第2楽章 46節目
その日、和樹はイッチーと共に、駅前のショッピングモールに来ていた。
部活は明日のイベントに備えて軽い練習で終わり、予約していた本を受け取りに行くかと部室で会話していたところ、イッチーも珍しく一人の予定だったらしく俺も行くと言って着いてきたのだった。
「いよいよ明日かー、結構楽しみだよなぁ」
無事に本を受け取って、時間も早いしと階を上がって少しくらい見て帰るかとイッチーとぶらついていると、イッチーがぽつりと呟くように言った。
「まぁな。でもクラス対抗とはいえ、バスケ部としては下手なプレーはできないってプレッシャーもあるんだけどイッチーは…………そういうのとは無縁そうだな」
和樹はそう言いながら、並んで歩く長身を見上げる。
横顔もかなり絵になる友人は柔和な笑みを浮かべながら、少し笑って答えた。
「いや、俺も割とプレッシャーはあるぞ? だってまだ組み合わせも決まってないのに優勝候補みたいな話出てるしなぁ」
「実際、真司も知られてるから優勝候補だろ? イッチーと真司が組んで、後は誰が出んだっけ?」
それに和樹は、もう一人のイッチーと同じクラスの友人を頭に浮かべて尋ねる。
「いや、そうは言ってもバスケ経験者は他にはいないし、後は、運動部で言ったらバレー部の西くらいかな? 他は帰宅部か文化部、割と俺とアニメつながりで仲がいいやつら誘ったし」
なるほど、それはイッチーらしいといえばらしいことだ、と和樹は思った。
こういう、力関係によっては運動部系が幅を効かせて文化部系が肩身が狭くなるイベントでも、イッチーのようなどちらに対しても友好的なやつが一人いるだけで空気が変わる。
計算してやっているわけでもないのが良いところだが、結果的に運動に自信がある人間は他の競技に回ったらしかった。
「そっか、つってもうちもバスケ経験者は俺とハジメだけだからなぁ」
バスケはチームスポーツではあるが、同時に飛び抜けた個人がいると差が出る競技でもある。いざ当たるかもしれないとして、和樹は状況を具体的に考えてみた。
相手がイッチーだけであれば、それこそボールを運ばせないように、あるいはそもそも回さないように人数をかける事も出来るだろうが、この場合は真司を空ける訳にはいかない。
むしろ、瞬発力とドリブルのキレで言えばイッチーより真司のほうが厄介だ。何度もマッチアップしては抜かれている和樹はよく知っていた。
そう考えると、正直勝てるイメージは浮かばない。
せめてもう一人、ハジメと和樹の他にバスケの経験者がいればいいが、元々人数も少ない上に、各クラスにバラけているし、クラスでもハジメと和樹はいわゆる運動部系のグループとは別のノリでもあるため、自然と競技も分かれた。
つまりはイッチー達のクラスとそこまで変わりはない。
尤も、ハジメは本当に上手い。部活に入ってくれと板東先輩が頼み込みに行ったのもよく分かる。
1ON1よりも2ON2、それよりも3ON3と、ストリートの場でも人数が多いほうがそのポテンシャルを発揮するやつだから、体育とはいえフルメンバーでオールコートでちゃんとやるハジメを見たことがないけれど、楽しみでもあった。
和樹はというと、まぁバスケ経験者でなければ、普通にそれなりにやれる自信はある。
だが、イッチーや真司と1ON1をしてもほぼ取れなかった。
優勢に出来るのはジュースを賭けたフリースロー勝負くらいだろうか。
(そもそも体格的には組み合わせがおかしいんだよな、いや、クラス分けだからどうしようもないけど)
「でもハジメと和樹か。正直、試合形式でやり合うの楽しみだったりする」
イッチーがそう言うのには、頷く。
「まぁそりゃな、体育の授業と違って。勝敗って形でやるのは、燃えるよな」
「……優子にいいとこ見せれるかな」
「はいはい、っていうかダンスも第二体育館でやんだから、結構勝ち進まないと見てもらえないんじゃないっけ?」
今更彼女にまだ良いところを見せたいのだろうか、いや、見せたいのだろうな、と和樹は自己完結し、それに対してふと疑問に思ったことを口に出した。
体育の授業の一環ではあるため、丸一日を使用してやるものの、男子と女子それぞれ、並行で行う。そのため、男子は女子の創作ダンスは見に行けないし、女子も男子の競技は最後の方にしか見れなかったはずだ。
去年の和樹はバスケを選ぶでもなくあっさりと負けて、体育館裏で何を話したかも記憶にない話をして時間を潰していて、最後の方になった時に女子がやってきていた覚えがあった。
「だな。じゃあうちもそっちも勝ち進まないとだな!」
「うちも? ……いや待てよ、ハジメの勇姿を見れないと、千夏が何ていうか想像すると」
「それもそうだけどさ……和樹だっていいとこ見せたいとか思わんの? ほら、早紀とかに……あ、俺が言うなは無しな。やっぱり結構さ、気にはするじゃん。だからよ――――」
「くくっ、言いたいことはわかってっけど、最後急にしどろもどろになんじゃん。……まぁそうだな、女子に良いとこ見せたくないと言えば嘘になるし、頑張るかー。会う時は決勝、とかになりゃアツいしな」
そんな話をしていた時だった。
「あれ? いっくん? 部活もう終わったの?」
聞き覚えのある声が聞こえたのは。




