閑話7-13
ハジメとの旅行から帰ってきた翌日の日曜日のこと。
今朝方ハジメの家を出て、自宅に戻った千夏は、仕事が休みの涼夏に、二人で行った旅行から帰宅した当日にすら一緒に泊まると伝えたことを、改めて咎められることはないながらに、少し呆れられからかわれつつ家を出た。
(いやいや自分でもわかってるし……なんか家に居たくないわけじゃないのに、ハジメとただ一緒に居たいというか)
千夏はそんな事を思いながらも駅へと歩いていく。
予定していたよりも少しだけ余裕がない時間になってしまっているので、約束していた友人達との時間に遅れるといけなかった。
普段もメッセージはやりとりしているし、学校でも会うけれど、クラスが分かれた事や、部活や家業、バイトなどそれぞれの予定もあって集まれるのは嬉しいものだと思う。
『(佳奈さん)大学も休みだし、バイトも無いし、よかったら連休の最後に前に言っていた女子会でもやる?』
『(ゆっこ)良いですね! 千夏ちゃんの旅行はもう帰ってきてるよね?』
『(千夏)うん、前の日の夜には戻ってるから、その日はオッケー』
『(早紀)こっちも部活は最終日は無いし、大丈夫』
『(玲奈)私は夜は少し家の用事があるのですが、それまででしたら喜んで』
『(千夏)場所はどうします? うちらはいつもファミレスとかなんですけど』
『(佳奈さん)あ、嫌じゃなければうちに来ていいよー』
スマホの履歴で、いつだかの集まりの時に作った女子だけのグループに、佳奈さんがそう言ってくれたのを見て、千夏はふふ、っと笑いながら、今日一日で何を話そうか、聞こうかと楽しみだった。
そして――――。
◇◆
「それで、恋人との初旅行はどうだったわけよ? 若い男女が二人。誰も知らない土地。思う存分爛れた感じ?」
「いや、全く爛れてないから。むしろプラトニックですらあるから」
向かい側に座る早紀がちょっとからかうように、でも半ば本気の表情で興味をもって聞いてくるのを、いやいやと首を振りながら千夏は答える。
「……まぁ確かに、爛れてるというよりもはや熟年夫婦感あるよね」
「ほらそこ、うちらより余程熟年だったのに拗らせてたカップルが言わない」
それに対して、早紀の隣の優子が顎に手を当てて変な納得をするのにも千夏が突っ込むようにいうと、千夏の隣で玲奈がくすくすと笑いながら言った。
「でもきっと楽しかったのでしょうね? 少しだけ恋人と二人だけの旅行なんて憧れてしまいます」
「うん、それは正直…………物凄く楽しかった」
そしてそんな、惚気を超えてただただ幸せといった感じの千夏の様子と、それを見てやれやれとそれぞれ笑みを浮かべる三人に声がかかる。
「ふふ、何だか千夏ちゃんの表情見てると、こっちまで幸せになってくるねぇ」
女子高校生四人を微笑ましげに眺めながら、キッチンでツマミ――アルコールは勿論無いけれど――を用意している佳奈だ。
今日は元々約束していた佳奈の家での女子会。
佳奈と千夏の二人のお土産に、玲奈が持ってきてくれたすごく高級そうなお菓子、早紀と優子が二人で買って持参した少し良い茶葉で、お茶会といった様相を示していた。
それぞれ話題はあるものの、やはり気になっているのは高校生にあるまじき(?)二人での二泊三日の旅行などというものを実施した千夏が話題の中心である。
「ねね、でもほんとさ。からかうとかじゃなくて、彼氏と旅行ってどんな感じなの?」
「ええ? どんな感じって言っても難しいなぁ」
「早紀ちゃんは本当に、その外見のカッコいい美人さに比べると、いざ慣れると興味津々の乙女だよねぇ」
「うふふ、それが早紀さんの魅力なのではないかと。新たな芽生えもありそうな雰囲気ですし、最近の早紀さんは柔らかい感じも出て私は好きですよ」
「玲奈はまたそういう事を。そういうんじゃ無いからね……後、私の立場的に聞くのもと思わなくも無いけど、そういう優子だってよろしくしてるんじゃない? …………すっごい気になってたんだけどさ、同クラの時に比べて、ちょっと育ってない? それ。分けてほしいんだけど」
「いやいやそんな事言ったら、私だって早紀ちゃんのそのすらっとした足と身長を分けてほしいわけですが」
「あはは。で? イッチーが原因だったりするの?」
話したい気持ちもあるけど、自分ばかりが矛先でもという気持ちと、知りたい好奇心で千夏が流れに乗っかる。
「…………いや、そんな事は無いはず」
「何か少し間があった。ダウト」
「いやいや違うからね。その、千夏ちゃん達ほど大人の関係には至ってないというか」
「そこのところ詳しく」
「詳しくしないよ!? 大体私の事より今は千夏ちゃんの旅行の話!」
珍しく優子が焦ったようにしているのに、千夏は笑う。
ハジメとも居たい。色々話ができるようになった涼夏とも居たい。そしてこうして友人達とこんな空気でいられるのも大好きだ。
千夏は思う。何て幸運で、そして恵まれているのかと。
「あはは、皆の会話は、何ていうか聞いていて気持ちがいいよねぇ」
佳奈さんがそう言うのに、優子が少し何かに思い至るようにして微笑んで言った。
「佳奈さんも恋バナしましょ、是非是非」
「えへへ、そだね。でも今は皆の話聞いてたいなぁ」
にこにこしながら、佳奈さんが答えて、千夏の方にも目を向ける。
「ところでさ、今日はハジメくんはいいの? 何してるの?」
「うん勿論。今日は女子会って言ってるし! そして、そんなうちも常に情報を把握しているわけじゃ…………」
「ふーん。今日の彼氏の予定は?」
「今日はバイトないからこの時間は多分バスケに顔出しに行ってると思う、真司から連絡が来たとか言ってたかな」
「しっかりかっちり把握してんじゃん」
言われてみれば、と千夏は少し止まる。
「ああ、そう言えば和樹が行くのか聞いてきてたような」
「え?」
「え?」
流れるように出た和樹と割とやり取りしていそうな早紀の言葉に発した千夏の疑問に、早紀も同じ様に答えて、それをみた玲奈がまた笑う。
千夏の旅行のみならず、やはり話題には事欠かないようで。
千夏にとってのGWと称される連休は、こうして幸せなイベントに包まれて終わりを告げるのだった。
幕間 二人の初旅行 完
ということで、本編に持っていくにもどうしようかなと思いつつ、せっかく思いついたから書きたいなと、幕間の最後に彼女たちの何でもない会話を持ってまいりました。
これにて幕間も終わりです。ありがとうございました!
また次回からも引き続き、進めて参りますが、ちょっと差し込みたいイベントを考えるのにお時間頂くかもしれません。少し溜めて連続投稿できればと思います。
※後ですね、噂の校正作業というものがそろそろのようでして。皆さんよく言われている、書籍化作業?というものが果たしてどんなものなのか未知数ですが、楽しみつつ、やばい本業と合わせて、連載書く時間ない! とかなったら、正直に「ごめんなさいちょっと待っててください」をしますのでよろしくお願いいたします!




