「ルドルフ・カラシニコフには理不尽な話」・4
「……え?」
父さんも母さんも、川岸に倒れたまま、ピクリとも動かない。
二人が倒れてる周りには、砂利の隙間に、こんこんと血溜まりが広がってる。
「……と……父、さん……?」
返事はない。
「……お、おい……母……さん……?」
返事はない。
まだ昼間だっていうのに、川岸はみるみる暗くなってく。重苦しい雲が、太陽を隠したんだ。
夜みたいに暗くなったとたん、ゾンビがヨタヨタと、両親に群がってきた。
「おいッ! 返事しろって、父さんッ! 母さんッ!」
二人に駆け寄ろうとした瞬間――
エイダンに、肩を、
痛いくらい、強く、掴まれた。
怖え。
怖えっていうか――知らねえ。
こいつ、こんな馬鹿力、あったっけ?
俺の身体は――ゾッとするくらい、なすすべなく、引きずり戻された。
銃声が、五発、立て続けに、鳴った。
「ラウル! ちゃんと前を見なきゃダメだよ! あんなにリビングデッドがいるのに近づくなんて……ふふっ、ぼんやり歩いていいのは、街の中だけだよ」
ゾンビがドサドサ倒れ伏して、四体動かなくなった。
一体だけ、頭が半壊のまま動いてる。
エイダンは片手で拳銃を構えると、もう一発、撃ち込んだ。
「さあ、お待たせ! これで全部、仕留めきったよ!」
ドサッーー最後の一体が、砂利の上にひっくり返って、動かなくなった。
あたりは急に、静かになった。
川が激しく流れる音だけが、雑音みたいに耳につく。
エイダンは銃をホルスターに戻すと、爽やかな笑顔を見せてきた。
「はははっ! さすがに君も、こればっかりは『予想外だ!』って驚いてくれたかな? 正解は、君の両親を仕留めておいたんだ! だからもう、君は両親のことで悩まなくていいんだよ!」
その言葉を聞いて、頭から、スーッと血の気が引く。
恐る恐る、俺は親友に目を向けた。
「……エイダン……お前、何、を……?」
「ふふっ、何言ってるんだよ、こんなの当たり前じゃないか! 本当にいつも君って、親の話になるだけで、すごくつらそうな顔してたから……ぼくなりに、君の力になる方法を考えてみたんだ!」
だんだん目眩がしてきて、話が半分も頭に入らねえ。
ああ、こいつはきっと、エイダンの偽物に違いねえ。だってあそこに倒れてんのは、立派な角が生えたトナカイじゃねえんだぞ。
なのにこの野郎、得意満面に笑って、「君のため、君のため」って言ってる。
だったら多分、こいつは偽物だ。
頼むから、偽物であってくれ。
けど、親友そっくりの野郎は――ふと真剣な目になると、
俺の両肩に手を置いてきた。
その声は、不思議と、すっと頭に入ってくる。
「ラウル……ひとりで悩んでる君を見てると、ぼくもすごく、つらかったよ。君は黙って、ひとりで耐えようとしてたけど……もう見て見ぬふりは、できないよ」
エイダンは俺を見上げると――はにかんだ笑みを見せた。
「……ははっ、ごめんね。またぼく、お節介焼いちゃったかな?」
それを聞いて、愕然とした。息が止まるくらい、ショックだった。
何でだよ。何でなんだよ。こいつは間違いなく、俺の知ってる親友だ。
俺が誰にも話せない悩みを溜め込んでると、エイダンだけは気づいてくれるんだ。それでさり気なく、助けになってくれるんだ。
どれだけ面倒でも、どれだけ骨が折れても、途中で投げ出したことは一度もねえ。最後まで付き合って、乗り越える力になってくれる。
それで悩みが解決すると――エイダンはいつも、この最高の笑顔を見せてくれる。
俺が笑顔になったのを見て、まるで自分のことみたいに安心して、一緒に喜んでくれるんだ。俺は間違いなく、その最高の笑顔を見てるはずだ。なのに――。
一番の親友が、俺の幸せを願って仕留めてくれた、最高の獲物が――これだ。
本当にこいつは、騙し絵みたいな顔してる。
俺が言葉を失ってると、エイダンは俺の肩を叩いて、ひたすら得意げに笑ってた。
「あっはははははははは! よかった、ラウルがそんなに驚いてくれて大成功だよ! だって君が■■■■、■■■に、■■■で■■■■■■! ■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
エイダンが何言ってんだか、いみわかんねえ。だって、おれ、りょうしんにこれから、あやまんなきゃならねえのに。それに、とおさんにじゅうのこと、ありがとうっていわなきゃならねえし。なのに、なんで、こんなことになっちまって。
だって、だってよ、だってこいつは――。
「ラウル、君ならぼくのこと……分かってくれるよね?」
人生は理不尽だ。その意味がようやくわかった。
俺の人生は、どう考えたって、平凡な俺には理不尽なくらい――
恵まれすぎていた。




