始まる異世界生活 2
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「あんなに深く頭を下げなくてもいいじゃねえか。めっちゃ恥ずかしかったし」
ギルドで受付のお姉さんがタクミに深く頭を下げて周りの冒険者からの視線がもの凄く恥ずかしくて逃げるようにギルドを出てきたタクミは先ほどの出来事を思い出しながら歩いていた。
「はぁー。あんなに視線を浴びるのは好きじゃないんだよなあ。そんなことよりも報酬が弾んじまったな。キングゴブリンを倒したおかげで報酬が11倍だってよ。ぐふふふふ」
ギルドでの出来事を忘れるように巾着袋に入った報酬を眺めながら不敵な笑みを浮かべていた。
「あ、タクミさんー!」
するとどこか遠くから誰かに呼ばれたような気がして周りを見渡した。しかしどこにもいない。
「何だ、気のせいか。それにしても今日はなんか人が多いな。何かあるのか」
「タクミさんー! 待ってください」
誰かのいたずらかと思いながらも報酬をしまって歩き出す。するとまたもどこからかタクミを呼ぶ声がした。誰だよと思いながらも振り返ってよーく見てみると人ごみに紛れながらも小さな体で自分を目立たせるように大きく手を振って自分の存在をアピールしているエリナの姿があった。
その姿を見てタクミは冷静に考えてこの世界での知り合いはエリナとアルバート一家だけではないかと改めて思った。
そんなことを考えながらもエリナは人ごみの中をかき分けるように抜けてきてタクミの前に膝に手を当てて荒い呼吸をしながらもの凄く疲れたように現れた。
「やっと追いつけました。タクミさんも外に来ていらっしゃったのですね」
「ああ、ギルドに昨日のクエストの報告をしにね」
エリナが呼吸を整えながらも外に出ていたことを訪ねるとタクミは巾着袋を見せつけながら返事をした。
「そういうことだったのですね。確かに昨日のクエスト報告はまだしていませんでしたもんね」
「そうなんだよ。そうだ、エリナにも報酬を渡さないと。ゴブリン討伐で1300ゴールドのはずだったんだけどキングゴブリンを倒したことで臨時報酬という形で13000ゴールド貰えたんだよ」
タクミがクエスト報告を済ませたという話をするとエリナは納得したように頷いた。
「合計14300ゴールド貰えたから半分渡すよ。えーと14300の半分だか7150ゴールドか」
「あ、私の報酬は大丈夫ですよ」
エリナが自分の報酬は要らないと言うもタクミはエリナの話に耳を向けず報酬を半分に分けるために巾着袋からゴールドを取り出して半分にすることを考えている。
「細かいのが無いなあ。どこかで両替出来ないかなってこの世界に両替機なんてあるわけないか」
「あ、あのう、私は報酬は要らないですよ」
エリナの声はタクミには全く届いておらずタクミはこの世界に両替機が無いことを悔やみながらも他の方法で考える。
「くそ、追わぬところで苦戦するとは。なんということだ。他の方法が……」
「あの! 私の分の報酬は要らないですよ。タクミさんが全て貰って下さい」
タクミが独り言のように他の方法を探しているとエリナがタクミの独り言を遮るように大きな声を出す。その声にタクミと周りにいた人たちも驚きエリナに視線が集まる。
エリナは自分の大きな声によって周りから大きな視線を受けていることに気づき、それをごまかすように話を変える。
「あ……えっと、報酬は私の分は要らないので全てタクミさんが頂いてください」
「手伝って貰ってさすがに報酬なしにはいかないよ」
「いいのですよ。楽しかったので。もう報酬は頂いているので」
エリナから報酬は要らないと言われて困ったタクミは説得をするもその説得をエリナは口ではやんわりとしているも内容には芯が通っているように感じた。
「もう頂いている? なんか俺あげたか?」
微笑みながら言うエリナの「もう頂いている」という単語に引っかかりタクミがそれについて自分が何か上げたかと聞くとエリナは嬉しそうな顔ですらすらと話していく。
「あ、いえ。クエストが楽しかっただけですよ。私は人とクエストに行ったことが無くてそれがもの凄く楽しかったのでタクミさんと行けたクエストはもの凄く良い思い出になりました!」
エリナの言葉にタクミまでもが恥ずかしくなってくる。
「そう言われると初デートみたいでなんかこっちまでも照れるな」
「デート?」
タクミの何気ないデートという単語にエリナは初めて聞いたように首をかしげながら聞き返す。
「あーえっと、こっちの独り言だ。何も気にしないでくれ。それより報酬は本当にいいのか?」
エリナの疑問をごまかすように話を先ほどの報酬の話に戻すとエリナは急に話を変えられて動揺したように答えた。
「はい、報酬は無しで大丈夫ですよ」
「何か他に欲しいものがあるのか?」
タクミはエリナが他に何か言いたげにしている顔をしていることに気づいて他に欲しいものがあるのかと聞くとエリナは言いずらそうにしながらも口を開く。
「実は他に欲しいものがあるというか、タクミさんにお願いごとというか……」
「お願い事? なんでもいいから言ってみてくれ」
エリナは言いづらそうな顔から真剣な顔でタクミに向き直って話していく。
「タクミさん、お願い事があります! 私をこれからも一緒にクエストに連れてってください! タクミさんとのクエストが刺激的でこんなにも楽しいことは今まで経験したことが無かったです。これからもタクミさんとのクエストを一緒にこなしていけばもっと楽しいことがあるのではないのかと思いました。荷物持ちでも何でもしますのでこれからも一緒にクエストに連れて行ってくれないでしょうか?」
エリナはタクミとのクエストが人生でもの凄く楽しいと心の底から思えてそれを吐き出す勢いでタクミに言い放った。
「……そ、そうなのか。いいぞ。俺もこの世……この町のことは全く知らないからエリナが一緒に居てくれるともの凄く助かるぞ! だからこれからもよろしく頼むよ!」
エリナの吐き捨てるように言い放った一緒に冒険したいということにタクミは一瞬動揺して時が止まったように固まってしまったが直ぐに我に返って口を開いた。
「はい! これからもよろしくお願い致します!」
タクミの言葉にエリナは真剣な表情からぱあーと喜びの顔に変わって元気よく挨拶をしながらも頭を下げた。
「ああ、こちらこそよろしくお願いします!」
エリナを見てタクミもその場のノリのような勢いで思わず頭を下げた。
「ぷっ」
「ふっ」
2人は顔を上げると先ほどまでの真面目なやり取りに思わず吹き出してしまった。
「はあー、俺たちは町のど真ん中で何やっているんだろうな」
「本当にそうですね。恥ずかしいですね」
「せっかくならこれからクエストにでも行くか?」
「ぜひ、行きましょう!」
「決まりだな。それじゃあ冒険者ギルドにとんぼ返りだな」
「直ちに向かいましょう! どんなクエストでも2人で達成させましょう!」
「だな。今の俺たちならどんなクエストでもクリアできそうだからな。いっそう全てのクエストでも受けるか?」
「それは面白そうですね。私たちの活躍をこの町中に知れ渡るかもしれませんね」
タクミがクエストに行くかという提案をするとエリナは食い気味に行こうと告げて2人は楽しく会話をしながらも冒険者ギルドに向かったのだった。




