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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 68節目


「感づいていた……いや、知っていたのか? お前」


 会話が終わりそうな気配を感じて音を立てないようにして外に出て、飲み物を手に何気なさを装って先程の話について、真司は玲奈に問いかけた。


「ええ……知ったのは今回の婚約の一件でですけれどね……」


「なるほど、だからか。……正直助かった、お前が止めてくれなければ、途中で割り込んでいたかもしれねぇ」


「いえ、気持ちは分かりますから……それに、私も気づいたのではなく、お祖父様から伺ったのです。婚約の話の中で、誠意として相澤の家から教えられたと」


 それを聞いて、真司はぐっと拳を握る。

 何を掴むわけではなく、ただ、どうしようもない衝動を抑え込むようにして、そうせざるを得なかった。


「情けねえ」


 呟くように、言葉を吐く。

 教えられなかったこと。

 気づくことができなかったこと。


(くそ、そういうことかよ)


 そして真司は悟っていた。

 本当の意味で、自分が選ばれた理由を。


 慎一郎と自分では母が異なること。

 慎一郎の芸術への才能と、自分の適性。


 確かに理由付けなどいくらでもできるだろうが、長く続いている家については、余程の理由が無ければ本来は長兄が継ぐことがほとんどだ。


 旧態然としているという言い方もあるが、当たり前のようにそこにも理由がある。

 基本的に長兄が必ずしも向いていなくても、システムとして周囲がそれを支えるという組織になっているべきだからという事が一つ。

 その「能力主義」は上がそうすると下部の組織にも適用されていくが、必要とされる能力は時勢によりいくらでも異なる上に恣意的でもあるため分断も起こりやすい事が一つ。


 つまりは、人を変えるよりも、多様な人材で対応できる組織が重視されるのだ。


 真司はそれを知っていた。

 その違和感に目を瞑っていた事を自覚する。

 気づけても良かったはずだった。


「もう一つだけ、混乱しているところに意見を言っても?」


「……なんだ?」


「佳奈さんが、このままだと少ししんどいのではないかと。昼の話では、明日は近くの街での花火も上がる夏祭りもあるということでしたし……どこかで話をされては?」


 そう言われて初めて、真司はそこにも(おもんばか)ることが出来ていないことに気づく。


 確かに二人で話をした方がいいだろう。慎一郎は、知られてしまったけれど内緒にしておいてくれるとありがたい程度だったのだろうが、佳奈にそういう嘘を不必要に吐かせたくはなかった。


(頭……冷やすか)


 そうも思ったが、佳奈が建物から出てくるのが見える。

 今はただ無性に、この気持ちを聞いて欲しかった。


 それは甘えという感情で。

 真司にこれまであまり訪れることのないものだった。



 ◇◆



 玲奈は、真司が礼を告げて佳奈の元へと向かうのを意外な目で見ていた。

 人は変わる。


 ハジメと千夏が変わり、そしてそれに影響を受けるようにして周りの人も変わっていったのを、玲奈はこの一年興味深く見てきた。


 おそらくそれぞれの変化を、最も自然な目で見てきたのは自分な自信がある。

 ハジメと千夏に影響されて真司が変わり、イッチーと優子が変わった。

 早紀が変わり、和樹はその最たるものだろう。


 良き変化は良き影響を与えるかというと、必ずしもその限りではないのだろうが、少なくとも良くあろうとして、身近な良い例があることの結果として、より良き未来となっていると思っていた。


 そして、その友人達を見て思うこともある。


「私も、変われるでしょうか。いえ、変わるべきなのでしょうか」


 玲奈自身にこうありたいと、変わりたいという意志はそこまでの熱量ではなかった。

 ただ、少しだけ。ほんの少しだけ。羨ましさと、焦りのようなものがあった。


 変わりたいと願い、実際にその努力が身を結ぶというのは、果たしてどのような気持ちなのだろう。

 揶揄いながらも祝福して、自分がどうあるべきなのかを考える。答えが出ない問いを。


 真司と佳奈の事を聞いて、慎一郎との再びの婚約になるだろう未来に少しホッとした自分がいたことは確かだった。

 真司の変化や、佳奈の為人(ひととなり)を知り、その方が良いと思った事も間違いない。


『家のことを無理に考える必要はないから、自分で考えて決めなさい、私達はそれを尊重するわ』


 その時の家族がそう言ってくれたことも。

 そして、そう言っていた家族も、流石に先がわからない事、子が成せない事には難色を示していることも。

 前提の変化も、家族からの自分への思いやりも、玲奈には理解できた。


(でも、それなら何故私は)


 家族に、()()()()()()()()()()()、と玲奈は言った。


 心配という気持ちは間違いなくある。

 玲奈が知っている事を、慎一郎はもちろん知っているだろう。その上で、何も言われない事に少し不満もある。


 だが、何より話を聞いて思ったのだ。

 このまま何事もなかったように、慎一郎との繋がりが薄れていくのも嫌だと。


 まだ、玲奈自身、わかっていなかった。

 だが、言葉に従ってすぐに佳奈のところに向かった真司を見て。


 一度きちんと慎一郎と話をしてみようか、と思ったのも確かだった。

 そうなると、明日の夏祭りで二人になる必要もある。


(皆さんに相談してみますか、早紀さんにとっても、皆さんにとっても悪い提案ではないでしょうし)


 事情は伏せて、友人達に相談してみる事にしようと思い、ついでに友人の余計なお節介にもなればいいかと、玲奈は頷いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 子を成せない、のは激しい運動ができないから、でしょうかね。まあ、男の方ならそれはそれで色々とやりようはあるでしょうが。 確実ではない未来に、自分を委ねられるかどうか。結局は家族の言うように、…
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