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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第1楽章 そして、二度目の春が来る

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第2楽章 25節目


「石澤、とりあえず何があったかは知ってるの?」


 早紀は、校舎に入って、全力で走りたいところを教師が居たため早歩きで向かいながら石澤に聞いた。

 イッチーも石澤の方を振り向いて促すようにする。


「……えっと、簡単に言うと、イッチーが藤堂と櫻井二股掛けてる噂が昼休みにちらっとあって、でもこっちはただの男子のやっかみだったっぽい。それより問題はもう一つの方で、こっちが大本だったらしいんだけど、櫻井が幼馴染の立ち位置利用してイッチーをはっきり振らずにキープしてて最低、みたいなことを言って女子の数人が騒いでたって話で櫻井に直接行くらしいってのがついさっき連絡来て…………それ以上は俺もわかんね。というか元々のイッチーの幼馴染が櫻井ってのも眉唾というか、どうなん?」


 石澤が考えながらそう話して、最後にイッチーに疑問を投げた。


「…………本当だよ、でも誓ってそんな事してない」


「マジか、じゃあこないだ話してた子って……」


 それにイッチーがそう答えて、石澤が何かを納得したような顔で、その後に何かに気づくように早紀の方を見る。

 そしてイッチーも同様に、早紀を見ていた。


「……ごめん、本当は藤堂にはちゃんと話すべきだったのに、タイミングが無くて」


「大丈夫。さっきも言ったけど、私、知ってたからさ。それにイッチーの事も優子の事も疑ってはないよ…………だってさ、言っちゃなんだけど私ほど二人を見てた女の子は居ないよ?」


 イッチーが悔やむように謝ってくるのを、早紀は首を振ってそう告げる。

 

「藤堂…………」


「いいの! そんなことより優子よ、優子は私が知ってることも知らない。それは、正直私のせいでもあるから、外野にとやかく言う権利なんて無いのに誰が…………石澤は誰がとか知らないの?」


「分かんねぇけど、昼ちょっと色々あってさ、そん時のやつがメッセージくれただけなんだけど。イッチーに振られたやつの逆恨み? 隣のクラスの……」


 それを聞いて、脳裏に浮かぶ子が居た。

 あの時の? でも今更どうして。


「とりあえず行こう。こっからなら先生も居ないし走れる」


 廊下を走るな、という張り紙に心の中で謝りながら、そう言ったイッチーに頷いて早紀達は全速で教室に向かった。



 ◇◆



「だからさ、実際のところどうなの? って聞いてるのよ」


 目の前で詰め寄ってくる女の子を優子は冷静に観察する。

 今大きな声を出している子は、隣のクラスで絡んだことはあまりないけれど、確か主体性のない子だ。だから、多分この話の出どころは後ろで気弱そうな、沈んだ顔をしている可愛い女の子。


(確か……いっくんにバレンタインデーで告白して振られたって噂があったよね)


 他に二人程、付添のように一緒にいる子もいるが、そちらは本当に興味本位と付き合いだろう。熱量が違う。


「よくわからないんだけど、隣のクラスの杉野(すぎの)さん、そっちは加納(かのう)さんと、渡辺(わたなべ)さんに斎藤(さいとう)さんだっけ?」


 そこまで把握したあと、優子はゆっくりと四人の一人ひとりの名前を呼びながら見渡して言った。

 ちゃんと、それぞれを認識していることを伝えるように。

 そして続ける。


「それで? 急に来て何が言いたいの? 私別に貴女達のグループとも関わりは無いし、正直文句を言われる覚えも無いんだけど……」


 これは優子の本心でもあった。

 いっくん絡み以外には無いだろうとは思っているが、それでもこうしてわざわざ来て問われる意味がわからない。


「なっ…………」


 普段、千夏や早紀が目立っていることもあり、優子は気弱で大人しいと見られていることは知っている。だからこそ、人数が多くとも怯むこともなく普通に受け答えするのが意外だったのか、勢いよくまくし立ててきていた杉野さんが言葉に詰まる。


「櫻井さんが、佐藤くんの幼馴染だって噂は本当なの?」


 それを見て、後ろにいた加納さんがおずおずと、でもはっきりとした口調で質問をしてきた。


(…………やっぱりその件か、何となく感じてた視線もそういうこと? どうして今なんだろうとは思うけど、噂はどこから……)


「ねぇ? 聞いてるの!?」


 加納さんの声に被せるようにして、杉野さんがまた問い詰めるようにして聞いてくる。

 それを聞きながら、優子はそろそろ潮時だったかな、と思いつつ、自分の怠慢を呪った。


 もっと早く、バレンタインデーの前に伝えておくべきだった。

 ホワイトデーの前に伝えるには、タイミングが悪すぎて、言えなかったのだ。


(……シミュレーションもしたんだけどね、何で今更、しかも早紀ちゃんが気持ちを伝えた後に言うの? って言われる未来しか見えなくて。……ううん、怖くて先延ばしにしてた罰だよね)


「もしそうだとして、何か問題でもあるの?」


 とりあえず、優子はそう聞いた。

 噂と言っているが、そんな噂が広まっていれば、早紀や優子、千夏や玲奈の誰かの耳には入っているはずだ。

 それが無いということは、まだ広まっていないか、噂と言いつつ自分達が何かを聞いたり知った結果直接来たのかのどちらかだろうが、前者であれば少し困ったことになるかもしれない。今日だけは変なさざ波は起こしたくはなかった。


