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儚き焔   作者: 鈴音あき
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25年前のネタを引っ張り出して書いてみました。

笹原匠は妹の夏休みの課題に付き添って、京都の街中にやってきていた。


今朝も、父親は時間通りに出勤し、すぐ下の弟は涼を求めて静かな図書館で高校受験の勉強、母親は家事を慌ただしく片付けてパートに出掛けた。


高校2年の彼が何故、小学6年生の宿題の自由研究に同行させられているのか。


共働きの親とこれからが本番の高校受験の弟に暇な時間はないから。


と、罰でもある。


なぜ罰なのか。


答えは単純。


無断外泊と飲酒。


その罰というのは、学期末のテスト休み中にクラスメイトの家での打ち上げをしたときにその家の酒を、集まったメンバーでくすねて飲んで酔っ払い、ドンチャン騒ぎの末に皆で熟睡してしまった。


起きた時には夜が明けていた。


さんざん心配させられた家族がただで許してくれるはずもなく、言い渡されたのが妹の宿題の同行と手伝いだった。


しかし、匠は妹の舞が苦手だ。


小6のクセに妙に大人びていて、しかし末っ子特有なのか甘えるのが三兄妹の中で一番上手く、更に家族の欲目ではないのだがかなりの美少女。


小学校の通知表も『がんばろう』がなく、性格も良い。


らしい。


他人には沢山猫をかぶっているが、何故か兄二人、特に匠には極端に遠慮という言葉を忘れて我儘放題に振り回してくる。


「お兄ちゃん!夏休みの宿題ちゃんと手伝いなさいよ! わかった?」


彼女がしっかりとした会話が出来るようになったときから、もう既に匠への頼み事は『お願い』ではなく『強制』だった。


舞が幼稚園児までの小さくて可愛い女の子だったから断ることをしなかったのだが。


気がつけば自分と弟にだけ我儘を言って、こちらが嫌だと言えば泣いて困らせてくれた。


妹が泣けば家族に責められる。


泣いて「お兄ちゃんが〜」といえば、母親が「言う事聞いてあげればいいじゃない…」と味方してくれるので、これに味を占めていろんなことを押し付けてきた。


この繰り返しで匠は妹の舞が苦手になった。


見た目は天使のように可愛いのに、内側には悪魔が巣食っているのではないかと匠は本当に思っている。



京都の駅からバスに乗って北野天満宮へ行き、弟の信二の代わりに参拝して学業成就のお守りを買った。


前から予約していたらしい西陣織会館で


「一度でいいから着てみたかったの」


と、舞妓さんに扮装して写真を匠に撮らせてはしゃいでいる。


お出かけプランもあるが、真夏に着物を着たまま外に出るなんて化粧が直ぐに崩れるというスタッフの声で諦めてくれている。


建物の中でなら自由に撮影しても良いらしいので、匠はただ黙って言われるがままに無心に、父から借りてきた一眼レフカメラで写真を撮っていく。


きちんとした写真はプロのカメラマンが撮ってくれているのだが、それだけでは物足りないらしい。


匠は内心では白塗りオバケ…と思いながらも、流石に口には出さない。


もし不用意に発言してしまったらどんな要求をされるのか分からないから。


「それにしても、ようこんな所知ってたな…」


気が済んで、扮装を解き特殊なメイクもスタッフに手伝ってもらいながら綺麗に落として、いつもの顔の舞に戻った時に匠は尋ねた。


「ふふふー。お母さんが教えてくれたの。ネットでも調べたし。観光シーズンだと他所からのお客さんが占拠して来られへんし、真夏やったら多少は余裕があるって。で、これからこの会館のすぐ近くにブームになった安倍晴明の神社がある!はい、出発」


西陣織会館を出てご機嫌よろしく、匠の腕を掴んでさっさと歩き出す。


「えっ、おっ、おい。ちょっ、待て!いつになったら宿題やるんやっ!?」


舞につかまれている腕を振りほどいて、無駄であろう抗議をする。


「観光に来たんちゃうやろ」


「…ああ、清水寺?」


本来の用件を思い出して舞は一瞬だけ表情が曇り俯いた。


「そう、大事な宿題!清水寺!」


匠は早く用事を済ませて真夏の京都の蒸し暑さから逃げたかった。


「そんなの晴明神社と戻り橋の後に決まってるー」


匠と外出する時の舞の中の予定は、もう決定事項として処理されているので変更はない。


兄を見上げて神社のある方を指さす。


「え…。そんなん聞いてへん」


「言ってなかった?縁結びの御守りが効くってきいてんねん!はい、歩く!」


匠のいやそうな顔を完全無視して、また兄の腕を掴んで引っ張って歩いて行く。


舞に強引に引っ張られて歩かされた。


「ほら!ここ!」


たしかにすぐに神社に到着した。


匠の腕を放り出して鳥居を潜り抜け、舞は足取り軽く入っていく。


「…ん?縁結び?え、好きな奴がおるんか?……?」


舞を追いかけようとした匠は舞の言葉に引っかかったのだが、ふと背後に視線を感じて振り向いた。


そこには、栗色の髪を一つに束ねた長身の男が匠を見つめていた。


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