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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第1楽章 そして、二度目の春が来る

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第1楽章 13節目


「うーん、そっかぁ」


 隣で千夏がスマホを見て深々とため息をついて、そして何故か感慨深そうに言うのを見て、早紀は首を傾げた。

 木曜日は部活動が無い日として早紀の通う高校では設定されている。

 正確に言うと、学習奨励日というやつで、文武両道を謳う校風の中で設定された、家で勉強をしましょうという日だ。大会前などは慣例はスルーされるが、全国を目指すほどでもない部活は基本、休みになる。


 勿論のことながら、勉強をする生徒もいるだろうが、早紀はそこには属さず、グループでの友好を温める一日となっていた。


「どうしたの? 千夏」


「あはは、きっとハジメくん絡みなことは間違いないよね」


 向かい側に座る玲奈と優子もまた、同じように気づいて千夏に問いかける。

 それに千夏が柔らかな笑みを浮かべながら、告げた。


「まぁ、そうなんだけどその言い方は釈然としないなぁ」


 少しばかり不満そうな千夏に、早紀もふふ、と声を漏らして言う。


「でも実際、千夏がそういう顔をするのはハジメくん関係の時だけでしょ?」


 一週間程前のタイミングから、早紀は同じクラスの佐藤のことを優子と同じように下の名前で呼ぶように変えていた。そして佐藤くんのことは、慣れないながらにイッチーと呼ぶ。どちらとも話すようになった結果だった。


 まだ正直間合いを測りかねている部分はあるとはいえ、少しずつ、相手のことを知って、そして知ってもらっていく。

 好きな漫画、好きなゲーム、好きな音楽、嫌いな食べ物、苦手なこと。

 そんな何の変哲もない事が、一つ知る度にかけがえのない物に変化していった。


 付き合っているわけではない。

 でもきっと、恋愛初期の幸福感とでも呼ぶべき何かを早紀は今の曖昧な関係を通して受け取れていた。ある意味、失うものもない。それがまた、これまでの心の中だけに留めていた想いとは違って気楽でもあった。


「そうかなぁ? まぁ、今日は友達を家に呼ぶからって連絡が来たんだけどさ」


「へぇ………………ん?」


「今まで、絶対うちしか入ったこと無かったはずなのになぁっていう思いと、呼べるようになったんだなぁっていう思いとで何だか感慨深くなったというか」


 千夏がそう言うのに対して、早紀は優子にそっと話しかける。


(ねぇねぇ……いや、別に駄目じゃないんだけど、何でうちに旦那が友人を連れてきた雰囲気なんだっけ? うちのお母さんが、お父さんが同僚を連れてくる時と空気が同じなんだけど)


(…………早紀ちゃんも気づいちゃったか。ちらっと聞いた感じだとね、週に二三日位は普通に泊まってそうな勢いなんだよね)


(……まじで?)


(マジのマジです、ソースは本人)


 この間、千夏がスマホで返信する一瞬のやり取りである。


 驚きの情報を嬉々として教えてくれた優子を見る。

 早紀が事の顛末を説明した時も、穏やかな笑みで良かったね、と言ってくれた優子。

 危惧していなかった訳ではないけれど、関係としては良好なままだった。きっと全ては優子のおかげで。

 早紀にはその笑顔の裏がわからないけれどいいのだろうか、と悩んだ時間も少しあったが、考えても仕方ないことと思うことにしていた。

 第一結局のところ、早紀がイッチーにどう思ってもらえるか次第なのだから。


 早紀は今の状態に浮かれつつも、冷静な頭では期間限定のようなものだと思っている。

 日本のイベントはよくできていた。バレンタインデーの後にはまだすぐに、ホワイトデーというものが来るのだ。長いようで短くて、短いようで長い一ヶ月。


「そういえばさ、玲奈ってバレンタインデーは誰かにあげたりしたの?」


 スマホから目を離して、千夏が向かいに座る玲奈にそう質問した。

 確かに、早紀もそれも少し気になっていたので、深掘りはやめてそちらに話題が向かう。元々恋愛に興味は無い子ではあるけれど、婚約者はいるということだし。


「……私ですか? そうですね、一応あれは、殿方に渡したということになるのでしょうか。喜んでは頂けていたようですが」


「何々? 玲奈ちゃんのそういう話は珍しいから聞きたい!」


 興味が無い、と思われていた玲奈の口から出てきた言葉に、聞いた千夏以上に優子が食いつく。

 相変わらず人の恋愛話には興味津々だなぁ、と思いながら、早紀も同じだったが。


 そうして、久しぶりの女子トークは色んな話題を交えながら華を咲かせていった。



 ◇◆



「ねぇハジメ……当たり前のように化粧品が置いてあるんだけど、これってさ」


「あぁ、千夏が大体揃えてるからねー。僕片付けそこまで得意じゃないから、あまり触らないようにして手洗ってきてね、珈琲になにか入れる?」


「……あ、あぁ。じゃあ砂糖なしで牛乳少し入れたいかも」


 俺はあっさりと返ってきた答えに少しばかり驚きながら、ハジメの家の洗面所で手を洗いながら、まじまじと見なくても見えるそれに視線を向けていた。


(家族のことは少し聞いたけど…………その上で家族で住んでる感が出てるんだけど。これって、全部南野のなのか)


 幼馴染とは言え、流石に家に優子の化粧品や歯ブラシが置いてあったことは無い。

 ハジメは淡々としているけれど、何かこれは変なのではないだろうか?


 少しばかり不思議な気持ちになりながらリビングに戻ると、ハジメによって、マグカップに珈琲と、小さなガラスの器にミルクが注がれて用意されていた。

 キッチンに立ち慣れている雰囲気がよく分かる。学校の落ち着きとはまた違ったハジメを垣間見た気がした。


「イッチーは、藤堂さんと付き合い始めたってわけじゃないんだっけ?」


「うん、そういうわけじゃないよ。…………伝わりそうだけど、南野さんからはあまり聞いてはない?」


「そうだね、まぁ全く話をしないことは無いけど、その辺はお互いに言っちゃいけない事は気をつけてるかな。ほら、僕らも仲良いし、千夏たちも仲良いし、ね」


 そう言ってハジメが前に座る。

 今日は部活も無く、ハジメがバイトも無いということだったので、少し相談したいと声をかけたところ、立ち話もなんだから、良かったら家に来る? と言ってもらえたのだった。


 正直、恋愛系の相談をするなら、俺の中で一番頼りになりそうなのがハジメだ。

 というか他にあまり当てが無い。


 尤も、早々に恋愛の先輩としての気配を感じることになるとは思わなかったが。



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― 新着の感想 ―
[一言] うーむ、思春期の童貞には辛いお家になってる気が(笑) 好きって感情が無くても、同級生のそういうとこが垣間見えるとおっきくなっちゃいそうですよねw
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