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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 前編

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第2楽章 12節目


(桜って4月のイメージだけど、去年も入学の時にはもう散ってた気がするわね)


 前日の雨によって、ほとんど花が落ちてしまった校門の桜の木々を見ながら早紀は校舎へと歩いている。同様に校舎に向かう生徒の中からは、早紀の方を見て何か驚いているものもいた。

 髪型に向かうその視線には気づきながらも、いちいち反応しているのは面倒なので、心持ち足早に歩く。


 始業式だが、今日でクラス分けが決まる。理系文系で別れてしまうのは残念だが、せっかくなので千夏とは一緒であればいいなと思っていた。

 そして千夏のためにはハジメが一緒である方がいいだろうし、休みにばったり出会った石澤もまぁ、一緒だと話が出来るからいいなとも思う。


 元々女子からも男子からも、そこまでとっつきやすいとは思われない容姿と性格とは自覚しているし、絡むようになったきっかけがきっかけとはいえ、自分に明確な恋愛的興味がなさそうな男子で、ああして馬鹿話が出来る存在は貴重だった。

 意外と多趣味で、興味本位で質問すると本当に音楽やウェブ小説から漫画のアプリ、動画サイトとオススメが返ってくるので、そこからの派生で休み中一番連絡を取っていたかもしれない。

 今勧められて読んでいる漫画も面白くて、アイドルコメディの漫画かと思いきや様々な要素が出てきて、続きが気になりすぎて昨日も寝るのが遅くなってしまったところだ。


「あ、早紀ちゃんおはよう! うん、その髪型も格好いい! 凄く似合ってるよ」


「藤堂、おはよう」


 そんな事を考えながらクラス分けの貼り出しがある場所に向かうと、溜まっている生徒たちの中から見知った二人が早紀に気づいて挨拶をしてきてくれた。

 イッチーは正直まだ少しぎこちなさが無いとはいえないが、改めて会ってみても早紀の中できっちりと終わりに出来ていることがわかって内心ほっとする。

 髪を切るというのはよく聞く話だが、意外と自分の中でそういう意味を持って髪を短くしたからか、不思議と心にも良い影響を与えてくれたようだ。


「おはよ、優子にイッチー。二人は同じクラスになれた?」


 なので挨拶を返して、気になっていたことを聞く。

 この二人は文系だったから確率は三分の一。クラス構成がどうなっているかのほうが、長い話を聞くだけの始業式なんかより余程大事なことだ。


「ふふ、何といっくんも玲奈ちゃんも、後相澤くんも皆一緒だったよ」


「後理系クラスも皆一緒っぽかったぜ? ハジメと南野……じゃなくて佐倉か。それと石澤もいると思うからよろしく」


 早紀はそれを聞いて、千夏の名字についても気づくものは当たり前にいるかということと、それにより起こりうる反応に思い当たって、二人に礼を言って教室に急ぐことにした。

 それにしても同じクラスで良かった。おそらく教師陣の中でも、仲が良さそうなものや相性が良い悪いでそれなりに操作はしているのだろう。

 一度クラスで集まった後に始業式があって、早紀達は高校二年生としての春を正式に迎えることになる。


 教室にはもう三分の二程の生徒が居た。


(…………やっぱりかな?)


 教室に入って、千夏とハジメが並んで座っているのを見て、同時にその周囲からの空気が少しおかしいことに気づく。

 正確には、千夏に向けられている視線の中に、好奇なのか、遠慮なのか、そういったものが混ざって、二人の周りに変な空気感が広がっていた。


 原因は早紀の想定通りだろう。

 あの南野千夏が『南野』ではなくなった事が、クラス発表の貼り出しでわかって、何となく聞くことも出来ずに、でも興味も隠せずにいる遠巻きの状態。


 千夏もハジメも感じているだろうが、こういう空気は当事者だけでは払拭できないものだ。

 そう思った早紀が声をかけようとしたところで。


「よ、佐藤久しぶり、二年も同じクラスでよろしく。……それに佐倉、って呼べばいいのか?」


 早紀よりも早く、この変な空気を読んでいないような態度と声で二人に話しかける男子がいた。


「石澤おはよ、久しぶり」


 その男子、石澤に対して、ハジメがそう答えて、周囲の空気が少しピリついたものに変わる。

 相変わらず空気を読まずに話しかけたと思われているのだろう。でも早紀と同じ様に、石澤も千夏の事情は軽く春休みに入る前に聞いているはずだった。


「そだね、晴れてこの春で南野から佐倉になりました、改めてよろしく」


 だからだろう、千夏も当たり前の様にそう答えて、特に今は険悪でも無いと周囲にアピールする。

 でも、その先の石澤のセリフは少しだけ早紀にとっては、きっと千夏達にとっても予想外で。


「いやー、事前に話は聞いてはいたけど、具体的な名字までは聞いてなかったからさ、俺はてっきりお前らがとうとう結婚したのかと思って一瞬焦ったぜ」


 以前までであれば、空気も読まずに大きな声で話しているのだと思っただろう。実際そうだったろうし。

 でも今は多分、わざとだしそうと早紀にはわかる。


 南野から佐倉に変わったことでざわついている空気を、佐倉と佐藤が似ている方でからかうように。

 そして、それにハジメがわざと乗っかった。多分わざと。


「いや石澤。()()結婚できる歳じゃないからね」


「…………佐藤、からかったのは俺だけどさ。このネタで否定する理由がまず法律なのは予想外なんだよ。恥ずかしがるとか無いの?」


「何か去年から段々と、いちいち照れるのも疲れるなと思ってきたんだよね、誤魔化したらそれはそれで千夏がむくれたりするし」


「よくわかった、もうそれ以上は大丈夫だ。淡々としてるのに何故かダメージを受ける」


 そのやり取りに、石澤のおちゃらけた胸を抑えるような仕草も相まって一年生で同じクラスで二人のイチャイチャぶりを知っている子たちからも笑いが漏れる。

 そんな緩んだ空気に対して、千夏もふっと笑顔を作って、教室に対して言葉を発した。


「えへへ。…………ちなみに皆、南野千夏から佐倉千夏に変わりました! 名前が変わっちゃう家庭のじじょーってやつでさ、まぁ慣れないだろうけどうち自身はなんも変わってないから引き続きよろしくということで」

 

 その声にはっとして、この作られた流れにとどめを刺すべく、早紀も乗っかるようにして近づいて言った。


「おはよ千夏、ハジメ君。まぁどうせそのうち石澤の言った通りになりそうだしね、ちゃんとそうなる時は連絡してね?」


「おはよ早紀。もう、朝から早々にからかうの止めてよね」


 そうして早紀に少し照れるようにして微笑む千夏。

 クラスの空気が、千夏の名字の件を受け入れて、バカップルをからかう雰囲気へと変わっていく。


 それを見てそっと横目に石澤の方を見ると、ハジメと千夏を見て、どこか安心したように笑っている姿が見えた。


(ふーん…………)


 早紀はそれを見て少しだけ、ほんの少しだけまた石澤の事を見直す。

 論外から、補正に補正を重ねていつの間にか仲の良い男友達と呼べる相手になっていたクラスメイト。

 ――――勿論それは、イッチーに対して感じていた憧れやドキドキとは全く違う感覚ではあったが。



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