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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第1楽章 そして、二度目の春が来る

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閑話参


 イッチーと鉢合わせする一幕はあったものの、その後は普段どおりご飯を食べて宿題を終わらせて、それぞれ風呂に入る流れはいつも通りだった。

 

 イッチーが帰る時に少し固まっていた気がしたけど、週の半分を共に過ごすとはいえ、常にイチャイチャしているのかというとそんなこともない。

 僕は本を呼んだり、千夏はゲームをしたりしてゆっくり過ごしていることが多いと思う。

 ――まぁ、恋人らしい事をしないわけではないけれど。


 今日はというと、僕のほうが先に諸々のやるべき事が終わったので、先にお風呂に入って、今の時間は千夏がお風呂に行っているので一人でリビングにいた。


 ブブ、とスマホがメッセージが来たことを告げる。相手は千夏の母親であるところの涼夏さんだ。

 涼夏さんとは結構ご飯のことや千夏のことでメッセージをやり取りしているが、本格的に昇進を果たしたようでここ1ヶ月はかなり忙しいようだった。


『(涼夏)今日もごめんなさいね、ハジメくんのお陰だわ。というか先週は作り置きまで頂いてしまってありがとう』


『(ハジメ)いえいえ、教えていただいた味付けになっているといいんですけど』


『(涼夏)それはもう免許皆伝だったわ』

『(涼夏)いつ婿に来てくれても、嫁に来てくれてもいいのよ?』


『(ハジメ)婿はともかくとして、嫁にはなりませんよ……』

『(ハジメ)最近本当に忙しそうですけど大丈夫ですか?』


『(涼夏)昇進すると最初の数ヶ月は成果も出さないといけなくてちょっと忙しいっていうのもあって。元々断ってたんだけどね』

『(涼夏)こんな頼り方をしてごめんなさいね』

『(涼夏)お代は娘が身体で払うから』


『(ハジメ)マジで何を言ってるんですか……』


『(涼夏)あらあら、家事とかをさせるって意味で言ったのだけれどハジメくんは何を想像したのかしら笑』


『(ハジメ)うう、絶対わざとじゃないですか』

『(ハジメ)でも本当に、お返しとかお代とか無しでいいので、何より身体に気をつけてくださいね!』


『(涼夏)ふふ、ありがとう。じゃあ頑張ってくるわ、千夏にもよろしくね』


(いやー、普通彼氏に娘への伝言は頼まないんだよなぁ)


 そう思いながらも、何だかんだ涼夏さんとの話は勉強になることもあるので、やり取りはかなりしている。

 千夏とのグループもあるけれど、料理だったり、ちょっとしたお礼は個別に来ることが多かった。

 家族が居ない僕にとって、暖かさを感じさせてくれることもあって、本当に感謝している。


(真司からのレストランは予約できたけど、それとは別に、何かプレゼントもあげたいかな。でもあまりあげすぎても気を使うだろうし、定番のお菓子とか、ちょっとしたアクセサリーかな?)


 そんな事を考えながら、ネットサーフィンに勤しむと、時期が時期だけあって、様々な特集が存在する。

 そこから派生して調べてみると、イッチーと話していて知った、マシュマロの意味の他にも色々と出てきた。


「うわ……凄いいっぱいあるな」


クッキー :「仲の良い友達の一人」

マドレーヌ:「あなたとより特別な関係を築きたい」

マカロン :「あなたを特別な人だと思っている」


 と言った食べ物系に続いて、頭をよぎっていたアクセサリ系などの意味も見るのだが。


ネックレス :「あなたを独占したい」

ブレスレット:「あなたを束縛したい」

靴     :「(私の元から)自由に飛び立って欲しい」

テディベア :「(僕だと思って)大切にして欲しい」


「……プレゼントの意味なのにどういうことなの? うーん、この中だと、マカロンかな、調べるとアクセサリあげにくい……誰だよ意味考えた人。っていうか靴って何? どういう場面で使うの?――――」


「ハジメ? 上がったよ―」


 普通に思いついていたネックレスなどの意味の重たさに気を取られていたせいか、千夏がリビングに来ていたのに気づいていなかった僕は一瞬ビクッとして、さり気なくスマホを置いて振り向いた。

