悪役令嬢の話。
わたくしの婚約者についたいらぬ虫を消した。
あの虫には本当に煩わしい思いをさせられた。
高々平民の分際でわたくしに盾突くなんて本当になんと言えばいいのかしら。
でもあれはもういない。これで憂えることは何もない。
それだけがわたくしを安心させる。
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あれが目障りになったのはいつからだったかしら。
由緒正しきこの学園に平民が入学するというだけでも虫唾が走るというもの。
平民たちはあんなにも愚かなのかしら?わたくしがよく行く孤児院の子たちはあんなにも素直で純粋で良い子たちばかりなのに。
唯でさえマナーも知らず、しつけのなっていない者たちが同じ空間にいるだけでも嫌だというのに愚かにもあれは身分を弁えず身分の高い者たちから順に声を掛けていました。
下の者から声をかけるなと言われていたであろうに、声をかけ許可もなく愛称で呼びその体に触れる。
これが実験的な入学でわたくしたちにとって平民をよく知るための機会として設けられていなければ不敬だとその場で首をはねていたものを。
弟も殿下もお優しいから…。
他の平民たちは各々がそれなりに努力をしていたようですわ。知りませんけど。
なぜあれは同じ教育を受けているであろうに、あんなにも常識がないのかしら。
まだそれくらいならゆるせました。
でもあれはあろうことか、わたくしの婚約者にいらぬことばかり吹き込んでいたようです。
「無視をしてくるんです!」
「母の形見を壊されました!」
「階段から突き落とされそうになりました!」
「襲われそうになったんです!きっと指示を出していたのは彼女です!」
なぜわたくしがそのようなことをわざわざ自らの手でしなければならないのかしら?
挙句の果てにはわたくしに向かって
「嫌がらせはやめてください!」
「王子殿下は私のことがすきなんです!」
「愛してもいないのに、可哀想です!彼を解放してください!」
「彼は私を王妃にと選んでくれました!」
なんてことをおっしゃるのよ。
気でも触れたのかと思いました。
あ、王子殿下がですよ?
まぁ、見ていればあれの勝手な妄想だろうとわかりました。
殿下と弟は幼い頃から共に過ごしてきた仲ですもの。よほどあれが魔法や薬を使っていない限りあの二人がそんな愚かなことを言うわけがありませんもの。周りもあれは気がふれているんだと、そう思われていましたわ。だって仕方がないでしょう?ほかの平民たちはできていてわかっていることをあれはなにひとつとして理解しておりませんでしたもの。
だからまぁ、あれのことが邪魔になりましたの。
平民の分際で王妃にだなんて。夢をみて許されるのは夢であるからです。それを現実にしようだなんて。本当に愚かな子。
だからあれの言うことを1つ叶えてさしあげようと思いましたの。
わたくしってなんて慈悲深いのかしら?
終身刑を言い渡された者たちが暴徒化しないように慰めが必要でしょう?
あれにその役をさせてあげることにしましたの。
わたくしは直接それらのことを見ることができないのが唯一の後悔かしら?
でもこれでやっと元通りの生活になるわ。
はぁ。もうこんなことでわたくしの手を煩わせないでいただきたいわ。