人生初クエスト的なやつ 8
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タクミの気合に満ちた左ストレートが決まり、キングゴブリンは地面に倒れていた。
「どうだ? さっきの俺とは違うんだよ!」
タクミの顔には自信に満ち溢れた顔をしており、キングゴブリンはゆっくりと立ち上がって怒りをあらわにしていた。
「その顔を拝めるのをあと少しってことだ! ここで終わってもらうぜ!」
キングゴブリンが怒りの表情で雄叫びを上げながらこちらに向かってきてタクミは戦う構えをして迎え撃とうとすると横からもの凄い勢いで何かが前へと走っていた。それは言うまでもなくエリナだった。エリナはこちらに向かってくるキングゴブリンに剣を構えて突っ込んでいき、その剣を横から振り払いキングゴブリンの右腹部を切り裂いていく。切られたキングゴブリンの右腹部からは紫色の血が出てくる。
キングゴブリンは切られて苦痛の悲鳴を上げるも直ぐに怒りの顔でエリナの方に向き直り、右手の棍棒を振り下ろすもエリナは横に避けてそのまま後退してタクミの横に立つ。
「あんた、めちゃくちゃ強いんだな!」
「ふふ、タクミさんもとてもお強いのですね!」
「俺たちは良いコンビなのかもな。どうだ、ここからは協力してあのデカ物を倒すか!」
「そうですね、その方が良いかもしれませんね。なんせ私たちはもの凄く相性が良さそうですからね」
タクミが尊敬の笑みで言うとエリナも同じ表情で返してきた。
お互いの目には相手の強さを認めている。その更に目の奥にはお互いを信頼している。二人はそんな関係になりつつあった。
「それじゃあ俺たちの戦いの始まりだ!」
「はい、行きましょう! 私たちの戦いをお見せしましょう!」
二人は真剣な顔になり、戦う構えをした。
二人を見て怒りで歯ぎしりしているキングゴブリンが上を向き雄叫びを上げた。
「行くぞ!」
「はい!」
タクミの合図で二人が横に並んでキングゴブリンに走って行く。
近づいてくる二人にキングゴブリンが横からなぎ払うように振り、タクミに棍棒が向かっていくのをエリナがタクミの前に立ち剣で受け止める。
タクミは棍棒を気にもせずにそのままキングゴブリンに走って行く。
「これでもくらいな! はぁー!」
キングゴブリンのがら空きの腹部に左ストレートを入れ込んでいく。左ストレートは見事に決まり、腹部は大きくへこんでいく。左ストレートを決め込んだタクミは後退していく。そこに棍棒を抑えていたエリナが棍棒を吹き飛ばしてキングゴブリンに近づいていき、腹部に剣を大きく振り下ろして切り裂いていく。更に後退してタクミがエリナの横を抜けて上へ飛んで行き、キングゴブリンの顎目がけて左アッパーを決めこんでいく。キングゴブリンは顎から思いっきり上に持ち上げられその勢いで地面に倒れていく。
キングゴブリンは直ぐに起き上がり前を向くと、二人が自分に向かって走って来ていることに気づいた。
「まだまだ行くぜ! ほら、ドーンと上がって来い!」
走っている途中でタクミはエリナの前に立ち止まり、両手をバレーボールのレシーブのように構えてそこに走っているエリナが飛び乗ってタクミが空高く目がけて思いっきり飛ばしていく。
「でぃあー!」
エリナを飛ばして直ぐにタクミはキングゴブリンに向かって走り出して左拳を後ろから前に大きく突き出して正拳突きをキングゴブリンの腹部にぶつける。
キングゴブリンは痛みでもがきながら悲鳴を上げた。
「今だ、やっちまいな!」
タクミは上を見て叫ぶと上空にはエリナがいた。頭の上に黄色に輝いている剣を構えてキングゴブリンに向かって急降下していた。
「これで最後です! グランドフラッシュ! はあー!」
キングゴブリンに突っ込みながら黄色に輝いている剣を大きく振り下ろす。黄色く輝く剣はキングゴブリンの頭から真下に切り込んでいき、エリナが地面に着地するのと同時にキングゴブリンは真っ二つに切り裂かれた。
「任務完了だな!」
「はい、これでクエストの完了ですね」
タクミが疲れたように背伸びをしてエリナに言うとエリナは地面に座り込んで疲れた顔をしつつも笑顔を作って答えた。
そこからタクミも地面に座り込んで二人で少し休んでいた。
戦いが終わってひと段落していると先ほど安全な場所に避難した馬車がこちらに近づいてきた。
馬車は二人の手前で止まって馬車を運転していた青年が御者台から降りてこちらに近づいてきた。
「終わったのか?」
「ああ、さっき終わったよ」
馬車を運転していた青年が終わったのかという確認に対してタクミが答えると青年は安心したような息を吐いてから直ぐに真剣な顔でタクミたちの方に向き直り、深く頭を下げた。
