人生初クエスト的なやつ 6
そんなやり取りをしているとゴブリンと戦っていた青年がこちらに近づき俺たちのことを尋ねてきた。
「すまない、助かった。あんたらはいったい?」
「通りすがりのゴブリン退治だ! 覚えておけ!」
「タクミさん、もの凄く格好つけていらっしゃいますね。でもタクミさんのおっしゃる通りのただのゴブリン退治をする者です」
一度人に言ってみたかったカッコいいセリフを言う俺に対してエリナに真面目な顔で格好つけていると言われるともの凄く恥ずかしくなり、俯いて顔を赤くした。
仕方ないだろう、一度言ってみたかっただけなんだから。
恥ずかしがっている俺に対してエリナが青年に事情を説明していく。
「こちらにゴブリンが現れるということでしたので現れるのを待っていました。そしたら偶然にも貴方様が通られゴブリンに襲われていたのですぐに飛び出して参りました」
「そうか、助かる。とりあえず詳しい話は後だ。先にこいつらを片付けることが優先だ。手を貸してくれ!?」
「もちろんです!」
「めんどくせえがお金のためだ。やるしかねえな!」
剣を構えながら真剣な顔で言う青年にエリナは素直に返事をして、俺はめんどくさがりながらも渋々答えた。
「すまん、助かる!」
青年が表情を崩さず感謝をする。
そんなやり取りをしている中で仲間をやられたゴブリンたちはこちらに怒りをむき出しにしており、今にも飛び掛かりそうにしている。
お互いににらみ合いしばしの沈黙、そして「では行くぞ!」という青年の掛け声とともに青年がゴブリンに向かい走り出し、周りのゴブリンも一斉に飛び掛かってきた。
青年は飛び掛かってきたゴブリンを切り倒し、別のゴブリンにも切りかかりどんどんと切り倒していく。
「しゃあ! 行くぜ!」
青年が戦っている姿を見て興奮してきた俺も声を上げて気合を入れて目の前の飛び込んできたゴブリに突っ込んだ。目の前に飛び込んできた1体に左ストレートを顔面に入れてそいつの横にいたもう1体に向かって回転して踵を顔面に入れ、左のほっぺたが潰れていき横にいた先ほどのゴブリンに引き寄せられるように2体同時に吹き飛ばした。
「これ以上は好きにさせません! はあ!」
飛び掛かってきたゴブリンをエリナは華麗に避け、飛び掛かってきたゴブリンの首に剣を真上から振り下ろして首を刎ねた。そこから再び華麗に回転をして別のゴブリンの胴体を切りつけその横にゴブリンに下から剣を振り払った。
3人はどんどんゴブリンを倒していき、残っているゴブリンの数が5体になっていた。
俺たち3人は馬車を守るように前に立ち、その向かいには残っている五体のゴブリンが集まっており、俺たちにビビりながらも仲間をやられた怒りを表している様子だった。
「ゴブリンっていうのはこんなにも弱かったんだな。クエスト難易度が1というのが納得だな。それにしても意外と動けるもんだな。アテナスの言っていたことも納得だ」
「さすがはタクミさんですね。初級冒険者とは思えないぐらいの戦い方でしたよ」
俺が独り言のように呟くとエリナが少し嬉しそうな顔をして俺の戦いを褒めてくれた。
素直に褒められると照るなあ。しかし自分も戦っていたのに俺の戦いにも視線を向けれるなんてエリナは相当な腕前の持ち主なんだろうな。
「旦那様たちを襲った怪物どもめ。これで終わりにしてやる!」
俺たちの会話を気にせずに怒りをあらわにしている青年が吐き捨てるように言い放ちゴブリンに向かって走り出した。
その時、ドン! と大きな音と周りに響き渡った。
走り出していた青年は足を止め、俺たち三3人は何事かと思い周囲を見渡す。
ドン! ドン! と音が周囲に響いてく。その音はどうやら大きい生き物の足音のようでどんどんこちらに向かって鳴っている。