 少なくとも、イッチーや早紀の耳には今は入れたくない。


「…………認めるの? じゃあ、佐藤くんが言っていた忘れられない子っていうのはやっぱり。一緒の中学って子が昔言ってたのは本当?」


 加納さんがそう下を向きながら呟くのを、優子の耳はしっかりと聞き取った。

 それを聞いて、噂というよりは、まだ目の前の子たちが何かを聞いた結果、これから噂になる状態なのではないかと優子は考える。


「…………ねぇ、聞きたいのはきっと、私が貴女の言う佐藤くんの、元カノっていうのが本当なのか、でしょ?」


 だから、優子は先にこの場で言うことにした。


「……っ」


「あまり大っぴらに言うことでも無いけど、同じ中学の子も何人か居るしね。事実だよ。私と佐藤くんは幼馴染で、中学の時は恋人同士だった。高校に入学する時には別れていて、今ではまぁ、仲は悪くはないけれど恋人ではないよ?」


 そう告げる。

 すると、加納さんだけではなく、少しザワっとした波が周囲に広がった気がした。


「……それ、藤堂さんは知ってるの?」


 なるほど。何かと思ったらただの腹いせか。

 優子の言葉を聞いて出てきた加納さんのセリフに、優子は最悪では無い、そう判断する。

 でも、わかっていても間違いなくそれは、優子にしっかりと刺さる棘だった。


「……いずれ話すつもりではあるけれど、まだ知らないわ。でも、それが貴女達に何の関係があるの?」


「……貴女がそうやって、隠し事して佐藤くんを縛ったままだから、私は!」


「…………」


 貴女が振られたのは、別にそのせいだけではない。

 そう言い返そうかと思ったけれど、思った以上に優子にその言葉の暴力は突き刺さる。


(縛ってる……でも、大丈夫、だって今日できっと。その後、早紀ちゃんにもちゃんと話す)


「黙ってるって言うのは(やま)しいって思っているんじゃないの!? そんなんだからさっき藤堂さんだって……!」


 黙っている間に、加納さんはヒートアップしていく。

 ただ、流石に最後の言葉が引っかかって優子は聞き返した。


「……え? 早紀ちゃんが?」


「さっき、そっちの廊下から体育館の方見てた。私今日、藤堂さん見てたから……何であの子はいいのってそう思って。でも、さっき佐藤くんと話していた雰囲気はきっと…………そう思ったら貴女に確かめたくなったのよ」


 加納さんの言葉が、理解できないまま耳から耳へと抜けていく。


「実はまだ、好きだったりするんじゃないの!? 同じグループの子を応援する振りして、貴女と佐藤くんが仲良さそうにしてたっていう話だって聞いてるんだからね……よくそんな隠し事したままで、平気そうな顔で友達面してられるわね!?」 


(そんな…………何で?)


 正直目の前の加納さんの声はあまり聞こえていないのに、心の中には何かが刺さっていく気がした。


「大丈夫優子!? それに今のは……あんた達、何のつもり? 何してるの?」


 そんな時だった、今尤も聞きたくない声が廊下から聞こえたのは。

 入り口に目を向けると、そこには今知られたくないと思っていた早紀と、そしていっくんの姿が見える。


 頭が真っ白になるというのは初めてだった。

 冷静さを保とうとしていた虚勢も、考えることで保とうとしていた平静さも、限界が訪れる。


 そして――――。



 ◇◆



「大丈夫優子!? それに今のは……あんた達、何のつもり? 何してるの?」


 早紀が少し遅れて教室の前にたどり着いた時、優子が女子数人に囲まれているのが見えた。

 大きな声で叫ぶような女子の声は聞こえていたけど、優子がそんなものでどうにかなるとは思っていなかった。でも、その顔色を見た時にその考えは間違いだとわかる。


「……優子」


「早紀……ちゃん」


 早紀の声に答えるようにして、優子がそう呟いて下を向いた。

 そして。


「ごめん……ごめんなさいっ!」


 そう言って優子が教室から走り去る。

 誰もが虚を突かれたようににして、それを止められなかった。


「あぁもう。追いかけろよイッチー。よくわかんないけど、大事な子なんだろ!? じゃあ今止まってる場合じゃないだろうがよ!」


 それを破ったのは意外なことに石澤だった。

 石澤が教室と、走り去った優子を見て、イッチーにそう言う。


「……石澤の言う通り、ここは任せて。後、優子に伝えて。私はちゃんとわかってる。わかってる上で優子の友人のつもりだって。まぁ、ちゃんと自分でも話すけどね…………後、何かご馳走してもらうからって言っておいて」


 早紀もまた頷いて、イッチーに向けて言った。


「……ありがとう」


 そんな二人にイッチーはそれだけ残して、もう一度走って教室から優子の後を追うために走り去っていく。


 後には、そちらを睨むように見る早紀と、唖然とした表情で教室から出ていった二人を見ている女子たち。そしてどこか所在なさ気な顔をした石澤が残された。


「さてと、あんた達、隣のクラスよね? どういうつもりで他人のクラスに来て騒いで、私の友達にあんな顔させたのか教えてもらっていいかしら?」



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― 新着の感想 ―
[良い点]  盛り上がってまいりました♪  早紀ちゃんと優子さん、安心して読んでいられます  石澤くんもイイ男になっちゃいましたね~
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