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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第1楽章 そして、二度目の春が来る

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第1楽章 9節目


 校舎裏で、二人の男女の会話がかすかに漏れ聞こえている場所に、早紀は立っていた。

 いけないと思いながらに、声に耳を澄ましてしまう自分を止めることはできない。


「あの……ずっと好きでした。これ、受け取ってください。付き合ってもらえませんか?」


「ありがとう、でもごめんなさい。……俺、他に好きな子がいて、まぁ、一度振られてるんだけど俺がまだ諦めきれないっていうか。だから、それは受け取れません」


 昼休み、早紀は呼び出すかを迷いつつ、佐藤くんを探していた。いつもは食堂で食べていると聞いたがおらず、中庭の先で見たよ、と友人に聞いて向かう。

 そして、声が聞こえて、すぐ何であるかを悟ったのに、早紀はその足を止められず今に至っていた。


 こんな日に呼び出す時点で、何もなくとも相手には伝わるだろう。

 その勇気を、早紀よりも早く出した女の子。

 佐藤くんと話しているそんな相手は、別のクラスで一番可愛いと噂されている子だった。


 佐藤くんのことが好きというのを公言していて、周りの女子たちにも応援されていたはずだ。

 小柄で可愛いと言われている容姿は守ってあげたくなるような雰囲気で、早紀の目から見ても美少女と言っても過言ではないと思う。


 でも、そんな彼女からの告白を断るまでに、佐藤くんには一瞬の間も、そして一切の動揺もなかった。


 それが、断る理由の強固さを表しているようで、ただでさえ誰かが振られた後になんて行けない状態だというのに、早紀の中での僅かなりともあった勇気は、もう湧いてくることは無かった。

 前に進もうとしていた足が、自然と後退(あとずさ)る。


(……戻ろう)


 早紀はそう思って、渡そうと思っていた包みをキュッと抱いて立ち去る。

 朝からずっとドキドキしていた心は、心臓の音はそのままに急激に冷え込んでいた。



 ◇◆



 バスケ部の練習は、そこまで長くは無い。

 自主練などもある日はあるが、その日は用事があるものも居たため、早めに上がっていた。

 なんとあの強面の板東先輩には、同じ学年に中々に美人な彼女がいるのだ。皆に蹴られるようにして先に帰っていった先輩を見送りながら、和樹はイッチーとボール磨きをしていた。


「イッチーは、やっぱり昼は呼び出しだったんだよな?」


「ん? …………そうだね、相手は言えないけど、こういう日だからさ」


「そっか、でもその言い方だと、断ったんだな…………何ていうか、俺はそういう経験は無いけどさ、勿体ないとかは思わないん? あーいや、それだと言葉が悪いな……彼女欲しいとかは無いの?」


 和樹の質問に、うーんとイッチーは宙を見るようにして、言葉を濁す。

 その様子に、和樹は慌てて言った。


「あぁ悪い、野次馬根性ってだけで聞いちまった…………ついそういうの、空気読めなくてさ、すまん」


「……いやこっちこそごめん、違う違う。何て言えば良いかなって考えてただけだよ。俺も彼女は欲しいと思うし、ハジメと南野みたいな感じは良いな―って思うよ。それこそストバスやりに行った時は、真司だって大学生の彼女持ちだしさ、俺だけだぜ、彼女いないの。そういう意味だと俺ら仲間じゃん?」 


