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儚き焔   作者: 鈴音あき
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「これでスッキリしたわっ」


「兄者、彬が消えたんだ。我等にも出世が見込めますな」


「当たり前だ!」


「ところで、コレ、どうするかの。何処かに棄てた方が良いだろうか」


遙和が彬の身体を足で蹴りながら処分を考えた。


「いいだろう、このままで。内大臣家と父上への見せしめになると思う。ただの人切りに殺された間抜けな少将!都人のよい笑い者になろうなあ!」


「あ、待ってくれ兄者!」


ガハガハと笑いながら来た道を戻っていく高見を、遙和は急いで後を追いかけていった。


「…………ユ…………ル…セ……ヌ。………………許せヌぞ………………兄ウエ…」


殺されたはずの彬の指がピクリと動いた。


気のせいではなく……。


彬の周りの空気がゆらりと揺れた。


凄まじいまでの殺気が渦巻いていく。


美男と謳われた彬の顔は、夜叉のように引きつり忿怒する。


恨みの情を表す蒼白い光を身体から放ち、彬はむくりと起き上がった。


形相はもう、人とは判断出来ない……。


日下部彬は、異形…………鬼となった。



「……っ!」


あまりの恐ろしさに、匠は飛び起きた。


「はっ!……はっ!……はっ!……はあっ!」


エアコンで適温に設定されているのに、汗が全身から噴き出して止まらない。


「うっ!」


動悸が激しくて頭痛も酷い。


また、夢の続き……そして、自分であるらしい彬が恨みで鬼になってしまった。


「うえっ!……うっ!……はあっ!……」


恨みの気持ちが匠の指を震わせ、息を乱している。


吐き気を催してきたのをなんとか堪えてみるが。


「うえっ!………うっ!………ううっ!………ううっ!…くっ!…………………………ガハっ!」


気持ちの悪さにバタバタと慌てて部屋を飛び出してトイレに駆け込み、腹の中の物を全て吐き出した。


嘔吐を繰り返し、吐き出せるものがなくなってもまだ嘔吐が続く。


全身の筋肉を使ってでもまだ胃の痙攣が波打つ。


いつまで続くのか恐ろしかった。


「はあっ……はあっ……はあっ……はあ……はあ……ふう……ふう」


便座を抱えて座り込み、体力を使い果たしてしまった匠はそのまま脱力してしまい動けなくなった。


ぼんやりと、時間をかけて呼吸を整える。


明かりをつける余裕がなかったのだが、心なしか電気の点いていない暗いはずの家の中が、まるで昼間のようによく見えた。


自分の吐物を流すと、僅かに視界に入った手が蒼白く光っているのが分かった。


「え……っ」


見間違いではないかと何度も瞬きを繰り返すが、腕も足もシャツをめくった腹も、その現象は現実であると誇張するように、なかなか光が収まらまい。


夢の中の鬼と同じような事が自分の身に起こっている。


まるで、自分が鬼になってしまったかのように。


「…な、……なんで?!」


ハッとする匠。


「……これも夢の中なんか?……また幻を見てるんかっ。と…とにかく落ち着け、俺……っ!」


過呼吸になりそうなくらいに深呼吸を何度も繰り返して、目をきつく閉じて落ち着くことだけを目指し、他のことは何も考えないように必死に息を整えていく。


どれくらいそうしていたのか、そっと目を開け腕を見た。


蒼白く光っていない。


「……やっぱ夢やったんや。ただの見間違い。どうかしてたんやな。……ハハハ……」


真っ暗なトイレで独り言を呟いてみた。


「いてっ」


立ち上がろうとしてガツっと足をどこかにぶつけた。


トイレを出て洗面台で口を濯いぎ、自分の部屋に戻って何気なしに時計を見た。


二時四十五分。


「まだこんな時間?」


汗も動悸も治まったら、今度は汗でじっとりと濡れたTシャツが気持ち悪い。


匠は新しいシャツに着替えてベッドに転がり無理矢理目を閉じて眠ろうとした。


「あれ?……電気ついてないのに時間が見えた……?」


慌てていたから灯りもつける余裕もなかった。


暗闇の中でも目が見える。


いくら自分の家でも暗ければ明かりがないと不便なはずだが、今の匠には電気がついてなくても平気だ。


部屋の壁掛け時計の秒針までしっかりみえるし、新しく着ているシャツの色もネイビーに胸ポケットがブルーだと分かる。


何が自分に起きているのかまた分からなくなる。


頭がおかしくなるので、匠は思考を停止した。

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