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儚き焔   作者: 鈴音あき


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「神社の中にこんなんがあるとは思わんかったなあ……」


翌日の朝、政信の運転する軽自動車で連れてこられたのは晴明神社だった。


政信の後について社殿の中に入ると、ほの暗く、薄ら寒い雰囲気を醸し出していた。


そして、社殿の一番奥、更に光の届きにくい場にひっそりと、懐紙で作られた札で封印されている妻戸の正面に立つ。


政信は妻戸に貼られた封印の札を小刀で切り、戸を両手でゆるりと開ける。


徐に匠に振り返り、不思議な笑みを浮かべて見せた。


「この中で術のレベルアップをするんだよ」


匠は開けられた部屋の中が真っ暗なのを覗き見て、ゴクリと喉を鳴らした。


「さ、入って」


先に入って行った政信は数歩も進まないうちに闇に消えた。


政信の後に続いて入ろうと踏み出した匠はふと、足を止めてしまう。


「結界……?」


一瞬戸惑ったのは、妙な力がこの入口から流れ込んできたから。


それは今朝、車に乗り込む直前に匠の家に政信が張った結界の雰囲気に似ていたから、その言葉が自然に出てきた。


深呼吸を一つして、匠は闇になっている部屋に踏み入る。


それは二・三歩で途切れた。


恐らく結界の中に入れたのだろう。


しかし、何を守っている?


数メートル離れて政信が立っているのが分かる。


居るのだが、その足元は畳や床ではなく砂利であり、そこここに木々が立ち、遠くに山が連なっているのだ。


そして、頭上には青い空と白い雲。


「どうなって……?」


「ここは結界の中」


「ああ、やっぱり」


「そう。平安時代の空間を守り続けているんだ」


「……」


「そしてここには人は住んでいない。代わりに物の怪が住んでいる。安倍家と賀茂家の力でこの世界を創り上げて結界を張り、物の怪たちをここに住まわせている」


「なんで?」


「平安の時から少しずつだが闇が減っていたんだよ。物の怪たちが暮らしにくくなるのを闇に通じる者たちがこの空間を作り、彼らを移している。……と、ほら。あそこにいるのが見えるかな」


匠から距離のある場所に立っている梅の木の陰からこちらを見ている者。


「狐?……どう見ても普通の狐なんやけど……あっ、ちゃう!何か雰囲気が違う。え、もしかして妖狐?」


『鬼のくせに我が何者か、判らなかったか』


匠の頭の中に声が響いた。


「冷たい奴だなお前は。前世の記憶と能力が蘇った笹原匠くんだ。ちゃんと人間だよ。そして、これから起こる闇の帝の事件に関わることになる人だ。仲良くしてくれよ。お前も名前くらいは聞いたことがあるんじゃなかったか?前世の彼は多魂だ」


妖狐に簡単過ぎる説明をした政信は匠に向き直る。


「この妖狐は金泉という。菜津の家系に憑いた妖狐だ。俺に菜津の記憶が戻ってからはこちらの言うことを聞いてくれるし助けてくれたこともある」


『ここは時の存在がない。つまり、ここで何時間、何日、何か月過ごしていても、この結界の外は時間が止まったままだ』


「安心して力を高めることができる」


「へえ……。漫画の中の何とかの部屋みたいや……。でも、誰かが勝手に入ってきたりせえへんの?」


「あの妻戸は今は俺にしか開けられないようにしているから大丈夫だよ。ここに俺がいる時は、神主も他の能力者も開けられないようにしてあるんだ。便利だよ」


「それで、俺はどれくらいここを使ってええん?」


「どれくらい……?ずっといてもいいよ。時間が止まっているから浦島太郎と違って全く年を取らないし玉手箱をお土産に渡すこともない。時間はたっぷりあるから、しっかり力のコントロールの訓練ができるし知識を得られるようになる。ここにいる妖もいろんな事を教えてくれるらしいから、楽しみにしていて。先ずは少し歩こうか。持ってきた荷物を置ける所まで案内するから」


そう言って政信は歩き出した。


後に続いて歩いていくこと二十分弱。


獣道の森の中で突如、しっかりとした寝殿造りが姿を現した。


高校歴史の資料集の中にある写真で見たことのある、平安貴族の屋敷だ。


「凄ッ!」


「あそこで寝泊まりするよ。それで……」


建物の入り口の正面に立つ。


「早苗!いるんだろ。おいで!」


静まり返っていた屋敷から小さな足音がやってきてするりと戸が開き、中から幼女が顔を出す。

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