 そんな和樹に、イッチーは笑って否定して、そう言った。

 意外ではある。しかしその上で一言だけ言っておく。


「……俺とイッチーの間には、今彼女がいないという点が一緒だったとしても、絶対に越えられない壁がそびえ立ってるよ」


 それにイッチーは、そんなこと無いって、と言いながら笑っているが、絶対にそんなことはあった。『ただしイケメンに限る』とかよく出てくるあれだ。

 少し離れたところにいて別の片付けをしているが、きっと話は聞こえているであろう下山と上木を見ると、諦めたように首を振っている。

 うん、やっぱり俺は間違ってない。和樹はそう思った。


「……でもそんな事言うほど彼女がいないっていうのは意外、あれだけ告白されてて作らないのは、やっぱ好きな子がいるからってやつ?」


 どこまで聞いて良いのかわからないが、まぁ駄目だったらそう言われるだろうと和樹は更に質問してみる。


「まぁ、ね。好きな子っていうか、中学の時の彼女なんだけどさ…………振られて、なのにまだ好きでいてしまってるっていうか、ダサいよね」


「…………お、まさかのストーカー疑惑?」


 多分和樹が同じセリフを言ったら引かれる気がするが、何故かイッチーが言うと一途に聞こえてずるい。そう思って冗談のように口をついて出た。


「ちげーよ! …………いや違うはず、幼馴染だし。まだ普通に喋ったりもするし…………違うよな?」


 ただ、笑って否定されるだけかと思いきや、最初の否定は強く、段々と自信なさげになっていく。


「いや、流石にその辺の空気感は知らねーけど……くく、何ていうかイッチーもちゃんと普通の人なんだな」


 想定以上にイッチーが慌てるのを見て、和樹は笑ってしまった。

 モテない仲間では絶対ないが、正直こういうところは友人としては好ましい。


「まぁ、それで告白は全部断ってんだ?」


「…………そうだね、それだけでも無いけど。そもそもさ、石澤だったら、全然話したことない子に告白されたらどう思う?」


「可愛いと思ったらありがたく付き合う……いや、可愛いと思わなくても付き合うかも?」


 脊髄反射の即答だった。最低? いや、普通男子高校生なんてそんなもんだよね?

 そんな和樹に対して、呆れたような目をイッチーが向けてくるが、先程と同様に下山と上木を見た。手を上げてサムズアップしている。ほらやっぱり。


「……まぁ、イッチーは知らない相手から告白されてもその時点で付き合わないってことね。なんで? いやそりゃ忘れられないとかはあるんだろうけど……振られてるんでしょ?」


「うぐ、痛いとこつくね。…………いやだってさ、知らないのにってのは外見だけってことだろ? 俺、一目惚れとかよくわからんし正直信用できないし、それで好きって言われても、付き合うってならないよ。お互い色々知ってから好きになるもんだろ?」


「うーん、そんなもんかね? 俺にはわからねーな。……だってさ、知らないってことはこれから好きになるかもって事じゃん? しかも自分の事を好きって言ってくれる訳でさ、明確に嫌いじゃなければ付き合いたいって思いそう…………まぁ、彼女がいたこともなければ告白なんてされたこともないけどさ……」


「…………へぇ、石澤って意外とちゃんとした事言うんだな?」


「自業自得だとは思ってるけど、真面目に答えたのに酷くね!?」


「いやまじで……ちょっと見直した」


「……あれだな、俺がイッチー見て情けないとこに親近感覚えたみたいなやつだな。ダメな奴が偶に真面目なこというとってやつ」


「あはは……自分で言う?」


「誰も言ってくれないから自分で言うんだよ!」


 そんなやり取りをしている間に片付けも終わる。ちょっとしたことからこうして入ることになったバスケ部だったが、イッチー達のおかげもあって居心地も良かった。

 何より真面目にやっても茶化されることもない。


 片付けの後は、着替えて皆で帰り支度を始めるのだが、和樹はその前にトイレに行きたくなって、声だけ掛けて外に出た。


 すると――――。


 どこか見覚えのある後ろ姿が足早に立ち去っていくのが見えた。


(……あー、どうするかな)


 和樹は鈍いとは言え、流石に状況を把握する。

 今の話を聞いていたのだろう、そして、聞こえるほど男子側の部活の方に近寄っていた理由もわかった。

 とりあえずイッチーの昼休みの相手の中には、和樹の知っている人間は含まれていなかったようだ。


「よし……」


 もう見えなくなりそうな背中に、深く考える前にそう呟いて、和樹はそれを追いかけて走り始めた。



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