表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

暗い道

 あれは今から10年以上前。

 家族から離れ一人暮らしを始めて1ヶ月程過ぎた5月の頭。


 専門学校からの帰り道、日も沈み人気のない真っ暗な道を自宅へと急いでいた。

 数十m単位でしか設置されていない街灯と、中途半端に灯りがあるせいでより濃くなった闇の中を急ぎ足で歩く僕。


 自宅に遊びに来ている彼女に早く会いたかった僕は、他に誰もいないその道を音楽を聴きながら歩いていたんだ。


 ふとイヤホン越しに足音が聞こえた。


 誰もいないはずなのに響く複数人の足音。それも数人ではなくて何十人も居るような足音。

 足並みが揃っているということはなく、靴音も揃っていない。街の喧騒を足音以外排除したような。


 イヤホンを外してみると足音はしない。

 振り向くと背後には闇と街灯の照らす路面。遠くには民家の明かりが幽かに見える。


 なんとなく音楽を聴く気分ではなくなったのでイヤホンを外して歩き出すと背後に人の気配。


 振り向く。誰もいない。

 だけど確かに人の気配を感じた。


 前を向いて再度歩き出す。

 今度は人の気配はしなかった。


「何だったんだろう」


 思わず口に出す。ふと気がつくと道路脇に墓地があった。


 こんなところに墓地なんてあったっけ?


 思わず立ち止まって考える。

 次の瞬間後ろから複数の手に強く押された。


 その勢いで前に一歩踏み出す。

 そこに地面は無かった。


 落ちていく感覚に思わず腕を前に伸ばす。腕を伸ばした先には地面があり、そのお陰で落下の勢いが弱くなる。

 無意識にバタつかせていた脚が足場になりそうな突起を見つけたのでそこを足掛かりに地面へと這い上がる。


 無事這い上がれた僕は自分がどこに落ちるところだったのかと振り返る。そこには蓋の外されたマンホールがあった。


 誰かのイタズラかと思い、次の瞬間顔を上げて自分を突き落とした誰かを探す。


 誰も居なかった。


 逃げたのかと辺りを見回して気がつく。墓地が無くなってた。記憶通りの田畑のシルエット。


 わけが分からないと視線を落とした先にはマンホールすらなかった。


 指先から肘にかけてぴりぴりと痛いので街灯の下に移動して腕を見ると、大きな擦り傷ができていた。


 疲労した身体を引き摺るように自宅に帰ると、玄関扉を開ける前に中から彼女が出てきて塩をかけてきた。掛けるというより叩きつけると言った方がぴったりな勢いだったけど。


 落ち着いてから彼女に話を聞いてみたら、僕が帰って来る数分前から線香の匂いが漂ってきていたらしい。

 それが段々と強くなってきたのでお清めの塩を用意し始めたら玄関から血の臭いと線香の匂いが漂ってきたということで、塩を撒こうと玄関扉を開けたら眼の前にどう見ても原因である僕がが居たんだそう。


 翌日、彼女と一緒に前夜の出来事があった場所を見に行ったら、やはり周囲は田畑と草叢しかなかったし、マンホールも無かった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