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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 57節目


 俺は、いつもより機嫌が良さそうな優子に、何で機嫌が良いのかを聞きたいと思いながら聞けずに、でもしっかりその恩恵は腕の感触に味わいながら、俺は優子と駅の近くにある本屋のある通りに向かって歩いていた。


 そこまで大きな駅ではないけれど、俺の実家である八百屋の他にも肉屋や魚屋があって、そこから仕入れている定食屋が二軒ほどあって、商店街という賑わいではないけれど、住宅街とオフィスビルのある駅前としてそこそこの人数がいる駅には、カフェと併設された本屋がある。


 そして、そこで珍しい――正確に言うならばこの場面では珍しい友人の顔を見つけて俺は声をかけた。


「あれ? こんなとこで二人で歩いてるなんて珍しいな、今日は車じゃないの? 真司。佳奈さんもこんにちはです」


「イッチー。そうか、そういやこの辺りだったか。いや、今日はちょっと用事でな」


「やっほ優子ちゃん、イッチー君、二人はデートかな?」


 真司達も声をかける前に気付いたようで、すぐに反応が返ってくる。

 そして、優子は優子で佳奈さんとよくやり取りをしているようで仲がいいため、俺から離れて佳奈さんの前に行って挨拶していた。

 佳奈さんもノリがいいので何故か二人でハイタッチをしている。


 それを見て、少し口元が緩むのを自覚しながら、同じように、こちらは少し呆れたように見ている真司を見て、気になったことを口に出した。

 

「用事ってなんの? ……あ、聞かないほうがいいやつ?」


 ただ、口に出してすぐに、もしかしたら言いづらいことだったらと言い直す。

 でもそれに真司は首を振ってあっさりと言った。


「……いや、佳奈のな、母親に会っていた」


 そっか、佳奈さんのお母さんと会ってたのか。

 あれ? 彼女の親に会うのって、俺にとっては割りと普通にあり得ることだけど、そうじゃない場合は結構なことなんじゃないか?

 一瞬そうなんだな、と思った後にくるくると思考が回って、俺は何故かテンションが上がって真司に言っていた。


「おお!? 大イベントじゃん! あれ? そうでいいんだよな?」


「まぁ機会があったから、挨拶ってやつだな……中々新鮮な体験をさせてもらった」


 そんな俺に何かがツボに入ったように、真司が少し笑う。

 タイミングが無くて今年からの付き合いとなったこの友人は、ハジメとは違う意味で大人でぱっと見はとっつきにくい印象を受けたのだけど。いざ仲良くなると相手の事をよく見てるし、冗談も言えば義理にも厚いいい奴だった。

 俺は結構色んな奴らと絡むことが多いのだけど、同じクラスになってからは、真司との時間も多い。

 勿論元々の友人とも話すし、真司も元々周りに集まっていた面子とも話しているみたいだったけれど、何というかそれよりも少しだけ深い友人だった。


 そう、仲がいいというよりは、一段深い友人か。

 多分それはハジメが俺たちの関係の真ん中にいるからかもしれないけれど、事情を知ったから、同じように事情――といっても俺にはそんな深い事情なんて無いんだけど――を話したりもした。


 最近は、真司の笑みが柔らかくなった気がするし、その理由も分かっていて。

 女子人気が高まったらしいと言うのはバスケ部の中の噂で聞いたけど、入り込む隙は無さそうだなぁと俺は内心で思った。


 とはいえそこにはお互いを尊重する距離感の保ち方や、何というかどこか大人な感じがする関係性もあったりして、俺はそんな関係に混じれているのが嬉しかったりもする。


 でも、それはそれとして気になった。

 だって友達が彼女の親に挨拶するイベントなんて気になりすぎる。


「めっちゃ気になんだけど、時間あったら少し話そうぜ?」


 ということで、俺は素直にそう口に出した。


「まぁそう言うだろうな、と思ってたが……というか俺らがどうこう言う前に決まりそうだぞ?」


 それに真司が頷きつつ、でも少し苦笑気味に指す方を見ると、佳奈さんと優子が俺たちに向かってカフェを指差していた。なるほど、そっちの方が早かったみたいだ。



 ◇◆



 座席を先に決めてから注文するスタイルの、本屋と併設されたそのカフェは程よい混雑具合だった。


「最近早紀ちゃんが雰囲気がまた変わったかもなぁって思うんですよね」


「そうなの? んーでもそしたら気をつけないとかな。私が勝手に気づいちゃっても悪いしね」


「早紀ちゃん自身が自覚してるのかも結構謎なところがあるんですよね」


 少しだけ気になる話を始めた優子達二人を席に残して、真司と注文しに行く中で、さっきの話を聞いてみる。


 正直、彼女の親への挨拶なんて随分と緊張しそうだ。

 いや、真司は飄々とこなしそうではあるけれど、


「でさ、さっきの挨拶? はどうだったの? というかどういう経緯で改めて挨拶なんて話に? 佳奈さんって一人暮らしだったよね」


「そうだな、元々大学を機に一人暮らししてるな。……今回のはまぁ、偶々佳奈の親がこっちの友人に会いに来たらしく、そのついでに佳奈の家に泊まったんだが、その際に俺の話になったらしくてな」


「へぇ、じゃあ今日ここにいたのは?」


「その友人との予定の前にせっかくなら会いたいと言われてな。まぁ俺としても挨拶の機会があるならしたいと思っていたし、予定も空いていたからこうして来て、会った後の帰りは迎えを改めて呼ぶのもなんだったから帰ろうとしていたところだ」


 帰るのは佳奈さんの家に行くって意味なんだろうな、と内心そっちにも興味を抱きながらも、本題についても大丈夫そうなので聞いてみる。


「佳奈さんの母親かぁ、想像つかないけどどんな感じだった?」


「そうだな…………中々新鮮な体験だったな」


「いや、一体どんな人だったんだよ……?」


 一言目に真司にそんな感想が来る人って、野次馬根性と言われたって気になっちゃうって。


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― 新着の感想 ―
[一言] 普通は大イベントでしょうねえ。 イッチーの場合は、いまさら、という感じになっちゃうのでしょうけれど。
[良い点] この後日譚には8人の主人公がいると思います
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