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儚き焔   作者: 鈴音あき


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「この者まで殺さねば恨みは癒えぬのか……」


友幸は、彬には聞こえないように呟いたつもりだった。


「……最愛の妻と産まれて間もない可愛い私の息子が不憫でなりません。……私が行方知れずになり、唯は体調を崩してしまったことも心苦しいのです。……っ、ああ……っ!」


鬼は血の涙を流していたが、透明な涙で頬の血を洗い流す程に号泣する。


「……唯姫は日に日に悪くなっておられると噂で聞いておるし、清宗殿は気丈にしているが、急に白髪がふえた。太政官庁では皆が大層心配しておる。唯一の救いはそなたの子の鷹丸君が、大変健やかでいることか……」


鬼の瞳に切ない色が灯った。


身体の力が抜けて、膝をついた。


「私が、あの夜にっ!兄たちに、ついて行きさえ、しなければ!……っ」


肩を震わせ後悔に苦しむ鬼にどう声を掛けるべきなのか、友幸は考えあぐねた。


「彬殿……」


「過ぎた事を嘆いていてはいけないと、分かっております。……ですが、悔やんでも悔やみきれません。妻と子を残して死ねるわけがないっ!そして、実兄に殺された身で、彼らを許せるはずもありませんでした。……私は異形になって、彼らと関係のある者たちを殺すしか、この恨みは晴れないと思ったのです。……でも、これで終わりました。……恨みはもう、ありません。これ以上は人を殺しはしません……。友幸様は何も事情をご存じではないのは判りました。貴方を恨むことはありません……」


鬼は友幸に頭を下げて、母屋をゆっくりと出ていく。


「これ、お待ちなさい。彬殿」


鬼の後を追いかけて、友幸が声をかける。


「恨みが晴れたとしても、その姿でこれからどこに行くというのだ?彬殿は病死の届けが出されていてもう出仕は出来ぬし、何よりもまず、その姿では内大臣家にも日下部家にも帰るのは無理だろう?」


「……ええ」


目を伏せ、再び開けられたその瞳の中には蒼い光はなかった。


「何処か……。人目のつかない土地を探して静かに暮らそうと思います。人ではないものがいつまでも都にいては何かと騒ぎになるやもしれませんので、都から遠く離れた山奥の…誰も使わない庵で静かに隠れて生きていきます……」


そう言うと庭に飛び降りて鬼は姿を消した……。



気がつくと、匠は泣いていた。


自分のことのようで悲しかった。


ぼんやりと、見覚えのない部屋の天井が見えた。


自分の部屋ではない、誰かのベッドに横たわっていた。


また倒れた?


急いで溢れ続ける涙を拭こうとしたが、その自分の手を見て呆然とした。


「……手ぇ、……光ってる。……また?」


「大丈夫だよ」


匠の呟きを聞いてそれを見た政信は落ち着いた声をかけた。


「……?」


「また記憶が蘇ってきたんだよ」


「記憶が、蘇る?」


「君の前世の記憶のことだ。力も戻りつつあるね」


「どういうことや……?」


わけわからんと顔をしかめるて政信に訴えた。


「気分はどう?夢の中の内容は覚えてる?」


政信に聞かれて匠は素直に頷いた。


「俺のこと……彬って言うてた」


「日下部彬って呼ばれていただろう?」


「……そう」


「君は彬の生まれ変わりなんだよ」


「でも、何であんたがそれを知ってるん?」


政信はふふと笑った。


「俺も君と似たような境遇だ。……俺の場合は陰陽師の記憶があるんだ。前世の名前は菜津。藤原成信の娘で尚侍を勤めていた。子供の頃から霊能力が高かったから賀茂家で一時世話になり、修行して怪異にも関わったり。内裏ではけっこう有名人だった」


「……いつ、思い出したん?そのこと」


「いつだったかな。小学生くらい?」


「そんな早くから?」


「そう。完全に記憶が蘇ったのは中学一年の夏休み。俺の家系が菜津の子孫だから生まれ変わりがし易いのかもな」


「生まれ変わり……?」


「ああ。平安時代から続いてる。陰陽道・占術・星見の能力も、今では分家毎に別れているけど衰えてはいない」


「ふうん」


「前世の記憶が蘇った親族が産まれた前例がないから皆不思議がってるけど、俺は不吉な未来の前触れとして菜津の記憶が戻ったと考えている。……そして、君に逢った」


「?」


「俺は予見も占いも陰陽の力もある。言っておくけど良く当たる。近いうちに闇が動き始める。その闇に君は巻き込まれるよ」


「へ…?なに?……闇ってなに?何で俺がそんなモンに巻き込まれんねん?!」


「例え俺が君に何の忠告や連絡もしなかったとしても、必ず関わっていくことになってしまう。君が妹さんと京都市に来た時から既に始まってしまっているんだから」


「……ええ?」


「清水寺で雷が落ちた。だろう?」


「そうや。あの時に初めて彬の夢を……」


「記憶が戻るってことはその時の力も蘇ってくるってことなんだ。だから君にここに来てくれるように術を使った。多少俺が色々とやってもそんなに影響はないと思ってね」


「影響……?」


「直接脳にイメージを送るからね。少なくとも何かの副作用がある。例えば吐き気だったり…頭がぼんやりしてしまったり」


「鬼になった時の夢?…記憶が蘇った時が一番辛かった。丑三つ時って時間であってるんかな。悪夢で飛び起きたんは初めてやし、その後の嘔吐はめっちゃしんどかった」

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