何が起きたのか分からなかった
気付いたら、恐ろしい魔人が僕の結界を破壊していた。
父上をユーグさんが庇って、兄上を叔父上が庇った。
僕はアキレスに庇われて直撃を回避したようだ。
燃え広がる屋敷、アサシンドール達は何とか立ち上がると、他の使用人や諜報部隊達の安否確認をしていく。
「たっ大変です!!アリステシアお嬢様がっ!!」
胴体が千切れたのか、上半身だけで這ってきたカルイーニャが叫ぶ。
「何だって!?」
父上は目を見開いて青ざめる。
「くそっ!!」
ユーグさんが拳を強く握り締めた。
「……不味い……アリステシアに何かあれば……」
叔父上も蒼白になる。
……アリステシア……!!
僕は心の中で名を叫ぶ。
そう、たった一度だけ。
幼かった僕は、一年の中で最も魔が近付く魔月の日に、アリステシアの本当の姿を見たことある。
1歳になったばかりのアリステシアは、その日だけいつも装着している腕輪をはめてなかった。
虚空を見詰めたアリステシアは、僕に気付いて微笑むと、瞬く間に僕より歳上の少年へと変わった。
『偽りの封印は長くは持たない。今の俺と、過去の俺の記憶が一つになった時……この世界は荒れるだろうな』
不敵に笑ってアリステシアは僕に言うと、真っ直ぐ見据える。
『もし、今の俺が悪に走ったら……お前はどうする?』
『僕はアリステシアの兄だから兄として、妹を止めて見せるよ。……偽りの妹だろうと実の弟に変わりないからね』
僕はアリステシアに答えた。
『ははっ、面白い兄貴だな。そんじゃ……その時は任せたぜ?兄ちゃん』
笑ってアリステシアは答えると、再び可愛い一歳のアリステシアに戻って眠る。
両親が何を隠してるのか、僕はあの日全て知った。
アリステシアの性別が本来男で、アリステシアは世界を滅ぼさんとする【絶望の魔剣士】だと言うことも。
だから、アリステシアの為に僕は強くなった。
いつものアリステシアで居て欲しかったから。
だけど、アリステシアの魔力を感じて僕は後悔する。
……全部無駄になってしまったと。




