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「こいつは悠裔。見ての通りの化け猫や。俺の命令にはちゃんと従ってくれる。ちょっとお節介な所もあるけど、賢いヤツやねん。仲良うしてやってくれるか?」
匠は悠裔の頭を撫でてから、その真っ白な身体をヒョイと持ち上げて膝に乗せて、和人に紹介した。
『ナーン!』
よろしくな!と言っているのだろう悠裔の鳴き声は和人に伝わったのか、和人は怯えながらも頷いた。
「じゃあ、変な気配がしてるって思ったのも……この、ゆうえい?のことやったんか?」
「そうや」
「オレ、今まで全然……オカルトとか?……幽霊とかって信じてへんかったけど、……ホンマにおった。目に見えるモンだけ信じて、見えへんモンは信じへんって……。何やオレ頭固過ぎてたんやろか。霊感持つって、気味悪いけど。……そんなん見てしもたら、信じへん訳いかんわなぁ…………」
「そんなん」と言われて悠裔は少し、円らな瞳を釣り上げた。
気づいた匠が悠裔の喉を優しく擽ってやる。
すると撫でてくれたその手に気持ちよさそうにクルクルと喉を鳴らした。
「鬼羅と火王に憑りつかれていた後遺症みたいなもんで、時間が経てば見えんようになると思うし、あんまり気にせん方がええって。お前の場合は単なる事故や」
「事故?!え、……事故で済ます気なん!オレにとっては今までの考えを全部否定されることばっかりが今日一日であったんやで!少しはオレのコト考えてものを言うてくれるか!?」
「あー……うん。確かにそうやな……悪かった、ごめん。でも、俺もお前の心境は分かるんやで?俺も同じ経験してるんやから。政信さんの所でも話したやろ。多魂の記憶と能力が蘇ったって」
「でも……乗り移られてへんやん」
「そりゃそうやけど。……でも見えへんものが見えるようになったのは一緒や」
「うー……それでも嫌やー。こんな変なモン見えるやなんてー!」
理解はするが納得は出来ない。
そんな気持ちが迸る和人の言葉は匠に不愉快さを倍増させた。
「おい。変なモンて、悠裔のことか……?」
「他に何があんねん!」
バスケ部レギュラーの長身の和人が取り乱して、匠のベッドでゴロゴロと悶えているのは大変見苦しいということに、本人は気づいていない。
それほど和人の頭の中はパニックを起こして自分が何を言っているのかも分かっておらず、勝手なことを喚いていた。
「悠裔を変なモン扱いすんな!俺の相棒なんや!それにちゃんと意思もあるし喜怒哀楽を表現できんねん!お前の持ってるペットロボットより遥かにええわっ。あのロボット犬より全然悠裔の方が役に立ってくれてる」
何自慢だろうか。
怒りの増している匠の瞳は、途轍もなく冷たく厳しい。
「なにィ……」
匠を睨み返す和人の視界には機嫌が悪いらしい悠裔が和人を鋭く見つめて、今にも飛び掛かっていきそうな雰囲気だった。
「うっ……」
悠裔はふと立ち上がると、匠の膝から降りてわざと和人を無視して、水の入った餌皿に顔を突っ込み水を飲み始めた。
自棄飲みのつもりなのだろうか…その様子はまるで中年親父のようだ。
「あ……、拗ねた……」
ぽつりと、匠は悠裔の心中を漏らした。
突然の行動に二人は毒気を抜かれてしまった。
しかし、ピチャピチャと水の音が聞こえてもいいはずなのにそれがない。
「す……拗ねたって。……子どもみたいな?」
そして和人は気づいた。
「なあ……匠、大丈夫なんか?この、ゆう…?」
「悠裔」
「うん。ゆうえい、と一緒におって」
何を心配しているのかが分からない。
「大丈夫て?何の心配してくれてるんかわからんけど……。もう三ヶ月くらい一緒にいてて慣れたで?」
「化け猫なんやろ?……化け物なんやで?普通は気味悪いもんやろ?それに生気吸い取られてしもたりとか……」
「それを言うんやったら俺も、お前が言うところのバケモノやし……。でも、俺一回も悠裔に生気やら妖気やら取られたことないで?」
極々普通の会話をしているようでサラリと怖いことを平気で話す匠に、和人は肩を落とした。
「ゔ……この能天気男……」
「あ?その能天気な俺とお前は中学からの友達やんな?つーか、いろいろ考えてもしゃーないから諦めたら楽になったで?お前も早う諦めて納得したらええねん」
にっこり笑って即答した。
「チッ……。自分が嫌になりそうや。何でこんなんと友達になったしもたんや?匠が毒を吐いてきた……」
再び頭を抱えて悩み始めた親友に、匠は何を言ってやれば和人が落ち着くのかを考えた。




