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それは俺の前にいた奴が、『鑑定』を使ってその辺の石を視ようとした時だった。ただの鑑定だし、異世界ならよくある初日のチュートリアル。だと、思っていた。
『アカシックレコードへの接続を感知。対象の排除を実行します』
そいつは消えた。消えるように消えたとしか言いようがない。そこに確かにあった存在が初めから無かったように消失したのだ。
それからの俺たちは絵に描いたような混乱を極めた。修学旅行のバスに乗っていた四〇人が転落、宴会場のような広間に集められ、問答無用に〝スキル〟をインストールされた後、白い門を潜らされた。
事が起こってから終わるまで、誰も話さなかった。話せなかった。
門を潜った俺達の前にあったのは、何だろう、これを口にするのは己の正気を疑う必要があるのだが、所謂異世界という奴であり、その異形を思い知らされた。
ゲームのような世界に、ひのきのぼうも携えずに立ったことがあるならまだ少しは理解して貰えるかも知れないが、翼竜が思うさまに翔び、ゴブリンをオークが蹂躙している眼下の現状を、はいこれがあなた達の生きていく世界ですと、目の前に展開されて冷静で居られるか。
気づけば全員が、それぞれのステータスウィンドウを開き、スキル欄の詳細を死物狂いで読み込んでいる。スキル、よく言えば天啓のような絶対的能力。悪く言えば呪い。それを与えられた事を識っている。それを使わなければ生き残れない可能性が目の前にある。それを与えた存在の善悪を問うている場合ではない。と、誰しもが考えてしまった。
与う者と奪う者、対立する存在がある。その原理に気づかずに能力を行使した者は抹消された。この異世界のルールを、与えたモノを凌駕する存在の実存を思い知らされた、瞬間である。
そしてそれを経て、俺はどうしたらいいのだろう。この、〝神殺し〟という、もしかしたらあの存在を滅する事すら叶うのかも知れない、このスキルを。
使った瞬間に抹消されるのが決定されているこの異世界で、そもそも生き残ること自体が超絶に困難な事必至な、それに加えて使ったら死ぬスキル持ちの同級生を、どうしたらいいのだろう。
本当に、どうしたらいい?