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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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閑話10


 穏やかに時間が流れている気がする。

 そんなことを考えながら、千夏は向かいに座るハジメの顔を盗み見た。

 ハジメはこちらの視線に気づくことなく、集中してカリカリと数学の宿題と格闘している。


 ―――――ミィンミィン。


 冷房をつけて締め切った窓の外からは蝉の合唱が遠くに聞こえて、それ以外は紙の上をハジメが書く音だけがしていた。

 平日の日中。慣れ親しんだ部屋で、こうして二人で過ごせるのもあと二週間ほど。

 夏休みが終わったら再び日常が始まる。


(あ……気づく)


 ぼんやりとハジメを見つめていた千夏が、ふとそう思うと同時にハジメの手が止まった。そして、千夏の方を見てくすりと笑う。

 最近、集中したハジメの意識がふっと途切れて柔らかくなる様子がわかるようになってきていた。同じ時間を過ごすというのはこういう事なんだなと思ったりして、その感覚がとても心地よい。


「どうしたの? 視線を感じた気がしたら手を止めてこっち見て」


「んー? きりが良いところまで終わったから、見てた」


 ハジメの問いに、そう答えて、見てるのがバレたから動いても良いやと軽く伸びをした。


「もう見慣れてるんじゃないの?」


「ふうん……ハジメはじゃあ私の顔なんて見飽きた?」


「慣れる、を飽きる、に言い換えるのは意地悪だと思うんだ僕は」


 少し休憩の空気になって、じゃれ合うように言葉を交わして、くすくすと笑い合う。あぁ、この時間、好きだなぁ。そんなことをしみじみと感じながら、千夏は考える。

 このまま、こんな時がずっとずっと続けばいいのに。


「飲み物、おかわりいる?」


「あ、うちがやるよ。ハジメは座ってて」


 ハジメがすぐキッチンに動こうとするから、それを制するようにして千夏は立ち上がる。

 ハジメは少しだけ、背が伸びた。

 出会った頃よりも、少しだけ目線が上にある。


「ありがとう、千夏。お茶っ葉少なくなってたら新しいの開けてね」


「はーい」


 お茶の葉の替えがどこにあるのかも知っている。

 お互いの味の好みの、違う部分も同じ部分もわかっている。

 積み重なっていく時間と共に、良いところも悪いところも知って、知られて、好きという気持ちがどんどん肉付けされていく。


 友人たちには呆れられる事もあるけれど、千夏はとてもとても、将来を真面目に考えていた。


 両親を、見てきた。とても仲が良く、そして、ゆっくりと離れていった父と母を。

 結果だけ見ると父親が悪い。でも、決してどちらかだけが一方的に悪いわけでもない。

 涼夏自身がたくさんのことや考えを千夏に話してくれたことで、それらが一つ一つ、大事なものとして千夏の心にしまわれていた。


「はい、ハジメ」


「うん、ありがとう、千夏…………って、どうしたの?」


 コトリ、とテーブルにお茶の入ったカップを置いて今度は隣に座ると、千夏は手を広げて。


「甲斐甲斐しい彼女ムーブをしたので、うちはハグを要求します」 


「あはは、それだと僕ばかり得してるけれどいいの?」


 それに、ハジメはそんな事を言いながら、そっと抱きしめてくれる。安心感のある抱擁で、その腕の中で千夏は目を瞑る。


「うー、好き」


 この抱きしめる感触と、同時に抱きしめられる感触が心地良かった。


「急に甘えるモードに入るよねぇ。そこも可愛いとこで好きだけど」


「言葉にするのも行動にするのも大事」


「それは同意。それにそう言ってくれて行動してくれると、やっぱり安心する。僕も同じようにしようって思えるし」


 言葉にされて嬉しいから、言葉にもしようと思うし、行動されて嬉しいことはお返しするし、嬉しいを伝える。


『当たり前、に気をつけなさいね。あんた達は高校生なのに所帯じみてきちゃってるから、失敗したお母さんからのアドバイスよ』


『あはは、気をつける。後、うちは今のお母さんかっこいいと思ってるし、沢山話せるようになって良かったって思ってるよ』


「ずーっと夏休みが続けばいいのに」


「あはは、僕もそう思う」


 そして、そう言いつつもハジメの胸に頭をぐりぐりとして、千夏は温もりから身体を離す。休憩時間は終わり。

 休みで、二人でいる時間が増えるほど、ついついずっとこうしていたくなってしまうが、やることはちゃんとやらないと、というのも二人で決めていた。

 一度守れなくなると、二人して成績もだだ下がりしそうで怖いし、ハジメのおじさんにも、涼夏にも、そこだけは注意されている。


「よし! 充電完了! 今日の分は終わらせないとね」


 千夏が顔をばしっと両手で叩き、離れがたい気持ちを振り切るように向かい側に移ると、ハジメも時計を見て頷いた。


「うん、頑張ろ」


「終わったらハジメのご飯が待ってる!」


「ふふ、期待に沿えるように頑張るよ」


 二人で笑いあって、再びそれぞれの問題集へと向かい合う。

 静かに流れる時間の中、窓の外には夕暮れの気配が漂い始め、蝉の声は聞こえなくなってきていた。


 ――夏休みが終わっても、この時間が続きますように。 


 集中に向かう意識の中で、千夏はどこにでもなく、そう願う。

 きっとそれは、二人ならば叶う気がしていた。



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お久しぶりです。

少し恋愛ものを読んで書きたくなったので閑話を少し更新させていただきます。

読んでくださった方はありがとうございました。


また、カクヨムでも書いているのですが、カクヨムコン10に参加ということで、二番目な僕と一番の彼女ふたぼくの二巻で出た従姉妹が少し登場するお話も細々と書いておりますので少しばかり宣伝させていただきます。

読み終わって、ほっとするようなものを書けたらなと思ってます。


たどりびと

https://ncode.syosetu.com/n1338it/


最近は喉の風邪が流行っているそうです。

少し早いですが、お身体に気をつけて良いお年をお迎えください。

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