音の鳴っている方に視線を向けると気がどんどん倒れていき、出てきたのは全長10m位の棍棒を持った大きいゴブリンだった。
「な、なんだよこいつは。デカすぎだろ」
「これはキングゴブリンですね。まさかキングゴブリンが親玉だったのですね」
「初級クエストにいきなりラスボス登場なんてありなのかよ」
キングゴブリンを見て驚愕の顔を浮かべているとエリナは剣を構えながら真剣な顔で説明してくれた。
それにしても本当に初級クエストで親玉登場とかありえないだろう。さすがは異世界だ。ぶっ飛んでいやがる。
キングゴブリンは大きな雄たけびを上げて俺たちを威嚇してきた。
「こんな奴どうしろっていうんだよ?」
「馬車を守るためには倒すしかありませんね」
「簡単に言ってくれるねえ。人助けは趣味じゃねえがやるしかなさそうだな」
剣を構えながら真剣な顔で言うエリナを見て俺はめんどくさがりながらもやるしかないと覚悟しも剣を構える。
その表情を横目で見ていたエリナはさすがというような笑みを一瞬浮かべた。
「あんたたち本当にやる気なのか? こんなデカい奴相手に勝てるのか?」
俺たちの会話を見ていた青年は驚いたような表情で訪ねてくる。
「さあなあ。でもやるしかないだろう? こいつらを倒さないとお金が貰えないし、逃げれるような相手じゃないだろうしな。だからやるだけだ!」
「大丈夫です! 私とタクミさんならキングゴブリンごときには絶対に負けません」
誇らしげな顔で言うエリナに対して俺は嬉しさをごまかすように鼻で笑い、真剣な顔で正面を向き直る。
どうやら俺はエリナに相当信頼されているようだな。人に信頼されることなんて現世では滅多になかったことなので少し気持ちが良い。
「言ってくれるね。会ってすぐの男に、まあ気持ちは嬉しいがなあ。という訳であんたは馬車を守るのをよろしく頼むよ」
「あ、ああ。よろしく頼む」
馬車の安全を頼まれた青年は一瞬腑抜けて顔をしていたがすぐに正気に戻り馬車のもとへと向かい馬車に乗って町とは反対方向に移動を開始した。
「馬車の移動も完璧だし後は心置きなく戦えるな。しかしこんなデカいのどうすればいいのやら」
「私に策があります」
倒し方に困っている俺に向かってエリナは真剣な顔で策の提案をする。
「その策とは?」
「正面から倒すだけです!」
「え?」
策があるというから期待したもののそれはただのごり押しではないか。
思わぬ作戦が正面突破と聞いて俺は思わず腑抜けた返事をしてしまった。そんな俺の反応を気にせずにエリナは作戦について話していく。
「私は剣しか使えないので魔法などの遠距離攻撃は一切できません。だからといってこの巨体を暴れ回すわけにはいきません。だから正面突破しかありません!」
「はあ、しょうがないか。まあ、やるっきゃねえよな!」
疲れたように溜息を吐きながらも気合を入れ身構える。
「異世界に来て1発目のクエストだ。派手に行くぜ!」
身構えた俺たちは5体のゴブリンとキングゴブリンに向かって同時に走っていく。
2体のゴブリンがエリナに飛び掛かるも華麗な剣捌きにより一瞬で切り裂かれた。
襲ってきたゴブリンに俺は走るのを止めて右手を正面に突き出して掌打をゴブリンの顔面にヒットしてゴブリンの顔が潰れていく。続けてもう1体飛び込んできたゴブリンの攻撃を避けてゴブリンが俺の横を通過して後ろに行った時に右足で後頭部を蹴り飛ばして背流脚をあびせた。まだ残っていた1体のゴブリンが背後に回り込み襲ってくるも左ひじをそのままゴブリンの顔面にめがけて勢い良く突き出した。弾力ある餅のように顔面が凹んでそのまま勢いで吹っ飛んだ。
