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儚き焔   作者: 鈴音あき
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頬をペチンと叩かれて匠は目を覚ました。


夢の続きを見た。


舞を待っているうちに眠ってしまったらしい。


「お兄ちゃん?起きて。もう終わった」


「……何が?」


「だから、お寺の見学終わった」


「え、うそ。どれくらい寝てた?え、一時間…」


夢の内容では少ししか時間が過ぎていなかったのだが、時計を見ればもう一時間も経っている。


時間の感覚が狂っているようだ。


「お兄ちゃん運ぶの手伝ってくれた人たちと一緒に見学しててん。舞台の下から見上げたら所々に板に字が書かれててびっくりしたわー。今度お兄ちゃんも見に行ってみたら?さて、写真も撮ったし。次いくけど体調は?大丈夫やんな?」


「あれ、これで終わりのはず」


「お母さんに買い物頼まれてんねん。四条通に行くんやけど、……歩いて行くのしんどいなあ。下り坂やからまだ楽かなあ」


言いながら舞はもう歩き出している。


匠は慌てて立ち上がって後を追った。


「四条通で何買うん」


「よーじやで紅筆」


「よーじやって。産寧坂にもあるやん。ここから近いし」


「四条通やったら都路里でお茶出来る!おうすの里でも梅ジュースを買うことになってるやで?お兄ちゃんいつも炭酸割りにして美味しいって飲んでるやん。」


「あー。あれを頼まれてるんか……」


「そうそう」


「けど、全部この辺にあるやろ。何が目的や?」


「何の事ー?」


笑顔の舞が坂を降りている途中、人力車のイケメンスタッフが話しかけきた。


逞しい小麦肌のお兄さんに声をかけられて嬉しそうにしている舞を引き止めた。


「おいこら、いま乗りたいて思てるよな?高いからやめとけ。これがしたかったんか」


「えーっ!何で!乗りたい!」


「ちょっとちょっと彼氏さん。彼女が乗りたいって言うてはんねんから…」


「誰が彼氏やねん。俺は兄や。間違えんといてください」


「え?」


「半額にしてもらわないとね、お兄ちゃん」


「「は?」」


「わたし彼女やないんです。…人力車に乗ってほしいんやったら何かサービス?値引き?してほっしいなぁ」


舞はニヤリと、乗ってあげるわと上から言ってくる。


「ま、待て!…なに勝手な事言うてんねん。乗る言うてない」


「そうや!引けるわけないて!」


「何で?お兄さんが勘違いせんかったらわたしは気持ち良く乗ってたと思う。それやのに兄妹を恋人と間違われるてわたしは気分を害されてしもた。お詫びの気持ちを込めて半額にするのが当たり前やん」


「そりゃ気分を害してしもたけどなあ……。二人で定価の一万を五千円てむちゃくちゃ……」


「あーあ、人力車に乗ってみたかったのになー。こんなに暑い日に車を引いてもらっても観光どころやないかもなー。それやのにわたし、乗りたいて言うてんのにー。ちょっとくらい安くしてくれてもええやんー」


派手な独り言を言って値下げを迫る舞は楽しそうにしている。


人力車のバイト車夫が気の毒になってくる。


「舞ええ加減にせえ。困らせるな」


「わかった、待ってて下さい。上司の社員に相談してみます」


「え!」


舞は笑顔で「待ってますー」と言って手を振っている。


匠は舞と二人ででは絶対に出掛けたりはしないと今固く誓った。


今のうちに逃げてしまおうかと舞の腕を掴んで引っ張ったが、舞は全く動かなかった。


二人で小さな闘いをしているとバイト車夫がもう一人を連れて戻ってきた。


「ウチのスタッフがえらい勘違いしてしまってすみませんでした。こんなに可愛らしいお嬢さんを怒らせてしまいまして申し訳ございません」


「いえ、こちらも無理なことを言いましてすいません。妹のワガママは聞かなくていいんで。ホンマに、もうすいませんでした」


必死に匠が車夫に謝る。


「えー?」


舞は不満そうだがこちらにも無理な要望をして車夫さんを困らせているのだ。


「舞、いい加減にしろ。朝早くから色々行って疲れてるけど、人に迷惑かけるのはあかん。これは絶対に。わかるな?」


「うぅ……」


「舞?」


「分かった。今回は諦める。でも絶対に乗りに来る!」


「次に来るときは母さんとしてくれるか?俺はちょっと無理や」


「いや、お兄ちゃんと乗るで?」


「なんでやねん……」


「お母さんケチやしお金出してくれへん」


「あ、割引チケットプレゼントしますけど。お母さんといつでも何回でも乗りに来てもらえるように、取り敢えず十枚お渡ししますね」


「え?」


上司が言いながらポーチからチケットの束を出して舞に手渡してきた。


「それと、四条通まで乗って行きませんか?料金は無料には出来ませんけど、コースから外れてチョイ乗りの一区間。ここでは一区間の設定はされてませんけど、設定されたとこやと四千円です」


「オッケー!そうする!やったー、お兄ちゃん決まり!早く乗ろう!」


「は?お兄さんあかん!こいつのワガママ聞いたらあかんて。俺は乗らへん」


「え、なんで?」


「恥ずい」


「いえいえ、そんなことはないですよ。夏は確かに客足が落ちますけど、けっこう乗ってくれはりますよ。男性は始めはみんな恥ずかしがってるんですけど、慣れてきはるから全然大丈夫ですって」


車夫が舞の援護をしてくる。


「でもそんなにお金も余裕なくなってきてるし」


最後の抵抗を試みるのだが、意味はなさない。


「大丈夫やろ?まだ残ってるのは知ってんねんで?八坂神社で降ろしてもらって四条通で買い物して家に帰る。それで今回の約束は果たした事にしてあげるわ」


舞は笑顔でパンと手を打つ。


「決まりましたね」


「決まりって…待て。なんで俺の財布の中身知ってるん?俺まだ納得してへん」


「もー!お兄ちゃん!乗る!はい乗る。すぐ乗る。さっさと乗る。行くで!人力車どれ!?」


「あ、あそこの角にあるんですけど……」


匠の背中を押して人力車に向かって強引に歩き、押しながら匠のバッグから財布を勝手に出して車夫に現金を手渡した。


「あ、俺の金!」


素早い舞の行動に車夫は啞然としたが、もう四千円はその手の中の握らされていた。

人力車の値引きなどはありません。完全に作者の妄想です。

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