 しかし、千夏は目ざとく気づいて、ニヤッと笑って言う。


「ん? なんか今さり気なく隠さなかった? …………もしかして、エッチなサイトでも見てた?」


「いやいや、見てないって!」


 濡れ衣は否定しつつ首を振ると、千夏は面白いものを見つけたようにすすっと近づいてくる。

 お風呂上がりのとてもいい香りと、少し無防備な部屋着から除く素肌に、未だに慣れずに目を逸らしてしまう。


「慌てて否定するのが怪しいなぁ……まぁ、別に怒ったりはしないんだけど…………」


「だけど? やっぱり千夏的にはアウトなの? 見てないけどね!」


「……うーん、アウトではないけど、それならうちも見たい」


「え? 見たい!?」


 僕が斜め上の回答に聞き返すと、千夏が少し照れたようにか細い声で言った。


「………………だって、どんな趣味なのか知りたいじゃん」


 うわ、なんだろう、この可愛い生き物。

 そんなもじもじとする千夏に、うっかり持っていかれそうになった頭を何とか再起動させて、僕はとりあえずホワイトデーのお返しの意味について話をすることにした。イッチーからの相談の件も含めて。



 ◇◆



「あはは、そんな意味あるんだ……あー、でもマシュマロかぁ、早紀とか意外と意味調べそうだからね、ハジメ、ナイスだったね」


「でしょ? あ、そういうわけで土曜日行こうかなって思うんだけど、千夏もいいかな?」


「それはオッケー、皆にも来れたらってことで言っておくね。後、ゆっこのことかー、今日も早紀もゆっこも一緒に居たんだけど、普通だったのはそうなんだけどねぇ」


 話の中で、少しだけ気がかりのように千夏が言うのに僕が首を傾げると。


「ねぇハジメ。あのさ、悩んでるのはわかるけど、それを言葉にできない時ってさ。黙って待ってるのと、無理に聞き出すの、どっちがいいのかなぁ?」


 千夏がうーんと唸りながら、そう尋ねてきた。


「それは、場合にはよると思うけど。千夏はどうしたいの? 流れ的に櫻井さんのこと、だよね?」


「そうそう。その、うちも、わかってるわけじゃないけどさ。ゆっこってイッチーくんのこと、どう思っているか、きっと自分でもわかってないんじゃないかなって思うんだよね」


「自分でも?」


「うちも経験あるから分かるんだけどさ……何ていうか、自分の声を一番聞いてるのって自分じゃない? だから、自分すら納得させちゃうことってあるんだよね」


「…………それなら確かに、僕も分かる気がする」


 自分の声を一番聞いているのが自分、か。

 確かにそれはそうだった。他人への言い訳だったり、演じ方であったり。

 そういうもので形作ったものが、いつしか自分にとっても事実かのように感じることはある。実際はそうではなくても、そう思いこんでしまうというか。

 そしてそれは、自分で自分に掛けたそんな暗示は、自分では中々解けなかったりするものだ。


 僕は、千夏によって、自分への自信のなさなんてものを、壊してもらったのだから。

 

「……早紀を応援しないわけじゃ、無いんだ。…………ただね、今のままだとゆっこが静かに、ゆっくりと、寂しくなっちゃわないかなって感じるんだよね。ハジメはどう思う?」


「イッチーに話を聞いてる感じだと、イッチー自身は藤堂さんにも惹かれて来ていると思う、でも、それ以上に櫻井さんの事を想ってそうというか。……でもそうだね、誰もがうまくいく、なんて結末は無いのかもしれないけれど、誰もが自分の中で決着をつけられるような結末があるなら、その手伝いになれるならとは思うね」


 僕が考えながら、言葉を選びながら口に出すと、千夏はそんな僕を見て笑う。


「……えへへ、ハジメのそういうところ、好きよ?」


「唐突に何? 嬉しいけど心臓がもちません」


「ちゃんとさ、現実的に考えつつ、一番優しい着地を考えようとできるのは、美徳だと思うよ?」


「まぁ、僕らのときにも皆助けてくれたし…………何よりいい友達だと思うからね。でも最後に決めるのはイッチーであり、藤堂さんであり、櫻井さんだから、僕らにできることは変なすれ違いにならないようにとか、それこそ他人が必要になった時に動くとかなのかもね」


 僕もそう言って笑った。

 僕も千夏も、今こうしていられるのは、僕らだけじゃない、色んな人のお陰なのだから。


「……あ、他人がといえば早紀が言ってたんだけど、意外や意外、石澤がさ――――」


 ホワイトデーに何をあげようか、という話はひとまず頭から消えて話に集中していく。こうして千夏と穏やかに過ごす夜の時間もまた、かけがえのない日常だった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ん?石澤がどうしたんだい?  意外?え、まさか!?  モテモテになってたりとか?そんなバカな!  いーしーざーーわーーーー ー   ー [一言]  あ、涼夏さんお久しぶりっス。  昇…
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