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儚き焔   作者: 鈴音あき


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家々の屋根とビルを飛び越して、匠は四条大橋までたどり着いた。


少しも息は乱れていない。


空気は薄暗く、魂たちが蠢いている。


匠にくっついてきた悠裔が唸る。


「悠裔、姿を隠して」


『なーぅ』


ビルの上から辺りを見回して瘴気の出所を確認する。


匠が見据えた場所は八坂神社。


昨日行ったばっかりの円山公園の隣にある京都の代表的な観光地で、修学旅行や国内海外の観光客が沢山やって来る。


「たしか昨日、鳥居に罅が入ってたんやっけ……。まさかあれが崩れたんか?」


しゃがんで姿が見えない悠裔の頭を撫でた。


「悠裔。お前は四条通のヤツらを潰していってくれ。ええか?絶対に、くれぐれも!人間に見られたらアカンで?分かったな?」


『にゃう』


「よし。俺は瘴気がこれ以上広がらんように、作ってきた呪符で囲って結界を造る。行け!」


悠裔の気配はビルから真っ逆さまに落ちてゆき、まず、一番近くにいた妖に攻撃の爪を浴びせた。


随分と楽しそうである。


匠はその様子を見てふっと笑みを零して、視線を周囲に向けた。


どこまで瘴気が広がっているのか。


通りを西に向けてみると、八階建ての屋上から人気のない路を選んで飛び降りた。


音もなく着地したそこにもやはり人ではないモノが這いつくばっている。


「消えろ」


口にした匠の声はあまりにも冷たく、感情のないもの。


四条河原町の交差点まで歩けば、空気は清浄になっている。


ここが境界になったらしい。


鴨川を超えてはいなかった。


匠はなるべく目立たないビルとビルの隙間を見つけ、呪符を貼り付けた。


四条河原町の交差点から北へと上がっていくと、四条と三条の真ん中まで瘴気が伸びていて進行を続いている。


そこでもまた、目立たない場所を選んで呪符でくい止め、念のために三条大橋でも同じことをして瘴気を囲い込み、東に進み神宮通から南に下がっていく。


「瘴気はないな……」


知恩院を避けるように回り込んで昨日の円山公園から八坂神社の南楼門。


八坂神社から瘴気が出ている。


「ここが南端か?」


そしてまた呪符を貼る準備をした。


どうやらここが最南端の境界らしく、呪符を貼りつけながらこの境目に沿って走って行くと四条河原町に戻ってきた。


「これで瘴気は閉じ込められたか?……でも八坂神社から出てどこに向かって進んでるんやろ。河原町が神社から一番遠いみたいやけど、そのまま進んでいったら……」


頭の中で素早く京都の町の地図を広げてみた。


「え、二条城の方?何で?」


デパートの正面玄関で待ち合わせをしているように見せかけて壁に背をつけて、小さく呪を唱えた。


すると人には見えない結界が匠の目の前に現れた。


瘴気の進行を食い止めることに成功しホッと息をついたとき、バス停に一台の軽自動車が止まり、今日も作務衣姿の政信が匠を見つけて窓を開けた。


「匠!大丈夫だったか?」


心配そうな表情の政信の、匠は親指を立てた。


「あれで良かったんやろ?」


立てたままの親指で結界へと視線を促す。


「おおっ、出来てんじゃん。……瘴気の発生源は、八坂神社だな?」


右耳の後ろを人差し指で掻いて匠に確かめた。


「ん」


それに短く頷いて答える。


「よし。じゃあ乗り込むか」


「あ、悠裔はどうしよ?……アイツ今めちゃくちゃ楽しそうなんやけど」


匠が張った結界の中で嬉々として瘴気に襲い掛かっている。


「……放っておくのがいいかな。何かあったら自分から知らせてきてくれるだろう。大事なのは瘴気の噴出を少しでも早く防ぐことだよ。木屋町通のパーキングに停めてくるからちょっと待ってて」


そう言って、すぐ近くの駐車場に車を置いて戻ってきた政信の瞳は、真っ直ぐ神社を見つめていて、瞳は輝き始めている。


四条通の結界に入り歩き始めた政信について、匠も後につく。


すぐに二人を影が襲いかかる。


「消えろ」


ここはお前のいるべき場所ではない。


匠が強く念じると、醜く捻じれ、押しつぶされて消えていった。


普通の人には聞き取れない悲鳴が耳に残る。

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