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儚き焔   作者: 鈴音あき


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少年は怒り狂っていた。


しかしその怒りは少年自身の怒りではなく、その身の内に住み着いている凶悪な塊が、少年の感情を通じて現れ出たもの。


だからといって部屋中の物を辺り構わず投げつけるような幼い表現などではなく、それはそれは静かなもので、ベッドで眠るように怒っていた。


乱れてしまっていた呼吸を戻すために大きく喘げば楽なのだが、少年はしないのだ。


それをすれば、身の内にある何かがまた動き出し、自分を苦しめるだけだから。


少年は何かに操られる怖さに時折、安堵してもいる。


今日は恐怖を感じて自分ではどうしようもない思いをした事に怒りを覚えた。


少年の意識の中に住む悪しき物が、最近になって少年自身の意に反して暴走するようになった。


その暴走は徐々に大きくなり回数が増している。


今まで少年が支配できていた意識が何者かに侵食されてゆく。


少年の中に入り込んだ別の意識。


いつ入り込んだのか少年は分からない。


閉じていた目を開けてふと思った。


自分を操り支配しようとしているのは誰なのか?


何が目的なのか?


知りたい。


聞き出したいが、問うてはならないと、少年の本能が叫ぶ。


聞いてしまえば、本当の闇の世界に引きずり込まれてしまうと感じ取れる。


直感。


「誰?」と言いたい。


「何がしたいの?」と聞いてみたい。


簡単な事…なのだが、難しい。


その言葉を飲み込んだ。


口にすれば必ず後悔してしまうのだから。


しかし、その何者かは、少年からの「誰?」の声をずっと待っているのだ。


身の内に宿るそれは、少年を玩ぶようにまた身体の自由を奪い乗っ取り始めた。


先刻の出現よりも激しく苦しいものとなり、少年の身体が硬直し、締め付けられるような激痛に襲われた。


「くっ……ああっ!」


苦しみに耐えられず苦痛の声が漏れた。


少年の体はベッドで海老反りに背をしならせ、のたうち回り、そして転がり落ちる。


それでもまだ苦しくて呼吸もままならなくなり意識が飛びそうだ。


『解放せよ…』


少年の頭の中で、少年の声であり、少年の意思ではない声を聞いた。


『我を解放せよ』


……また、聞こえた。


『我を解放せよ』


『我を解放せよ!』


『我を解放せよ!』


『我を解放せよ!』


繰り返される声と苦痛の波に戦慄を覚えた。


『我をここから出せ!』


少年はその声から感じ取った巨悪な力が恐ろしく思った。


気の遠くなる激痛が少年を襲う。


この苦しみはいつまで続くのかと考えてしまうのだが、コレを出してはいけないのだ。


解放してしまえば全てが闇の中に消えて、何もかもが無くなってしまう。


世界が滅ぶ。


だから少年はその存在に力の限り否定の思いをぶつけ、暴走しようとする塊を必死に抑え込んでいた。


しかし……。



辻利に居る神田の様子を見に行くと、……和人がいた。


店に入って神田を見つけて近づいて行くと「笹原くんちょっとこっち」と言われて連れてこられたのは、三階の一番奥の客席で和人が落ち着かない様子で一人で座っていた。


「あ……」


匠を見つけてホッとしたようだ。


「……バスケは?」


匠はてっきり和人は部活に行ったと思っていた。


「……鬼羅に乗っ取られて、いつの間にかここの店の前に立ってたんや……」


何故自分がここにいるのかがよく分かっていない。


「……」


二人は何を言っていいのか分からず沈黙してしまう。


和人は女性客が増えてきた中で、肩身が狭い思いをしていたようだ。


すぐに接客という形で来てくれた神田と、心細い顔でオロオロしていた和人に、もう大丈夫やと報告すると、二人共やっと安堵の色を浮かべた。


それまで神田は邪気が弱まってきているのは分かっていたのだが決して店の外に様子を見に行こうとは思わなかったらしい。


四条通側の窓から見える八坂神社の境内にも、神力の光が弱いながらも戻り始めている。


見えている匠の世界を説明すると、和人も胸をなで下ろしていた。

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