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儚き焔   作者: 鈴音あき


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いつも爽やかで健康的だった彼の顔は、全く面影もなく、土色に変色していて、目の下にクマが出来ている。


和人の声に混じって、聞き覚えのある遠い記憶の中の声。


多魂であった時の異形の友、鬼羅。


『多魂、儂に従い帝に忠誠を誓え』


しかし、彼の声であっても抑揚のない、言ってみれば操られている音声であり、感情がない。


『多魂、儂に従い帝に忠誠を誓え』


和人の口は閉ざされたまま、鬼羅の気が匠に流れ込んでくる。


こんな闇に染められた妖気は遠い昔の中でも感じたことはない。


「…………」


『多魂、儂に従い帝に忠誠を誓え』


「お前は誰や?」


『……儂を忘れたか』


「和人の憑いた鬼羅。その鬼羅を操ってるお前は、誰や?」


『……儂は鬼羅』


「違う。何でこいつに取り憑いたんや」


ゆらりと、枝垂桜が風もないのに枝が揺らいだ。


鬼羅と名乗る和人の身体から、紅い妖気が噴き出した。


同時に匠からも青白い気が放たれる。


紅い妖気が匠を目掛けて飛び出した。


『儂は鬼羅じゃ!』


「くっ」


青い気で妖気を弾く。


「確かにこの紅い妖気は鬼羅やけど!お前は鬼羅やない!ホンマに鬼羅やったらっ!アイツやったら!一番始めに俺に抱きついて酒飲もうって言うんやっ!」


匠は叫ぶと蒼の光を増幅させていく。


「お前はただの雑魚や!消えろっ!」


光は匠のイメージ通りに小さな塊にして和人へ向かって投げつけられた。


和人は操られているせいか、動きは鈍い。


放たれた光は正面から直撃した。


しかし、衝撃を受けたはずなのに全くダメージがなかったようだ。


「っ!?」


和人の表情も変わらず苦痛に歪めることもなかった。


「え……何で?」


『儂に従い帝に忠誠を誓え』


何事もなかったかのように、また同じ台詞を繰り返す。


もっと注意して和人を熟視する。


その足元を見て匠は愕然とした。


和人の身体は微かに宙に浮いている。


『儂に従い帝に忠誠を誓え』


和人は走る動作もなく文字通りに匠に向かって飛んできた。


匠は身構えて和人を受け止めたのだが、体当たりの衝撃をものともせず圧し掛かられてバランスを崩して背後から倒れこんでしまった。


そのまま匠の身体に体重をかけて馬乗りになり首を掴まれた。


普通の人間の握力とは比べ物にならない力を感じたが、和人を鬼羅だと思えばまだまだ握力が弱い。


やはり雑魚の仕業だと匠は結論付けた。


『儂に従い帝に忠誠を誓え』


「お前なんかに従うほど、俺は弱ないんや」


首を絞めてくる和人の手首を掴んで引き剝がし、投げ飛ばして素早く起き上がった。


和人の身体なのであまり乱暴な事は出来ない。


高校のバスケットボール部でレギュラーだし怪我をさせると大変なことになる。


気を使いながら戦うことになりそうだ。


和人の身体だから無意識に力を加減してしまう。


投げ飛ばされた程度では何度も転がっていても傷一つもなくダメージもないから、何事もなくゆらりと起き上がり体制を整えて攻撃の姿勢に入った。


紅い妖気の輝きを作り出しているその時。


「おいおい、あまり公園を破壊するなよ?」


少し怒った政信の声が匠の背中にぶつかった。


やっと合流できたが、政信はちょっと機嫌が悪そうだ。


「しょうがないやろっ、俺も当たったら痛そうやから避けるの当たり前やんか。それより和人どうにかしてくれへんか?操られてんねんけど、なんや…ややこしいことになってるみたいやねん」


「ややこしい……?」


『なーゥ!』


政信を急かして連れてきてくれた悠裔はすぐに匠の足元に走ってくるのだが。


『儂に従い帝に忠誠を誓え』


悠裔の叫び声の直後、和人からまた光が飛んできた。


避けられない。


咄嗟に身構えた匠に紅い光は正面からぶつかった。


地面を揺るがす爆発音は、鈍く公園内の空気を更に暗く轟かせる。


『にゃー!』


「…………くっそ。やっぱり痛いやんかっ……いてー」


両足でしっかりと踏ん張り、両腕を顔の前で交差させて防御していた匠は、和人に取りついている悪霊に文句を言う。


和人が放った妖気は匠の気と争い、まるで花火のように爆発して飛び散っていた。


匠の腕を蒼白い気が覆っていた。


匠の腕に当たった和人の攻撃のダメージは、例えるなら草野球チームのおっちゃんとキャッチボールをした衝撃。


「おー…。まともに受けたな」


政信の声はマイペースに戻っている。


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