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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第1楽章 そして、二度目の春が来る

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第1楽章 16節目


「何でまた急に? 一昨日のメールでは来る前には連絡するって言ってたのに」


「いやな、元々は帰国した後東北の方に飛ぶことになってて、こっちに来るのは後になるはずだったんだが、ちょっとスケジュールがずれてな。ほら、週末は友達とバスケに行くって話だったからせっかくだからここにも顔出して見ようかと思ってなぁ」


「いや、そもそも何か美咲さんとも知り合いだったの? 聞いてないんだけど」


「ん? まぁ言ってないからな。そんなことよりハジメ……そろそろ紹介してくれよ」


 そんな話をハジメとその男性がしているのを聞きながら、千夏は物凄く緊張していた。


 目の前にいるハジメの叔父という男性は、威圧感があるわけではなかった。

 面立ちは整っているが、どちらかというと柔和な容姿だろう。瞳が湛える光は優しげで、似ているわけではないのに、ハジメの叔父と言われて、なるほど、と思う雰囲気が漂っている。

 ハジメの叔父ということは、40代にはなっているのではないかと思うのだが、とてもそうは見えない。上品な、それでいて動きやすさも重視したカジュアルでもある服を当たり前のように着こなすその姿は格好いいと思った。


 ただ、である。


 千夏は、ハジメと恋人同士になって、短い間ではあるものの、たくさんの事を経験してきた。

 正直、同じ高校の少々長く付き合っているであろう他の恋人達と比べても、余程心を通わせられている恋人同士である自信もあるし、仏前で、これまでのことを、ハジメの家族に対して語ったこともある。


 しかしそれでも、ハジメの口からよく聞いていた、師としても叔父としても慕っている相手に初めて会うことで、今更ながらに、急にお付き合いしている男性の両親に会うことになった彼女の状態とでも言えば良いのだろうか。

 急に湧き起こってきた緊張が心を支配し始めているのを止められないでいた。


 いや、はっきり言おう。

 ――――千夏は、怖いのだ。


(どうしよう……もしも、ハジメに相応しくないとか、こんなのが彼女なのかとか思われたら……うう、会いたいとは思ってたのに、こんなに急に会うことになるなんて。大丈夫かな、格好とかも変じゃないよね?)


 勿論、聞いている人となりでも、理由もなく悪い印象を持つような人ではないのだろうと思う。

 でも、ハジメにとって唯一とも言える肉親。両親を亡くしたハジメを支えて、今のハジメたる所以(ゆえん)を叩き込んだ人。

 ハジメは、千夏の母親である涼夏にも、そして急に会うこととなってしまった千夏の祖母や親族に対しても本当に真摯に対応してくれて、そして気に入られていた。

 同じことを、千夏はしたかった。できると思いたかった。


 尤も、そんな千夏の緊張は、もしかしたら見透かされていたのかもしれない。

 何故なら、ハジメが千夏のことを彼女だと紹介してくれた後で、彼は自己紹介をしてすぐに、深々と頭を下げてこう言ってくれたのだから。


「キミが千夏さん、なんだね。初めまして、ハジメの叔父で、(かける)と言います。…………色々と話したいことはあるのだけれど、まずは、本当にありがとう」


「え? …………いえ、そんな、お礼を言うのは絶対うちの方です。頭を上げてください!」


 千夏は慌ててそう言った。大人の男性に、ここまでしっかりと頭を下げられたのは初めてで戸惑ってしまうのもあるが、いつも助けてもらっているのは、千夏の方なのだ。

 そんな千夏に、翔は頭を上げて、より優しさを目元ににじませるようにして、微笑んで言った。


「ふふ、ハジメには生活をできるための事は叩き込んだつもりだが、どうしても、一緒に居て、寂しさを埋めてあげることはできなかった。高校生活も、電話やメールを通して知ってはいたが、ハジメの性格的なこともあるだろうが、事務的な事しか言ってこなくてね……」


 そして翔がハジメの方をちらりと見ると、ハジメが珍しく照れたような、少し不貞腐れるような顔をして言い訳のように言う。


「そうは言ってもさ、そんなに報告するようなことも無かったし…………」


(うわ、大人の前で子供みたいに言い訳するハジメって、凄いレア……可愛いかも)


 少し緊張がほぐれて、そんな事を考える余裕が出てきた千夏に、翔は優しく続けた。


「それが変わったのは、秋になってからのことだ。千夏さん、きっと、君に出会ってからなんだろうと思う。…………電話の声色や、メールのちょっとした文面に、ハジメが自分だけではない誰かの気配を感じさせてくれるようになったのは」


「あ…………」


 ハジメと、きちんと出会ったと言えるのは、秋のことだった。


「だからね、最初に会ったら、お礼を言おうと、そう思っていたんだよ。……一人になってしまったと思いこんでいた、うちの馬鹿な甥っ子を見つけてくれて、ありがとう」


 そう言われて、千夏の中で、緊張は溶けるように消えていくのを感じた。

 彼は、目の前の男性は、まごうことなきハジメの叔父だと思った。


「……こちらこそ、改めて、ありがとうございます。ハジメくんの恋人をさせていただいている、南野千夏と言います。こうしてお会いできて、そう言って頂けて、本当にとても嬉しいです!」


 笑顔でそう告げることができた。

 すると、翔さんはふっと笑って、ハジメの方を見て少し砕けた口調で言った。


「何だよハジメ。お前、こないだどんな子だって聞いたら、今まで見た中で一番可愛い子だとか言ってたから恋は盲目ってやつかと思ってたけど、本当に美人でしかも良い子じゃないか、いやぁ羨ましいねぇ」


「…………良いからその余計な事しか言わない口を閉じて、叔父さん」


 そんな風にからかわれて赤面しているハジメを見ると、千夏も頬が緩んでくる。


「ふふふー、一番可愛い子って言ってくれてたんだ、嬉しいなぁ」


「くく、最近は何か惚気みたいな感じになってきてるからね、いやー、千夏さんのような子が彼女になってくれて、叔父として本当に嬉しいよ」


「あ、千夏でお願いします。うちも、翔さん、とお呼びしていいですか?」


「おお、勿論だよ。でも呼び捨ては抵抗があるから、千夏ちゃん、にさせてもらおうかな? 是非、甥っ子との馴れ初めから何からを聞いてみたいね」


 そう言って、ふふ、と笑い合う。

 それを見ていたハジメが、ため息を付くようにして言った。


「……多分気が合うんじゃないかなとは思ってたけどさ、一気に距離が縮まりすぎじゃない?」


「お? 何だ叔父さんに対してヤキモチか? 千夏ちゃん、大丈夫かい。こんな心の狭い甥が彼氏で」


「ふふ、ヤキモチを焼いてくれるのが嬉しいくらいに、うちもハジメの事が好きですから大丈夫です」


 千夏がにっこりと笑って言うと、翔さんは少し目を見開いて、ハジメの方を向いて言った。


「……いやー、これは中々。ハジメ、お前逃すんじゃないよこんな良い子」


「……それは十分わかってるしそのつもりだよ」


 そんな風にやり取りするハジメの諦めたような顔と、益々笑みを深くする翔さんを見て、千夏は内心でホッとする。

 そして同時に、とても嬉しい気持ちに包まれていたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  ハジメの師匠とも言うべき叔父さんの登場で [気になる点]  群像劇のストーリーがどう動くのか!? [一言]  和樹が気に入られる未来しか見えない!  ↑(視野狭窄)
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