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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 53節目


 キュキュッ――! ガシッ!!


「く……このっ!?」


「ここまででやられすぎたからね、パワープレイでも行かせてもらう」


 ファウルギリギリで、イッチーが身体を当ててくるのに、和樹は踏み止まりつつ、しかしその後の急旋回のドリブルについていけない。強くて、早い。

 さっきまでの行事モードというより、ガチの試合モードだった。


「っ!」


 たまらず置いて行かれた和樹の後で、ゴール下を守っていた山田が反応するも、そこは流石にワンプレーでかわされて。

 イッチーの大きな身体が、ゴールに向かってしなやかな跳躍を見せた。


 その馬鹿みたいなジャンプ力は和樹もよく知るもので――――。



 ドガァッ!!!!!



 普段、生で観ることはないであろうイッチーのダブルハンドダンクに、女子生徒のみならず男子生徒からまで歓声が上がった。


 これでスコアは25 ― 27


 リードしていた貯金はなくなり、これであっさり逆転、勝ち越されてしまった。


「オッケー、気にしない気にしない。正直さ、僕らバスケ部エース相手でめちゃくちゃ上手くやれてるから、次切り替えてこう」


 試合が始まった時から変わることのないハジメの声に頷き、皆もおう、と応える。

 プレーは熱いものがあるのに、ハジメは落ち着いた声色で、いいタイミングで必ずそうして言葉をかけた。

 板東先輩のように大きいわけではないのに、どこかすっと通る声。


 そういう部分に羨望はあれど妬みはもう感じない。尊敬、同年代であっても、それが一番の感情だろうか。


 和樹がハジメの方を向くと、ハジメが時計を見て、そして何かを意図するように目線を向けてきた。


(……時間ギリギリで、ってことかな)


 和樹はそう思って頷いてみせる。


 後半に入って、真司とイッチーの動きが変わった。

 それぞれがカバーする範囲を割り切って、楽しみつつ、身体の入れ方や当て方が、試合モードになったというか。


(ハジメと目線で会話して、イッチーにガチで当たられて。嬉しいと思っちまうのが、なんだかな)


 和樹は最近よく、変わったと言われることが多かった。


 自分でもそうは思う。

 情けなさを感じたあの時から随分経って、「友達」の数は減った。

 会話をする相手も減ったし、交友関係という意味では随分狭くなったと思う。


 でも、それでも。

 和樹は変わったと言われる今が良かった。


 くだらない話も、普通の話も――――まぁ、惚気話も。


 ハジメと、イッチーと、真司と。部活の奴らとそんな話をしている和樹でいられる自分が、良かった。


「……ふぅ」


 息を吐き出して、ゴールを見る。



 ◇◆



 僕は、時計を見た。真司とイッチーも時計を気にしている。

 和樹も時計を見ながら、でも器用に視線から逃れるようにしてポジショニングをずらしていた。


 さっきの目配せで、伝わっている。そう思えた。


 バードアイと言うのだったか。サッカーの漫画とかを読んでいて、あぁ時々自分にも時々降りてくるなと思うその感覚が先程から来ていた。


 真司が一番は抜かせない事を優先しつつ、イッチーがここが勝負どころと詰めてくる。

 緩急をつけて、こういう場面でこそドリブルで打ち勝たなければ、小柄なプレイヤーの生きる道は無い。


 ダムダムッ――――ダムッ!


 少しだけリズムを変えながら、和樹とは逆方向に回るように向かいつつ、ゴール下に詰めてくれている山田くんを見る。

 イッチーがそちらを見て、少しだけ和樹から視線を切った。


 反応。


 その瞬間、そうとしか説明できない何かが、僕の腕を動かしてボールを押し出す。


 ビッ!!!


(やっぱり今日は調子が良い……後は和樹がそこに居てくれれば)


 三点取れば、僕らの勝ち。

 そして、勢いは明らかに負け始めているのだから、本来は僕にチェックしてゴール下に意識をそらすよりも、外からの警戒をすべき場面だ。


 でも、きっとイッチーは、真司は。

 最後の最後、僕を警戒してくれているだろうとそう思っていた。


 頼むよ。


 そうボールに込めるようにした思いがきちんと受け取られている事を示すように、和樹を見た時には既にシュートモーションが終わるところだった。


 綺麗なフォームで、球離れが早い。


 子供の頃から考えたら、本当にシュートだけは馬鹿みたいに練習してきたつもりはあるから、和樹のフォームを見たらその愚直さと努力がわかる。

 どんなに和樹自身が軽いと思っていても、軽薄さをかつて纏っていたとしても、重みを感じられるのだった。


 和樹が少しだけ過去に引け目のようなものを感じているのはわかっている。

 千夏が、最初は全然許して無かったのも、ありありと感じ取っていただろう。

 僕だって、別にいい、と思っただけで積極的に許したわけでもない。責めていなかっただけ。


 それがどうだろう。

 今は全く違っていた。


 当たり前のように昼を一緒に食べて、事情を気にしないで話が出来て、探る必要もなくニュートラルに接することが出来る男子生徒が同じクラスに居てくれるというだけで、僕がどれだけ学校というものが楽しいと思えているか。


(見てる人達には伝わってるかな? 僕の数少ない友人たちは、()()()()、中々凄いんだよ?)


 イッチーが凄い反応速度でプレッシャーをかけに行くも、和樹は止まらない。



 シュッ――――。



 和樹の手から、相手のゴールへとボールが放たれた。


「チッ……やられたか?」



 ピー!!!!



 審判が鳴らした試合終了の笛の音とともに、真司がそう呟くのが聞こえた。


 そして、ボールは弧を描いて――――。



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― 新着の感想 ―
[一言] 前回と今回、スコアは視点ファーストの記述の様ですが、競っているのでどちらかちょっとわかりにくい感じがします。これが一般的なのかどうか分かりませんが、第三者の読み手的には順序が固定されていた方…
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