閑話9
「少し安心しました。ハジメくん、少しだけ関わりを持った大人として君の成長を嬉しく思います。そして翔さんも忙しいとは思いますが、身体は大事にされてくださいね」
そう紫色の袈裟を着ながら原付バイクに跨って穏やかに笑う男性に、僕と叔父さんは頭を下げる。
彼は二年前にも、一人になった僕に本当に親身となって様々な手続きを助けてくれた住職さんだった。
そして、安心したと彼に言わせた要因の二人が、背後から僕と叔父さんに声をかけてくれる。
「お二人共お疲れ様でした。他人の家とはいえ、お茶くらいは淹れさせて貰うので、一息入れましょうか」
「ああ、改めてありがとうございます涼夏さん。それに千夏ちゃんも」
それに叔父さんがそう言って、お互いに少し頭を下げ合いながら、僕らは再び家の中に入った。
今ここにいるのは、僕と叔父さん。そして千夏とその母親の涼夏さん。
今日は七月二〇日、つまりは、僕の家族の三回忌だった。
でも、何と言えばいいのだろう。
僕にも叔父さんにも、もう暗さは無かった。
それはきっと、この場に時間を作ってきてくれた二人のお陰でもあり、時間というもののお陰でもあるのだろう。
「せっかくだから、ハジメくんのお父さんやお母さん、それに美穂ちゃんの事を聞かせて貰えるかしら……こういう時は、悼む人たちの思い出話を、笑顔でするのがいいと聞くから」
涼夏さんが、お昼に取ったお寿司を目の前に四人で囲みながら、そう告げたのに僕は頷いた。
「そうですね。千夏には前に話した事とも被るかもしれないけれど――――」
「何度でもうちは聞きたいよ? だってハジメの家族のことだし」
「そうねぇ。親族になるかもしれないわけだしね」
涼夏さんがいたずらっぽくそういうのに、千夏が少し睨むようにして否定しないのは少し見慣れた光景だ。
それを見て、叔父さんがくっくっと笑いながら言った。
「実際、兄さんも佳苗さんも、千夏ちゃんの事は気に入ったでしょうね。それに涼夏さんと佳苗さんは気があったんじゃないかな。なぁハジメ、そう思わないか?」
「……そうだね、言われてみれば、母さんはサバサバしている人だったし、涼夏さんとも相性はいいんじゃないかな」
そして、僕と叔父さんは笑って話す。
叔父さんもそうだけれど、父さんも結構容姿が整っていた人だった。
でも抜けているところもあってどちらかというと性格は三枚目だった父さんの事を、何事にも動じずに支えている母さんの方が性格的にはイケメンで。
結構男前な部分がある涼夏さんと二人で、僕らの事を話していそうだなと思った。
そんな母さんに、父さんはべた惚れなのを隠そうとしないから、僕も美穂も呆れながら二人をみていたのだけど。でも今思えば想いを言葉にすることはそんな親から学んだのかもしれないなとも思う。
「まぁ何ていうか、ハジメは兄さんにも佳苗さんにも似ているよ。それにどちらも愛情深い人だった、それだけは間違いないわな」
「……そういうものなのかな? でもそうなのかも」
叔父さんの言葉に、どこか照れくさくなって僕は頭をかいた。
でも、似ていると言われるのは嬉しいなと思う。僕がいることで、父さんも母さんもここに居たって事だから。
「ねぇねぇ、美穂ちゃんは一つ下だったんだよね? 凄い可愛いからモテてただろうなって」
「あぁ、兄として言うのもなんだけど……だいぶモテてたね。後成績も優秀だった……生意気ではあったし喧嘩も多かったけどね」
「結構ブラコンだったんじゃないかと見てる、うちに対する反応は気になるところ」
「あはは、何だかんだで仲良くなれたんじゃないかな?」
こうして笑って話せるようになるまで約二年、これは短いのか長いのか、僕にはわからないけれど、前に進んでる、そう思えることは確かだった。
◇◆
「そんで、この夏休みはハジメ達はバイトもしたりしつつで、出かける予定があるんだったか? 受験勉強もあんだろうが、高校二年の夏休みは、何ていうか高校生って身分の中で一番自由が効く期間だからな。楽しむといい」
そして、そんな風に四人で話していると、話題は始まったばかりの夏休みの事になり、叔父さんのそんな言葉に僕は頷く。
「うん、友達が結構いいところの家でさ……別荘があるらしくてそこにって、その友達のお兄さんの絵を見せて貰いに行った時に誘ってくれたんだよね。僕も千夏も。後はこの間のバスケの時のメンバーで行くつもり」
「へぇ、そうか。何をするかとかは決まってんのか? その時期なら祭りとかもありゃ良いなぁ。日本の祭りか、最近久しく見てねぇが」
「どうだろ、もしかしたら何かあるのかもだけど。まだちゃんと調べたりはしてないね。まぁでも多分どこに行っても、特に何かがあるわけじゃなくても。皆で行けば楽しめるとは思うんだよね」
そんな僕の言葉に、叔父さんは少しだけ止まって、破顔するようにして言った。
「……そうかよ。そりゃあお前、いい仲間に恵まれたな……でも確かにな、この間はほんの少ししか話せなかったが、真っ直ぐな子らだった。変にひねてたりわかった風な事をいって拗れていないってのは、それだけで美徳だからなぁ」
そして、「大事にしろよ、千夏ちゃんも勿論だが、その友達もな」と続ける。
僕はそれに頷きながら、叔父さんの反応で、改めて自分が自然と思ったことに対して驚いていた。
そうか、と思う。
当たり前のことなのかもしれないけれど、少しだけ視界がまた広がった気がして。
元々僕は二人なら楽しいが保証されてると思ってたのだけれど。
それがいつしか自分の中であのメンバーなら楽しいに昇格されていて。
千夏との時間。
真司やイッチー、和樹との時間。
どちらか、ではなくてどちらも大事で。
二人の時とは違う楽しさなのだけれど、僕の世界が広がった気がして、とても嬉しかったんだ。
そんな風に去年からは想像できないほどに穏やかに、僕らの三回忌は過ぎて、そして、夏休みが始まった。




