許さない
スロバキア男爵である父上を筆頭に、姉上を含めたスロバキア一族が隣国マングエル王国と結び付いて反乱を画策していたのは知っていた。
父上も姉上も、クオルナ公爵家に取って変わることを夢想していた。
たかだか、男爵一族が夢見て実行に移しても無駄なのに。
クオルナ公爵家の現公爵は臣下に降った王弟殿下だし、マリエル公爵夫人は死霊魔術師の名門一族シュバルツ侯爵家の令嬢だ。
クオルナ公爵家は、代々裏の王家と詠われる諜報暗殺に長けた闇の一族であり、それに死霊魔術師の血筋も入れた今は恐れる物等無い。
……最初から分かっていた、無謀だと言うのは……
唐突に僕はスロバキア男爵家の終焉を見ることになる。
『カロス、何だか今日は朝から嫌な予感がするわ。杞憂であれば良いのだけど……この袋にあるだけ私の資金を入れたわ。貴方はこの金を持って市中に逃げなさい』
高名な占い師だった亡き母上と同じ直感を持つ姉上は、公爵家に出仕する前僕に金袋を渡すと市中に逃がした。
それから数時間、市中を歩き回った僕はスロバキア男爵家の様子を遠くから見ることにする。
生気がない少し白い顔をした黒装束を着た者達が……スロバキア男爵家に入って行った。
僅かな喧騒と、断末魔、そして窓ガラスが割られ、やがてスロバキア男爵家に火の手が上がる。
……あの生気の無い奴らは何者だ!?……まさかあれが……アサシンドール!?
僕は気付いて膝を着く。
冷酷非道な公爵夫人マリエルの存在を思い知らされ、何度も拳を地面に打ち付けた。
……許さない…絶対に……
この日を境に、僕は逆恨みだと分かってても復讐心を持つことになる。