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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第1楽章 そして、二度目の春が来る

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第1楽章 23節目


 その年の和樹にとってのホワイトデーは、波乱から始まった。


 和樹の耳にそれが入ってきたのは、ある意味少し前の和樹の行動からして必然だったのかもしれない。

 元はと言えば、昼休みにメッセージアプリのとあるグループの通知がやたらと多くなっていたのに気づいてからだった。


『なぁ、バスケ部の佐藤、二股かけてるらしいって本当かよ?』


『何か藤堂と、後幼馴染の元カノだっけ?』


『幼馴染って、確か藤堂と一緒によくいる櫻井って噂もあるぞ?』


『まじかよ、美人スレンダーに小柄巨乳美少女だと…………くそイケメン死ねばいいのに』


 ほとんどつるまなくなったとは言っても、メッセージのグループにはまだ所属している。

 それを見て、和樹は二ヶ月ほど前まではいつも行っていたサッカー部のたまり場へと足を運んだ。


 その途中だった。

 何やら女子のグループと、先程のメッセージグループに居た男子達が会話をしているのが聞こえてきた。


「――――ちゃんの告白は忘れられないからって断っといて、藤堂さんとはこないだ二人で歩いてたらしいよ?」


「うわー、よりによって元カノと同じグループの女の子と? ちょっと幻滅っていうか」


「元カノと同じグループってどういう事? さっき佐藤の元カノが幼馴染とかは聞いたんだけど、誰?」


「同じ中学って子が居てさ、その子に問い詰めたら櫻井さんらしいよ? 藤堂さんとか、後南野さんと一緒にいる子」


「やば、ドロドロじゃん? 面白そう! イケメンと美人カップルの裏に幼馴染の元カノの影?」


 誰彼構わず、笑いながら話をしているのを聞いて、和樹はふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じていた。

 同時に恥ずかしいという思いも頭をのぞかせる。


 間違いなく、あそこに自分は居たのだ。

 今になって何を怒っているのかと思われるかもしれない。むしろ率先して噂を流して、人を貶めようとした自分もまた、和樹自身であるとわかっている。


 でも、今、どうしようもなく和樹は心の中を乱していた。

 他人の、スキャンダルとも呼べない、根も葉もない噂を事実かのように話をしている彼らに。


(イッチーは少なくとも、絶対にそんなことはしねぇ。藤堂だってそうだ、そんな奴が、そんな奴らがあんなに輝いて見えるもんかよ)


 足音が強くなっていたのか、一人が和樹に気づいた。

 そして、へらっと笑みを浮かべて話しかけてくる。


「何だよ石澤、久しぶりじゃねぇか。何か急にバスケに目覚めて真面目ちゃんやってるって聞くけど、そっちのエースにスキャンダルらしいけど実際のとこどうなの?」


「…………そんなことをイッチーがするとは思えねぇよ。一体どこ経由の噂なんだよ?」


「何? お前怒ってんの? そんなキャラじゃね―だろうに」


「いいから、イッチーが二股掛けてるなんざあり得ねえ噂はどこから出てきたかって聞いてんだって」


 和樹の様子に、ぞろぞろと話していた連中がやってくる。


「何だよお前、偶々あいつらと絡むようになったからって友達気取りで文句あるってのか? 大体お前だって元々こっち側で同じこと言ってたやつじゃねぇか」


「……それは」


「南野と二番の時だってよ、一番噂撒いてたのお前のくせしやがって、自分は和解してよ…………気に入らねぇと思ってたんだよ」


 そう言われて、このグループの中で一番声がでかく体格のいい奥田に肩を小突かれる。


(…………っ)


 咄嗟にビビった自分が情けなかった。

 でも、それ以上に、何か別の感情に動かされるようにして、その手を振り払って和樹は言う。


「う、うるせえよ、俺のことは今は良いだろ…………大体お前ら、別にイッチーとか藤堂と絡みがあったわけでもねーだろ、クラスも違うし何だってそんな噂仕入れてやがる?」


 すると、後ろの方で興味なさげに見ていた女子――名前は忘れたが確かイッチーが好きっていう子の取り巻きの一人だったような――がこちらに向けて言葉を発する。


「石澤だっけ? 何調子乗って噂って決めつけてんの? 誰かに聞いたとかじゃなくて、あたしら見たんだわ。佐藤と藤堂が並んで帰ってるの。それも休みの日にね。あれデートでしょ」


「…………それってこないだの日曜日か?」


「そうだけど、あれは絶対に何かあるよ…………そりゃ藤堂は美人だとは思うけどさ、ヒカリの事を元カノが忘れられないからって振っておいて、すぐに別の女とはデートしてるってどうなのって思っただけ。元カノが藤堂じゃないこと位、わかってるしね」


「何だよそりゃ……そんなのお前らに関係ねぇし、しかも二股でもなんでもねーじゃねぇか? あいつらは――――っ!」


 そう言うと、先程振り払った奥田に口を掴まれて壁際に押し付けられた。


「五月蝿えやつだな。付き合う奴ら変えたからって自分が上になったとでも勘違いしてんのか? 俺らが何をどう言ってようが関係ねぇだろうが。嘘はついてねぇしな…………へ、爽やかイケメンなやつでも、女絡みじゃだらしなさそうってのも面白いじゃねぇか。お前だって元々面白がってたやつだろうが、何様のつもりでいやがる」


