騎士団長の長男の話。
空白は仕様です。
俺はどこで間違えてしまったんだろう。
俺は のことが好きだった。
でも は俺だけじゃなくみんなのことが大切だったんだと思う。
だからそばにいられるだけでいいと思っていた。 が一番好きな人と幸せになってくれるならそれを近くで見られたらいいと思っていた。
あの子は平民だった。
貴族令嬢とは違って怒ったり泣いたり笑ったり、感情を思いっきり出す子だった。
なんて素直な子なんだろうと思った。あの子の笑顔にいつの間にか俺は恋をしていた。
ある日、あの子は泣きながら、俺の婚約者に無視をされるといっていた。
聞けば俺の婚約者が俺とあの子の関係を疎んでの嫌がらせだという。
正直、信じられなかった。
俺の婚約者はとても温厚で馬鹿な俺を導いて諭し、助けてくれていた。
だからそんな彼女があの子に嫌がらせなんてするとは思えなかった。そもそも位が下の者から声を掛けてはならない。それは学園に入って一番に学ぶことだ。いくらあの子が平民だからと知らないはずはない。
だから俺は泣いているあの子に「君を無視するなんて許せない!」と怒ることも「嫌がらせなんて気のせいじゃないか?」なんていう勇気もなかった。
小さな違和感をなかったことにできるほど、あの子はいい子ではなかった。
俺が咎めなかったからか、きちんと話を聞いていないと思ったからなのか、日に日にそれはエスカレートしていった。
はじめは話しかけても無視をされる。その程度だったのに、ある日制服をずたずたに切り刻まれていた。
それは言い逃れのできない物的証拠だった。
だから思わず彼女に詰め寄ってしまった。
「本当にそれを私がしたと思っているのですか?私がそのように人を貶めるような辱めるような行為をすると?伯爵家の名に懸けてそのような愚かは行為は私致しませんわ。…そのようなことをする人間だと思われたことがひどく残念です。」
俺はあの子だけでなく彼女のことも傷つけてしまった。彼女のどこか悲し気な顔は今も忘れられない。
この日を境にそれまではいつも俺を導き支えてくれていた彼女はどこかよそよそしくなった。
代わりにあの子が俺の隣に来ることが多くなった。
あの子の笑顔を見ると嫌なことはすべて忘れられた。
守るべきはこの子なんだと錯覚した。
あの子と過ごす日々はとても楽しくて。でもあの子のそばにいるときはどうにも判断能力が鈍って仕方ない。確かに俺は馬鹿だけど、もっときちんと考えられたはずだ。
宰相の次男坊や俺はまだよかった。でもあの子は王子殿下にまで声を掛け始めた。
さすがにまずいと思った。第一王子殿下の婚約者様は高貴な身分で、その考え方もとても貴族らしい。
王子殿下に何かあれば平民など簡単に消されてしまう。馬鹿な俺でもわかってしまった。
いくら貴族は平民の血税で裕福な生活をしているとはいえ、その土地を管理し豊かにする義務を貴族は担っている。騎士団だってそうだ。下っ端が団長に盾突けばただでは済まないが、団長が傍若無人にふるまっても下っ端は拒否することはできない。
そんな簡単なことがあの子にはわからなかった。
だから俺が守ろうと誓った。
分からないなら俺が教えればいい。できないことは手伝えばいい。したいことは叶えればいい。
それが間違いだったんだろう。
ある日突然、 は姿を消した。
父さんに聞いても「お前が愚かでなければ、違っていたかもしれんな。だがもう忘れるしかない。もうできることはそれしか残されていないんだ。」と言われてしまった。
あぁ、俺はどこで間違えてしまったんだろう。
今思えば、なんであんなにもあの子に恋い焦がれていたのかも分からない。