第2楽章 61節目
待ち合わせの場所にかなり早く着いてしまった玲奈は、本を読みながら待つことにしていた。
特に今日の待ち合わせ相手達から連絡は無いが、遅れるという連絡は欠かさないような面々のため予定通りには来るだろう。
それなら読み進める時間はあるだろうかと思っていると、少し意外な声により中断された。
「あれ? えっと……玲奈だけか? というか俺が相当早く着いちまったと思ったんだけど、随分と早いな」
「和樹さん? ええ、所用があったのですがそちらが早く終わりまして、本でも読みながら待とうかと……そちらこそ随分と早いですね」
「俺は何かこういうのは緊張して遅れてしまうなら早く着きすぎておこうって思うと言うか、小心者なんだよ。そしてそれ、今年の芥川賞のか、面白かったけど結構好み分かれそうだったな。まぁ純文学系はどれもそうか」
今年になってから少しずつ変わり、今ではハジメや真司、イッチーとも仲良く、最近では早紀とも仲良くなった彼のことを、玲奈は知っているようでよく知らなかった。
ただ、今のやり取りでも改めて思う。
「意外と言ってはなんなのですが、和樹さんは結構読書家ですよね?」
「あぁ、それよく言われるんだけど。ラノベとか漫画が主だぜ? 文芸作品は有名なものしか読まないしな……その、両親が働いてるから家に一人なことも多くて、そして親父が本を読む人間だから書斎なんてもんがあってその影響でな」
「ふふ、良きことだと思います。最近は早紀さんともよく貸し借りをされているようですし」
玲奈の言葉の中に早紀が出てきて、少しだけ和樹が反応した。
それを少し面白く思いながら、玲奈は気づかないふりをして、それでいてその話題を振る。
「早紀さんと言えば、例えばどんな話をされるのですか? 私はクラスが変わってしまいましたからね、メッセージのやり取りはしているとは言っても気になります」
「……ぐいぐいと目を輝かせないでくれって。俺に対して意外って言うけどさ、えっと、玲奈の方が余程意外だわ。早紀とは結構くだらない話が多いよ、何食べたとか授業がどうだったとか、あの本が面白かったとかアニメが楽しみだとか、後はバスケの事とか」
時折玲奈の呼び名に対して詰まったりするのは、呼び慣れていないからだと悟り、玲奈はくすりと笑った。
確かに小心者、と自分でいう部分もあるのだろう。
ただ、誠実さと優しさもある。悪く言えば環境に左右され、良く言えば周り次第で努力も出来る男子。早紀や真司からの漏れ聞こえる評価、グループの中での会話や、関わり合いになる前の人となりも含めて、玲奈はそう評した。
(早紀さんが最近柔らかくなりました。和樹さんも、とても良いお顔をされます。千夏さんとハジメさんから始まった環が、良き影響を与え合っているようで、とても良いです)
その環に自分が含まれているかどうかを玲奈はわからなかったが、友人、と思える人が増えるのはありがたいと思う。
「では、今度私にも何かを貸していただきましょうか…………ふふ、そして早紀さん、こんにちは。大丈夫ですよ? そういうつもりでは全くありませんので」
そして、そう思いつつ言葉を発した。
後半は少し前に近づこうとして足を止めた、美人で凛々しくて、そしてとても可愛らしい友人に向けてだ。
「ちょ……玲奈? はぁ、まぁいいか。和樹も昨日振りね、それにしてもあんた達早くない? これでも早めにと思って15分前なんだけど」
この和樹にであれば、本の貸し借りがあってもいいかと思ったのは事実だが、芽生えているのかいないのか複雑そうな感情を持っている友人の応援こそすれ、邪魔をしようとも思わず、実際そういう感情も全くない。
「よ、早紀。俺は楽しみ過ぎたのと遅刻が怖かったのの両方で早く来すぎたら、既に玲奈が居たから話してた」
「あんたそういうところで根が真面目よね……何かあんたらが話してるイメージが無いんだけど何の話してたの?」
「え? ……ほら、あれだよ、本とかの話」
気安い始まりからで、早紀の話をしていたとはさらっと言えないあたりにどこか面白さを感じつつ、玲奈は笑いながら言った。
「そうですね、本の話をしたり、後は早紀さんのことを話していましたよ?」
「え? 私のこと?」
「いや待て待て何で咎めるような目で見るんだよ!? 俺はお前にどんな本を貸してるのかとか、普段どんな話してるのかとか聞かれて答えてただけだぞ?」
「ふふふ」
「「言った本人が笑うのかよ(笑ってないでよ)」」
「あらあら、息もぴったりですね、良きことです……あ、千夏さん達もいらっしゃいました。行きましょうか」
「ごめんごめん、って言いつつうちとハジメも時間には遅れてないんだけど。三人とも早いね……って早紀と和樹はどうしたの?」
「いや、俺は何ていうか玲奈の性格がわかってきたところだ」「気にしないで……」
千夏とハジメも合流して、早紀と和樹のそんなセリフもありながら、玲奈達は目的地へと歩いていく。
「うちさ、絵って全然見たことないんだけど大丈夫かな? ハジメはある?」
「え? 僕も正直そこは疎いなぁ。でもこれから行く展示って雄二さんの関係でもあるらしくてさ、多分だけど雄二さんと美咲さんもいるんじゃないかな? そう思うと大丈夫なんじゃない? 勿論礼儀は必要だけど」
「そう言えばお二人もお知り合いでしたね、時間によるとは思いますが、土日はいらっしゃるのではないでしょうか。それに……あの方の絵は見る人を選ばないと思いますので大丈夫ですよ」
そう玲奈は皆に告げて、先導するようにして歩く。
本日は玲奈の誘いで、都合がついたこの五人で絵の個展を見に行くのだった。




