プロローグ
死は平等に訪れるって……嘘ね。
だって私は……
死にたくないのに死んだわ。
犯人は元編集者。
私の担当だったんだけど、私の書籍の売り上げを会社に過小申告していて大半を横領していたのよ。
会社にバレて解雇され、逮捕も秒読みだったんだけれど……まさか沢山の人々が行き交う大通りで私を刺すなんてね。
気が遠くなる意識の中、私は一つだけ大きな後悔をしていた。
長年私が書いていた長編ファンタジー冒険物語……【LASTFANTASYールウと十二大竜】を最後まで書けなかった事を。
主人公ルウは、代々十二大竜の一柱ライトニングドラゴンの神殿を守る神官の一族として双子の妹ルナと共に産まれた。
十歳の時、邪竜デスガリウスが率いる邪竜教に村を襲撃されてしまう。
両親や妹を殺され、ルウは悲しみと絶望の中でライトニングドラゴンの力を求めるの。
本来なら、ルウは正しく十二大竜の主として目覚める筈だったのに……。
絶望と復讐、狂気によってライトニングドラゴンや他のドラゴン達にも呪を掛けその力を変質させてしまう。
ルウの呼び掛けに答えたライトニングドラゴン【ヒジリ】は、ルウを主と認め契約を結びルウに自らの姿を剣に変えた。
ルウの振るうライトニングソードは、慈悲や慈愛を失い、呪の力で破壊の権化と化していた。
邪竜デスガリウスは、多くの配下を失いながらもルウの顔を見て笑い逃げる。
そこから、ルウの十二大竜達を探して力にする旅が始まったの。
全ては……邪竜デスガリウスに復讐を果たして倒すための冒険。
十二大竜までは仲間にした所で、後は最終章だったのに……残念だわ。
……ルウに笑顔取り戻して上げたかったな……。
そして私は眠るように目を閉じる。
「オギャアオギャア!!」
……ん?……オギャア?
次に目を覚ました私は、自分の口からでる赤ちゃんの声にびっくりする。
「クエス公爵閣下、マリエル公爵婦人、おめでとう御座います。お嬢様が産まれました」
目が見えないけど、女性の声がした。
「あぁ……遂に念願の娘が……」
「良かったわ……まあまあ……なんて可愛い子なのでしょう」
私は目が見えないけど、両親達に歓迎されて家族の一員に加わったのだと分かった。
それが、この世界に始めて生を受けた瞬間だった。
クオルナ公爵家公爵令嬢アリステシアとして。