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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 前編

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第2楽章 13節目


 教室にいっくんと並んで入ると、いくつかの視線が刺さった。

 優子にとっては少しばかり久しぶりの感覚。


 こうして同じクラスになると、最初は出席番号順に並ぶことが基本なので、大体の場合座席は優子の後ろにいっくんになるのはお決まりだ。櫻井と佐藤だから、中学の時、迫田(さこだ)さんが一度入ってきた位で大体前後になることが多い。

 今回も当たり前のように優子のうしろがいっくんの席だった。


 一緒に席まで行って座ると、男女問わずでいっくんの元に何人か集まってくる。

 それに久しぶり、と答えながら笑う様子に、教室全体が少し明るくなっていくのは流石だなぁと優子は内心で思う。よく知ると所々で情けないところはあるのだけれど、基本的に周りを明るく出来て人気者なのがいっくんなのだ。


 同時に優子に対しても、興味と様子見の視線が飛んでいた。

 春休みに入る前からのいっくんとの関係については、勿論言いふらしてもいないが敢えて隠してもいない。つまり人気者について言えば、隠していないというのは情報が回っているということと同義だった。

 知っている子にとってはともかく、そうではない子にとっては急に現れた恋人。その立ち位置にいることは自覚しているし、その上でもういいか、と思っている。


 尤も、当のいっくんに視線の種類に気づいた様子は無かったが。


(まぁ良いんだけれどね、視線に気づいていないというよりは、もう見られるのが当たり前になってて麻痺している感じだろうし)


「おはようございます、優子さん」


「おはよう! 玲奈ちゃんが同じクラスで嬉しいよ」


 そんな風に考えていると、先に教室に入っていた玲奈が優子の座席にやってきた。

 相変わらず穏やかで、お淑やかな空気を纏っている。


「おはよう、法乗院さん」


 優子と挨拶していた玲奈に、いっくんも挨拶すると、それまでいっくんの周りにいた男女が少しだけ距離を取って様子を伺う体勢に入る。その気持ちは少しだけ優子にもわかった。


 いざ話すと玲奈はとっつきにくくも無いし、穏やかで優しいとても良い子だ。実はファミレスに行ったことが無かったり、ちょっとしたグッズを知らなかったりなど、生活の空間が違う事はあったが、それもこの一年間で――いい意味ばかりかはわからないが――優子達と触れ合ったことで普通に会話もするし冗談も言う。お嬢様とは言っても同じ年の女の子なのだから。


 ただ、法乗院という名前と清楚でお嬢様な外見。

 そして実際に旧家のご令嬢であるという事実は初対面では少しだけ距離を取らせてしまうのだろう。


「ええ、おはようございます、佐藤さん。ふふ、そう言えばおめでとうございますをお伝えしておりませんでしたね」


「え? …………ああなるほど! ありがとう!」


 そして、続く玲奈の微笑むような、そして少しだけからかいを込めたような言葉に、いっくんは咄嗟に考えて、思い当たると破顔した。


「ちょっと玲奈ちゃん、新学期早々からかわないでよ? いっくんも満面の笑みで答えないの!」


「え? 法乗院さんのこれって冗談なの?」


 優子の言葉に、驚いた表情で聞くいっくん。それに玲奈はくすくすと笑いながら答える。


「いえいえ、祝福は本当ですし冗談ではないですよ? ただ、念願叶って恋人関係になれた佐藤さんがとても幸福感を出してらっしゃると伺っていて、その通りでしたので少し笑ってしまいましたが」


「念願に幸福感……ってそんな事言ってる人いんの!?」


「ええ、あちらに……」


 玲奈にツッコミを入れるいっくんは珍しいなと思って優子も笑っていると、玲奈が後ろを指差した。その先には一人の男子生徒が居て、優子といっくんは納得してしまう。


「真司、お前な……」


「あんだよ? 聞こえてたけど俺は嘘は言ってねぇだろうが」


 そして文句を言いたげないっくんにそう(うそぶ)きながら、特に悪びれもせずに真司が歩いて近づいて来ると、先程まで周囲にいた子たちは益々遠巻きになった。


 元々優子達と同じクラスでハジメくんの元に二人ともいるのを見かけた事がある生徒や、事情を知るものは別だが、いっくんとは別の意味で目立つ男子生徒である真司が仲が良いことを知っているものは意外と少ない。

 だからだろうか、優子に向かっていた視線も、見るものによっては意外な気安さを見せる二人へと逸れていき、優子に向けられる視線も好奇からそういうものを見る視線に変化していった。


 関係を引きずるようでリセットもされる新学期のクラスは色々と面倒な事も多いが、この分だと玲奈も自分も含めて穏やかに過ごせるかな、と内心で優子が考えていると、真司がそうだと思いついたように優子に声をかける。


「櫻井、そう言えば佳奈から急に連絡が言っただろうがすまんな」


「ううん、こちらこそ佳奈さんには感謝だから。こないだも話相手になってもらったんだ」


「佳奈さんって、真司の彼女の?」


 二人の会話にいっくんがそう疑問を挟んだことで、別の場所から別の種類の騒めきが起きた気がするが、気にしないでおく。

 真司も隠れファンはいそうだが、佳奈さんはいい人なので優子は完全にそちらの味方だった。


「そうそう…………今なら良いかな? いっくんのことを相談したりしてたのよねぇ。こないだも気にしてメッセージくれてさ、色々お話しちゃった」


「完全にあれは好奇心に負けただけに見えたが、まぁ迷惑になっていなければ何よりだ」


「……俺の知らないとこでそんな繋がりが。でもそっか、そういう意味だと俺からもありがとうなのかな。――――あ!さっき法乗院さんが言ってた、真司の言葉もそこ情報!?」


「いや違ぇよ。『念願』なのも『幸せで一杯』そうなのもそこ情報じゃなくて見たままだから安心しろ」


「だとしたらハズい…………え、嘘? 俺ってそんなに何か出てる?」


「鏡見てこい鏡。櫻井だけだったら正直わからんけどお前が色々とバレバレなんだよ」


「あはは」


 何だかんだでそんな取り留めもない話は、担任教師が入ってくるまで続き、優子は無事に二年生がスタートしたことにホッとする。


 千夏達も相変わらずで、自分といっくんも再び歩き出すことができた。

 早紀は自分が何か言える立場ではないけれど、友人関係は変わらずどころか少し深まったような気がしていたし、佳奈さんという初めての歳上の友人もできて、玲奈とも同じクラス。


 当たり前だがこの時の優子は、この先に起こる自分たちが関わることになる出来事について、全く想像もしていなかったのだった。


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[良い点]  安定感♪  みんなが幸せになれる予感(〃▽〃) [気になる点] >この先に起こる自分たちが関わることになる出来事について、全く想像もしていなかった [一言]  ↑想像できないから楽しいん…
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