「ここで終わらせます!」
走り続けているエリナがキングゴブリンに近づいていき、キングゴブリンよりも高くジャンプして真上から切りかかるもキングゴブリンは持っている棍棒でエリナの剣を受け止める。
攻撃を受け止められエリナはくっと悔しそうな顔を浮かべる。
攻撃を受けとめたキングゴブリンは雄叫びを上げてその勢いでエリナを押し飛ばした。
n吹っ飛ばされたエリナは地面に着く直前に1回転して受け身を取った。
「まさか、攻撃を止められるなんて」
エリナは右膝を地面に着きながら吐き捨てるように言い放つ。
ゴブリンキングはエリナに余裕な笑みを浮かべている。
「よそ見してんじゃねえよ!」
ゴブリンを倒してキングゴブリンに向かって走って行き、顔にめがけて思い切りジャンプして左頬に右ストレートをあびせる。左ストレートをもろにくらったキングゴブリンは口から紫色の血を少し垂らしながらも2歩ほど後ずさり、攻撃を踏ん張り耐えた。
「な、なに!?」
左ストレートをあびせ耐えられるとは少し予想外で驚きが隠せないのと倒せない悔しさが表情にあらわれる。
攻撃を耐えたキングゴブリンは左ストレートが決まっている左頬を勢い良く押し返すように正面に顔を向ける。
「やっべ!」
勢いに余って俺はおもいっきり吹っ飛ばされてしまい受け身を取れずに「ドーン」と木に背中から激突する。ぶつかった木は折れてしまい俺はそのまま草むらの中に転がっていく。
「タクミさん!」
俺が吹き飛ばされた草むらに目を向けて叫ぶようにエリナは呼びかけ、正面を向き直ってキっとキングゴブリンを睨み、剣を構える。
キングゴブリンはエリナの睨みも気にせずに不敵な笑みを浮かべている。
「ここであなたを終わらせます! はあー!」
これ以上はやらせないという顔をしてキングゴブリンに走り出して切りかかる。しかしキングゴブリンも棍棒で抵抗をし、激しい武器のぶつかり合いの音が周囲に響きわたっている。
キングゴブリンに吹き飛ばされて草むらに飛ばされて仰向けで寝転がっている俺は激しい武器のぶつかる音を聞いていた。
「あいつ相当強いじゃねえか。はあ、俺は異世界ではもっとゆっくり楽に生活できると思っていたぜ。こんな激しい戦いをするために異世界に来たわけじゃなかったのになあ。……まあ、少しは魔王とかを倒して勇者になるみたいな主人公にも憧れたけど」
なんで異世界でこんなに辛い思いをしているのかと頭によぎり、俺は真剣に考えていた。
異世界では楽に暮らせるのではないのか? 俺は漫画やラノベの主人公ではないのか?
クズな正確ながらも主人公として魔王を倒すような主人公ではないのか?
どんなに失敗してどん底に落ちても試行錯誤して正しいルートに答えを持っていける主人公のようにはなれないのか?
憧れの主人公のことを考えながら同じ境遇に合っているのになぜ同じにはなれないのか? と思う。
そんなことを考えていると急に笑えてきてしまった。
「そうだ、俺は憧れのあの人たちとは違う。俺は俺の新しい主人公になればいいじゃねえか! 誰も見たことがない新しい物語の主人公になればいいじゃねえか! まだ異世界生活は始まったばかりだ。ここから俺たちの物語が始まるんだ!」
これからが俺の新しい物語が始まると気合を入れるとこんなところで寝ている場合ではないと仰向けになっている重たい体をゆっくりと起こしいき立ち上がる。
立ち上がった俺の顔には気合に満ちてやってやるという笑顔が顔に出ている。
「じゃあ、ここからが俺たちの本当の戦いだ! 覚悟しろよ、デカ物! そのくそみたいな顔を二度と出来なくしてやるよ!」
俺は吐き捨てるように言い放ち右手の手のひらと左手の拳を勢いよくぶつけて気合を入れる。




