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儚き焔   作者: 鈴音あき
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「さーて。…宿題やなあ」


東側の道を入ってすぐのカフェで昼食を摂って休憩もして、やっと夏休みの宿題に意識を持ってきた舞は清水寺に向かう事にした。


調べ学習に指定されている選択肢の中からくじをひいて当たったものを自分で考えて調べていく。


「何で清水寺?奈良の大仏やったら歴史の勉強でやったからもう調べんでもええん?」


「まあ社会の授業で出てきたもんはええんやろ。歴史があったり観光地やったり、でも教科書までは載らん有名なものとか知っておいて欲しい、もう少し掘り下げたり調べてもらいたいんやろ」


バス停まで二人で並んで歩きながら話す。


「やっと本題の清水寺。堀川五条で乗り換えやな…」


匠は素早く市バスの路線マップを頭の中で広げた。


「え、ここから直通ってないの?」


「堀川丸太町からやったらあるけど。ここからバス停四つ分歩くか?歩くのイヤやって言うてたやん。俺もイヤや。それと、前から言うてなかったか?俺の高校見てみたいって。乗り換えのバス停の前にあるんやで」


「そうやった!堀川五条で乗り換える!」


舞は即答して目を輝かせた。


「今日は外から見るだけでになるで。制服着てないから」


「わたし絶対に府立堀川高校に入る!」


まだ中学生にもなっていないのにもう高校生になった時の話をし始めた。


「なんでそんなに堀川に入りたいんや?」


「だって龍太郎さんがいる学校!」


また目をキラキラとさせた。


「うわ出た。ミーハー娘。お前が入学する前に卒業してるってこと分かるか?」


「そんなことちゃんと分かってる!わたしを何やと思ってるん!高校の後輩って肩書きを堂々と言えるのがええの!」


舞の鼻息の勢いが凄い。


「わーかった」


匠は両手を挙げて降参のポーズをとった。


龍太郎とは、匠の通っている堀川高校の三年生でインディーズバンドのキーボードを担当していて、下級生に人気がある。


近所の中学高校でも有名な先輩だ。


つい半年前までは美少年アイドルをみてキャーキャーと騒いでいたが、現在はクールが売りのグループHEILの龍太郎のファンだ。


タイミングよくやって来たバスに乗るが、舞の龍太郎の話がまだまだ止まらない。


「そろそろメジャーデビューするし、熱狂的なファンが増えるかもしれへん、そうなるとわたしだけの龍太郎ではなくなるんよ…。今から頑張って勉強しておけばレベルの高い堀川に入れる!わたしなら大丈夫!受験勉強はお兄ちゃんに手伝ってもらえるし!」


妄想話が尽きることなく喋りたおし、バスは到着して、堀川高校の門を見ただけで舞ははしゃぎ、その後暫くぼんやりと敷地の外から校舎を眺めている。


どうせ自分が堀川の制服を着て通学しているのを想像しているのだろう。


「おい、舞?清水寺行きのバス来たで」


「ええ…?」


「だから、バスが来た」


「あ、…うん」


名残惜しそうにバスに乗り込む舞に匠はため息をつく。


バスを待っていた五分間、舞が何を考えていたのか手に取るように分かった匠は、単純な動機で高校受験をしようとする自分の妹を心配した。


勉強の手伝いをさせられるのは舞の頭の中で決められているのだろう。


心配の種が増えている。


と、


「!」


視線を感じた。


誰かが見ている?


ピリッと、そんな感じがした。


しかし、怪しまれないように何気なく周りに視線を向けてみた。


(考え過ぎか…?)


バスを降りて清水道から長い上り坂を歩く匠の頭上には、いつの間にか厚い雲が漂っていた。


妙に暗くなる。


「雨が降るんかな…」


「何?こんなにええ天気やのに。………まだ歩くの?……まだ坂道?……疲れたー。はあ。……えー、仏像のガチャって何やねん、笑えるのに笑ってええの?あかん?イヤやなー。あ、あそこにも同じのがある。あぁ、別の種類の仏像?あ、おもちゃの日本刀やー…」


天気のことよりも登り坂がゆるゆると続く方が舞にとって今が一番辛いので、目に映る物を見てはぶつぶつと口に出して歩いていた。


「買わへんで」


「もー!欲しいなんて言うてない!しんどいのを紛らわそうと思って違うこと考えながら歩いてるのに……」


「ほら、あと少しやから、頑張れー」


励まそうとも思っていない口調である。


「うんー。あーあ、なんで清水寺…。あの時、くじひく順番ひとつ前やったらお茶を調べる口実で都路里で抹茶パフェ食べまくりができたのに…。くじ運なかったなー」


「次は愚直か。なんで都路里?」


舞のお喋りに付き合ってやることにした。


「京都の食べ物っていうタイトルが書かれてた。京都と言えば抹茶!抹茶といえば都路里!」


「いや、京都の食べ物は京懐石とか鱧。抹茶は飲み物。…こっそりと交換してもらうことは出来んかったんか?」


ツッコミを入れてしまうが話の続きを聞いてみる。


「先生が絶対ダメって。目の前で開いて確認されて表に書き込まれてしまってて、交換する暇もないー」


「それはどうしようもないな。仕方ない仕方ない」


「だって!わたし行きたかったー。…都路里行くー。清水寺の後に行こー?」


「え?いかへんで?」


「あー、やっと着いた!疲れたー…」


一人で階段をベンチ代わりに座り込んでしまった舞に匠は持っていたペットボトルを渡してあげた。


「ほうじ茶!ありがとうお兄ちゃん」


「チケット買って来るから待ってて」


「わかったー」


チケット売り場に走っていく匠は三重塔を通り過ぎる。


瞬間


バリン!


耳が潰れるような凄まじい轟音と、青白い眩い閃光


三重塔に雷が落ちた。


間近での落雷に匠はショックで意識を失った。

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