「ちょ、ちょっと奥田くん? 流石にやり過ぎじゃ」


 後ろの女子が引いたようにそう言う言葉も、和樹はあまり聞こえていなかった。

 恐怖も不思議と無い。ただ、情けなさがあった。


「ゲホ…………奥田さ、お前、マジつまんないよ」


「あん? 石澤のくせに何て言いやがったお前」


「つまんねぇって言ったんだよ……ほんと、止めてくれよ。昔の俺を見せつけるみたいにそんな言葉吐き散らかして、八つ当たりみたいに、それこそ俺みたいなのにまでムキになってよ。何も楽しくね―だろうがよ? そんな立ち位置で陰口みたいなこと言って、何も楽しくねーだろうがよ!? ダセ―ことばっか言ってんじゃねぇよ――――っ!」


 セリフと同時に腹に衝撃が走る。

 膝を入れられた、と思うと同時に身体がくの字に曲がってしゃがみ込む程の痛み。

 でも、言葉は止まらなかった。


「あいつらはちゃんとしてんだよ。ちゃんと外からじゃわかんない位悩んで、迷って、でもちゃんとしようとしてる奴らなんだよ。俺やお前らなんかが邪魔していいやつじゃねぇんだって」


 和樹の言葉に奥田が追撃を入れてこようとしたのがわかった。

 ただその時――――。


「先生! こっちです!」


 聞き覚えのある声が聞こえて、足音がした。


「やべ……おい、逃げんぞ!」

「手ぇ出したのは奥田だけだかんな、俺らは知らね」

「あ、あたし止めたからね!」


 そんな事を口々に言いながら、あっという間に散り散りになって逃げていく。

 和樹がぽかんとしてそれを見ていると、後ろから声がかかった。


「こういうことなら同じ部活仲間に声かけるもんなんじゃないの? あ、ちなみに先生は嘘ね。呼んだら却って面倒なことになりそうだったし、一回位こういうの言ってみたかったんだよね」


 振り向くと、上木が腕を組んで逃げた奴らを見ながら立っていて。


「大丈夫だったか? 腹に入れられてたよな? 随分と頑張ってた。改めて見直したぞ」


 下山が淡々と、でも心配そうにしながら引き起こしてくれた。


「…………石澤、その」


 そしてその後ろには、どこか所在なさ気な顔で、イッチーが立っていた。


「ああいや、痛いけどまぁ大丈夫。顔とかあっちも避けてたから怪我とかはねぇし…………下山に上木、それにイッチーまで」


 ちょっと飯行けないって言っただけなのに何でここにいるんだ、そう思って和樹が言うと。


「そりゃこっちのセリフだって、こんな事になってるのに水臭いじゃねぇか、仲間だろ?」


 そんな上木のイケメンなセリフに少し泣きそうになるが――――。


「……いや、騙されるな石澤。こいつは学食の前にお前を見かけて、実はバレンタインデー貰っていてこのホワイトデーで抜け駆けしたんじゃないかって邪推で後をつけただけだ。完全に偶然だ」


 続く下山の言葉で霧散した。


「いや、下山お前だってノリノリで付いてきてたじゃねぇか!?」


「……ははは」


 目の前で馬鹿をやってくれる二人に、和樹は笑いが溢れる。

 そして、何か言いたげで無言で和樹を見ているイッチーに言った。


「なぁイッチー、あいつらが言ってたことなんて気にすんなって。噂は噂だし、多分南野達のときと違ってそんなに回らないよ、多分…………それに、手出されたお陰で、俺がチクるとやべぇって思われただろうしな」


「…………あ、その。マジでありがとな、石澤。後、すまん……聞こえてたのに、咄嗟にすぐ助けに入れなくて、そのせいで蹴りまで入れられて……」


「いいよ、俺が勝手にやったことだしむしろ来てくれて助かった。それにその、詳しい事情は知らないけどさ。……イッチーこの一週間くらい、マジでずっと悩んでたっしょ?」


 和樹がそう言うと、上木と下山もうんうんと頷いた。


「え? わかってたの?」


 イッチーがぽかんとそんな事を言うのに、和樹は他の二人と顔を見合わせて言った。


「そりゃあなぁ……」


「ずっと心ここにあらず、シュートも外しまくるし」


「そうそう、お陰で俺らだけ連続シュート決めのループ長かったし」


 同じく気づいていた者同士で気づかれていないと思っていたのかと笑う。

 和樹自身、あの日の藤堂の背中も、イッチーの悩みも見ている。わからないなりにわかっているつもりだった。

 だから言葉を重ねる。


「だからさ、あいつらが何言おうが、俺らくらいはわかってるってことで。まぁ、イケメンはモテるのは今更だし…………それに藤堂のことも知らんわけじゃないし」


「ありがとう…………まぁ、どっちにしても今日でちゃんとケリをつけるつもりだから。そのさ……」


 そんな和樹達に、イッチーはその無駄に整った顔に照れたような表情を乗せて口ごもるので。


「じゃあ次の部活休みはカラオケだな……イッチーの祝いでイッチーの奢りで」


「うまく行かなかったら慰め会で…………いや、俺としてはそっちの方がいいな。彼女もいない身で純粋な心で祝ってやれる自信はないが、慰めてやれる自信はあるぞ、イッチーの奢りで」


 和樹が言うと、上木も乗っかって言う。


「勿論俺も参加で…………ところでもうすぐ昼休み終わるぞ? 飯は?」


 それに、下山がそんな事を気づいたように言うので、四人で慌てて食堂へと向かった。


 きっと、放課後にはイッチーの言うケリがつくのだろう。

 正直藤堂の事を含めて、気にはなるものの、今はその話題は出さないまま、昼休みの時間は慌ただしく過ぎていった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ひと月って、大人になるとあっという間に過ぎる時間だけれど、この時代はまだまだ長い時間だったのかなあ。 結論を出すには速いような気もするのは、年を取ったからかな。
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