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儚き焔   作者: 鈴音あき
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不審に思った事が匠の瞳に現れたのが分かったのだろうか、その男は何も言わずに通り過ぎて行った。


「こらーっ!お兄ちゃん、何してんのー!」


舞が場もわきまえず大声で匠を呼びつけた。


「早く御守り買ってー!」


「おー、はいはい…。それよりも大きな声を出すな、静かにせー」


そう言って振り返り、面倒くさく返事をしてマナー違反だから注意した。


通り過ぎた男性もびっくりしただろうと思って謝ろうと向き直ったときには、その長身の人の姿はない。


「?」


不思議に思いながらも舞に駆け寄る。


「どれや?」


「えっと…。あ、これ。陰陽守!千円だって」


母から預かった資金から支払った。


「さて。晴明神社に来たなら一条戻り橋にもレッツゴー!」


「ちょっと待て」


上機嫌で神社を出ていこうとする舞を引き留めて、社の正面まで行って手を合わせる。


弟の高校受験が上手くいきますように…


北野天満宮でも参拝したが、ここでも簡単にではあるが自分なりに気持ちを込めて祈願する。


手を合わせている兄を見て舞も慌てて隣に立ち、手を合わせた。


一つ息をついて、匠は気持ちを切り替えた。


「それじゃあ、次。…戻り橋やな?」


覚悟を決めて舞に確認してみる。


もうどこにでも連れていけという諦めでもある。


距離も離れていないのですぐに着いた。


「……これが一条戻り橋?」


「そやな」


「え、こっちはそれらしい雰囲気で、なんで反対側は現代的なん…。しかも車道がアスファルト!」


どんな橋を想像していたのか、もの凄いがっかり感がにじみ出るつぶやきに匠は呆れていた。


「はあ、ええやんそんなん。それやったらこっち側だけで雰囲気を味わえば?」


「うう…」


納得できない唸り声を出している舞に匠は橋の下を覗いてみた。


「舞ー、下に歩道があるけど。降りてみるか?」


「んー。降りてみるー」


落ち込み気味の舞がそれでも歩いて行く。


小さな川ではあるが護岸工事もされてコンクリートで固められていたが、川縁を歩けるように階段が出来て降りられる。


二人で戻り橋の下を潜り抜けてみた。


舞からの説明では、平安時代のスーパーヒーロー安倍晴明が従えていた物の怪が、異界と行き来するための出入口がここにあった、らしい。


そういえば中学のクラスメイトが何かを拗らせていた、とぼんやりと思い出した。


平安時代は物の怪が日常的に信じられていたみたいだが、ファンタジー過ぎると匠は思う。


だが思っていても、やはり匠は口に出したりしない。


妹に気を使いすぎているような感じだが、これで自分が平和であるなら良いかといつも考えてしまう。


それが甘いと分かっている。


長年にわたって染みついた兄妹の上下関係の結果なのだろう。


「はぁー、橋の上よりも下からの方が良い!」


「遊歩道にされているから歩きやすいなあ」


「お兄ちゃんカメラ貸してー」


前を歩いていた舞が振り返り、兄のボディバッグからカメラを取り出した。


「あ、こら。何すんねん。…何撮るん」


「橋と柳!」


「は?」


「オバケ写るかなー?」


「アホか…」

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