするし身体機能もそのまま変わらないの。


違うのは一度死んでるかどうかだけ。


私の可愛いアンデッド達によって、カリスやカルイーニャ達はあっという間に殺された。


死んだカリスを見て私は涙を一筋流す。


カリスは頭脳明晰で剣術にも優れ、やがては立派な国王としての未来もあり、私はカリスの為に王子妃教育を頑張った。


愛してるのに、届かなかったこの願いや気持ちは悔しさに溢れた。


その時、私のアンデッドが一人側に来ると、膝を着いて私にハンカチを差し出す。


確か……こいつは……私の死霊魔術を嫌悪し、私に普通の令嬢になれと五月蝿く言って来た侯爵令息ね。


「……貴方は私の気持ちが分かるのね」


私はハンカチを受け取ると、微笑み手を差し出した彼の手を取るとエスコートされながら会場を出た。


勿論、殺したカリス達の死体をアンデッド化して……。



事件から翌日、国王陛下直々に謝罪され、此度の契約違反はシュバルツ侯爵家を毛嫌いした王妃も絡んでいた。


契約違反には死を。


勿論例外など無い。


王妃の元にも、既にアンデッド達を向かわせたので心配はいらない。


跡継ぎは第二王子が繰り上がり、第三王子は事件を受けて謂れの無い醜聞がついた私に責任を取り、私と婚約を結ぶとクオルナ公爵家を継ぐ事になった。



第三王子の彼は、いつも春の陽だまりのように笑って居た。


そう、私に笑い掛けてくれた。


アンデッドにした侯爵令息と、彼は旧知の仲で間に入ってくれて仲を取り持ってくれたのは嬉しかった。



だから私は彼と結婚して、三人の子宝に恵まれた。



馬鹿な一族は、クオルナ公爵家の寄り子にも居たみたい。


訓練を重ねたアンデッド達を私はアサシンドールと呼び、部隊を二部隊に分けたの。


侯爵令息を隊長にした精鋭部隊はクオルナ公爵家の屋敷に、カリスを隊長にした第二部隊をスロバキア男爵家に向かわせたのに。


寄りもよってサキアの弟一人を逃すなんて。


「ユーグ」


私は溜め息を着いて彼の名を呼ぶ。


「御呼びですか?マリエル様」


直ぐに彼が音もなく現れた。


いつもの黒い装束ではなく、コックコートを着た茶髪の髪を短髪にした彼は膝を付く。


「サキアの弟、ジュスタは逃げたわ。カリス達がしくじったみたい。直ぐに他のアサシンドールと、クエスの諜報部隊とも協力して探して」


苛立ちながら私は命じた。


「承知致しました」


ユーグは恭しく返事をすると、落ち込んだ様子を見せるカリスの襟首を掴んで引き摺るように去っていった。


……不思議ね、ユーグは今も変わらず私に仕えてくれてるわ。


私は新たにアサシンドールのメイドが淹れ直した紅茶を少し飲むと、ユーグの様子に微笑んむのだった。














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