「そうか、君たちには助けられた。命の恩人だ! 本当にありがとう! 俺だけだったら旦那様たちを守ることはできなかった。感謝しても感謝しきれない」
「顔を上げて下さい。私たちもただクエストをこなしただけですから」
深く頭を下げる青年にエリナが戸惑いながらも謙遜して顔を上げるようにと告げる。
「こんなに感謝してもしきれないことはない。ぜひ何かお礼をさせて貰いたい」
「いえ、お礼なんてそんなものは大丈夫ですよ。当然のことをしただけですから」
青年は顔を上げても感謝してもしきれないという顔でお礼をさせて欲しいというとエリナは動揺しながらもお礼をしなくても良いと拒む。
そんなやり取りをしていると馬車の客車の中から金髪の30代くらいの男性(青年が旦那様と呼んでいる人)と赤ん坊を抱えているドレス姿の金髪の茶髪の女性が降りてきてこちらに近づいてきた。
「君たちには私からも礼を言いたい。本当にありがとう! 君たちのおかげで我々は無傷で済んだ」
「本当に助かりました。ありがとうございました」
「いえ、私たちは当然のことをしただけです。ですのでお顔をお上げください」
旦那様と呼ばれている男性は先ほどの青年と同じくこちらに深く頭を下げ、赤ん坊を抱えている女性(旦那様と呼ばれている人の妻)も続けて頭を深く下げた。エリナはそれを見てさらに困った顔で頭を上げるようにと告げる。
頭を上げる夫婦にエリナは少しほっとした。
そんなやり取りを横から他人事のように見ていたタクミは話を遮るように夫婦に尋ねた。
「ところであんたたちはいったい誰なんだ?」
「申し遅れました。私はアルバート・ロビンソン、こちらが妻のマリエット・ロビンソン、この子はシェリエル・ロビンソンで私たちの子です」
「そして私がクリフト・ジェンです。旦那様の護衛をやっております」
タクミの質問にアルバートがそういえばという顔をして自己紹介をしていく。自己紹介を聞いてタクミとエリナも自己紹介をしていく。
「俺はゴトウタクミ。で、こっちは」
「エリナ・カメイールと申します」
「ゴトウタクミさんとエリナ・カメイールさんだね。本当に感謝しているよ。そうだ、もし良かったらこの後うちに来ないか? 命の恩人にはぜひご馳走をしたい」
自己紹介をしたタクミたちにアルバートは助けてくれたお礼と自宅へ来ないかというお誘いをしてくれた。
アルバートの提案に横にいるマリエットとクリフトもぜひという感じで頷いた。
「そんな私たちはただクエストを全うしただけですのでお世話になるわけにはいきませんよ」
アルバートのお誘いに対してエリナは焦りながら困ったように軽く否定する。
「そう言わずに命の恩人にはお礼をしたいのだ。マリエットやシェリエルも歓迎しているぞ!」
「私も旦那様に賛成でぜひお礼をさせて欲しい!」
「し、しかし」
アルバートとクリフトの熱いお誘いにエリナは更に困ったように言葉を詰まらせる。
困っているエリナを助けるようにタクミが話を切り出した。
「それなら一つお願いを聞いてくれないか?」
「ほう、言ってみてくれ」
アルバートは笑顔でタクミに向き話を聞いていく。
「実は俺たちはこの町に来たばっかりでお金が無いんだ。今日止まるための宿賃も。だからこうしてクエストをしてお金を貯めている」
アルバートたちはほうという感じで話を聞いている。
「だからお金が貯まるまで俺たちを泊めてくれないか?」
「タ、タクミさん。さすがにそれは……」
タクミの提案にエリナはさすがにという顔をしている。
「はっははは。なんだ、そんなことか。全然問題ない。君たちがお金が貯まるまで私たちの元にいればよい。いや、むしろいつまでも居てくれても構わないぞ。はっははは」
アルバートは大きく笑ってタクミの案をすんなりと受け入れてくれた。
「そうと決まれば早く家に戻り宴会の準備をしなくてわな。クリフト我が家に出発するぞ!」
「はい、旦那様! タクミさんたちも旦那様たちと同じく馬車にお乗りください」
アルバートが出発すると言うとアルバート一家は馬車に乗り込み、クリフトは馬車の運転席に乗ってタクミたちに馬車に乗るように告げた。
「おう、サンキュー。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ」
「ちょ、ちょっとタクミさん。待ってください」
タクミはもの凄く助かったという笑顔で馬車に颯爽と乗り込み、それを見てエリナは慌てた感じでタクミの後に続いて馬車に乗り込む。
こうしてタクミたちを乗せた馬車はグランデボッカに向かって進んでいく。




