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儚き焔   作者: 鈴音あき


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『では参ろうか。まずは、この屋敷の裏側にある森に案内する。そこが能力を高める主だった場所になるだろう』


事務的に言うと、金泉は先に立って歩き始めた。


「あー……。政信さんと早苗ちゃんは放ったらかしにしててええのん?」


『大丈夫だ』


「……ホンマに?大丈夫なんやろか。心配やねんけど」


『早苗の癇癪は直ぐに治まる。我らがここに戻ってくるころには機嫌よく食事の支度を楽しくしているはず』


「……そうなんかあ?」


金泉と歩きながらこの世界の案内をしてもらい、いつ終わるのか分からない修業が始まるのだった。



「ただいまー……」


自宅の玄関でドアを閉めると、やっと帰宅できて精神的な心の緩みでそのまま座り込んでしまった。


「お帰り、お兄ちゃん。……何か、めっちゃ疲れてる?」


兄の帰宅に気付いてリビングから出てきた舞は、何故一泊しただけででそんなに疲れているのかと驚いている。


「おぅ……。ふうー……」


匠は大きなため息を盛大についた。


「一泊だけやん。何でそんなにクタクタのヨレヨレになってるん?」


舞はちょっと興味深そうな目で匠の疲労した顔を見た。


舞の言う通り、途轍もなく疲れ切っている匠を見ての彼女の感想は、誰であっても同じだろう。


「神社の大掃除で俺の身体はボロボロや……。寝かしてくれ……」


全身筋肉痛というギクシャクとした匠の歩き方。


まるで油を何年もさしていない機械の有り様だ。


神社の大掃除とは匠の外泊のアリバイで、敷地内の社や石像を磨くというもの。


実際に石像磨きをやらされ、本当にこき使われた。


期末テストの打ち上げでの無断外泊の罰は終わっているので、今回の外泊は先に両親に許可はすんなりと取れた。


というのも、政信が手をまわしてくれていて、神社に電話をかけられて確認されてしまっている。


今の匠には信用が足りず何とも恥ずかしい思いをした。


神社の中の時の結界で、一年も閉じこもったおかげで匠の能力は格段に良くなった。


政信と金泉を相手に半死になることは日常で、その度に逃げたくなり、実際に何度も逃走した。


しかし、直ぐに彬や多魂の記憶や、向かいの家に現れた異形を目撃した事を思い出して、戦うことが生き残るのに必要なのだと考えを改めて政信がいる屋敷へと戻る日々。


夏休みになるまでは平和な世界で生きている、只の平凡な男子高校生だったのだ。


いくら前世の記憶が戻ったからと言って、いきなり戦闘民族のように戦うのに恐怖心がなくなるわけではない。


怖いし、痛いのはもっと嫌だ。


当たり前だ。


そして更に当然のことながら敵は手加減などしない。


自分を排除、殺しにくるのだ。


殺しに来る敵よりも自分が強くなること、それが今の匠がやらねばならない最重要課題だった。


一年で結界から出てこられたのは、政信と金泉がスパルタで付きっきりでの指導のおかげなのだが、早苗や結界の中で穏やかに暮らす精霊たちや妖が、怪我を負った匠を治癒してくれたり精神をケアしてくれたり、沢山のサポートをしていたからだ。


匠にとっては一年ぶりの自室に辿り着き、ベッドに倒れこんで爆睡しようと目を閉じた時、腹の下から鳴き声が聞こえた。


「あ?悠裔、すまん。そんなトコにおったんか……」


そう言って匠は重く感じる身体をなんとか動かして寝返りを打つ。


すると、半透明の白猫が匠の身体の下から這い出てきた。


『うにゃー……』


泣き出しそうな悲しい声を上げ、匠の頭に飛びついた。


「悪かったて」


匠は優しい声で謝り、白猫が頭に乗ったままではゆっくり出来ないので、仰向けになって胸の上に乗せ、白い毛並みをそのまま暫くの間撫でてやる。


匠にだけ触るのを許しているらしいが、政信の手はこの白猫を通り抜けてしまう奇妙な存在。


「…………機嫌は直ったか?」


『なー』


「よし。俺疲れてるから寝るけど、お前はどうする?……言っとくけど、この部屋から出たらあかんで?人に見られたらややこしなるからな。分かったか?」


『ナーウ……』


白猫は匠の胸の上で器用に頭を擦りつけて理解したと態度で示した。


「アニキっ!」


ノックもせずに乱暴に匠の部屋のドアをバッタン!と開けて、弟の真二が切羽詰まって飛び込んできた。


「うぁっ!」


慌てたのは匠だ。


悠裔の姿はまだ半透明のままなのだ。


突然の出来事に悠裔の思考は止まり、その身体も凍り付いたように固まってしまっている。


「真二ッ?」


匠の焦りにも気付かず弟はズカズカと乱入して匠のベッドにドスンと飛び込んだ。


「ちょっと聞いてーや!」

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