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儚き焔   作者: 鈴音あき


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「…………誰だ……?」


「政信さん?……何、どういうことや?何で和人は鬼羅になってんの……?」


和人の瞳を覗き込んだまま政信に尋ねた。


「俺が調伏したのは火王だよ。和人くんの身体に影響が出ない鬼羅の魂はこのままでもいいと確信できたから残しておいた。本人も今の本体である和人くんに害を与えないと言ってるし」


けろりと言う政信は聖水の入っている小瓶を終い込み匠の隣にしゃがんだ。


「ええェ!?そんな勝手なこと……。何で俺に言うてくれへんかったん……?ええと……そんな、ややこしい事にならへんか?俺みたいなんが増えたら心配事が多くなるやん……」


「何をコソコソと話しておる」


鬼羅が二人の会話に割って入る。


「あ、いや、鬼羅。何でもないから、気にせんとってくれ」


「お前……?姿形は全然違うが、多魂……なのか?」


「おう。そうや。……よう分かったなぁ?」


匠は鬼羅が言い当てたことに驚いた。


「声や話し方は変わっているが、瞳の色や雰囲気がそのままだ。しかし、ここはどこだ?それにその奇怪で可笑しな衣装……」


「ええーとぉ……どう言うたら分かってくれるやろ……」


「儂はたしか女に殺されたはずだ」


疑問だらけの鬼羅は混乱している。


「女……?」


「貴族の女だ」


「それ、俺」


政信がすぐに答えた。


「お前は……?」


「話は長くなるんだ。俺の記憶をそのまま見せてやるよ。目を閉じてくれ」


そう言うと政信は鬼羅の額に手をのばし、指先を眉間に触れた。


僅かに中指が光りだす。


それを確認した鬼羅は大人しく目を閉じた。


流れ込んでくる政信の記憶に多少眉をひそめるが、その表情は聞き入っているらしく冷静だった。


五分程で政信は鬼羅の額から指を放すと、鬼羅はゆっくりと瞼を上げた。


満足そうに笑みを浮かべている。


「火王と共に消滅されずにすんだのだな……」


「無にさせてはいけないと感じたんだ。多分、菜津の血がそうさせたんだと思う。……とにかく一度ウチに戻ろう。鬼羅も一緒にきてくれ」


「分かった。行こう」



暗闇の中、少年はゆらりと立ち上がった。


彼の足元には、ぼんやりと赤く光る黒水晶の欠片が散らばっていた。


「チッ…」


徐々に赤い光は消えていく……。


大人ぶって舌打ちしてはみたが、更に幼い行為のように思えて後悔した。


身に着けていた黒のマントを肩からパサリと落とすと、中に着込んでいたのは紺色のパジャマ。


一切の光を遮断していた窓のカーテンを、青白い小さな手で掴むと乱暴に引き開けた。


瞬時に闇は吹き飛ばされ光を取り戻したそこは、見れば実に子供らしい部屋だった。


学習机のシートには人気アニメが描かれ、本棚には教科書やコミックスが並び、ベッドにはゲームソフトが散らばっている。


ただ、子供部屋のとある一角だけにそれらしくない物が置かれていた。


白い粒が瓶詰めにされた密閉容器と、並べられた黒い大きな髑髏には、得体の知れない不気味な赤い文字でびっしりと書き込まれている。


そして何かの動物の頭蓋骨が祀られているのだ。


少年は、それまでの険しかった顔から可愛らしい子供のものに変わる。


「……薬。……飲まなきゃ」


そう呟いて部屋を出て行った。



政信のマンションの部屋。


男が三人。


部屋に入って座った途端に鬼羅はかっくりと倒れて意識を失った。


慌てた匠と政信は、ベッドに運んで目覚めるのを待った。


十分もしないうちに鬼羅は瞼をポカリと開けたのだが。


その瞳は異形である鬼羅の色ではなく、平凡な日本人の大半を占める黒い瞳の、匠のよく知る和人のものだった。


昨日から今までの経過を和人に口頭で説明できたとしても、彼がこの状況を判ってくれるのか……正直に言うと匠はとても不安になっていた。


というのも、和人はオカルトには全然興味がないし、どんな不思議な現象が起きたとしても絶対に科学的な立証が出来ると考えている、頭の固い超現実主義な人間だからだ。


幽霊もUFОも超常現象も信じていない人間を相手に、どうやって話を切り出せば良いのかを政信と匠は相談していた。

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