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被害者Xの献身〔21〕

 やよいが話しかけてきた。

「鈴木さん、聡美と中央高速を走ったことありますか。」

「突然どうしたの。」

 蓮はやよいに問い掛けた。

「〔くノ一〕のプロモ撮影で富士山を背景にする企画があったんです。その候補で私は春の新倉浅間山公園でした。他の上位メンバーは逆富士(さかさふじ)で田貫湖・精進湖・山中湖、聡美は河口湖です。」

 蓮は仕事でやよいが話した全ての場所に幾度も足を運んでいる。その光景を何枚もカメラに収めていた。どの湖も湖面が滑らかだと映る富士山が美しい。脳裏にはカメラに収めた以上の光景が焼き付いている。

「するとやよいさんの右後ろが五重塔で背景は満開の桜と一番後ろが富士山ですか。」

 蓮にとっては年中行事の一部なのだか、やよいは

「すごぉい、流石ですね。」

と感動している。

「でもこの企画が始まって、しばらくしてから聡美がポツンと言ったんです。〈私は中央高速を走りながら正面に見える富士山が一番好きかな。〉ってです。今思うともしかしたら鈴木さんが連れて行ってあげたのかな。」

「そうなんだ。そういう企画があるって聞いたから〈高速道路からフロントガラス越しに見える富士山もすごいよ。じっとして見る光景じゃなくて走りながら見えるから画像より動画にはいいかもしれないね。〉って言ったのを覚えてる。そしてすぐに連れてった。上りで昭和町あたりがよく見えるんだ。」

 蓮はやよいにそう答えた。

「それでまた叔母の話なんですけど、中央道から富士山が見える話をしたら叔母は見たことがあるって言いました。ビックリ。そこで私が叔母に〈どこから見える富士が一番好き好き。〉って尋ねると〈東武伊勢崎線新越谷駅。〉って言ったんです。以外でした。教えてくれませんでしたけど、きっと何かの思い出があるんでしょうね。私は氷山先生に連れて行って貰いました。両方とも。」

 氷山という言葉を口にした途端にやよいの顔がキラキラと輝き始めた。

 蓮も笑顔で

「きっとそうだね。〔隠れ家富士(かくれがふじ)〕だもん。」

と返す。


 蓮は東郷やよいの叔母、つまり藤川弥生が新越谷駅の富士山か好きな理由を知っていた。

 藤川弥生は東武伊勢崎線を使って興梠修一郎に会いに行っていた。単純な理由だがやよいには言えない。中央道の富士も修一郎の受け売りだった。


 やよいは話しを続ける。

「〔隠れ家富士〕ですか。でも〔隠れ家桜(かくれがざくら)〕だけは教えてくれなかったな。鈴木さん、思い当たります。」

 やよいが蓮の目を見つめて言った。

「それは無理だろうね。桜の小名所は多過ぎるよ。桜坂や桜の綺麗な坂道になると無数に在りますから。」

 蓮は即答したが後ろめたかった

 蓮はその場所を知っている。興梠修一郎と藤川弥生の交信記録にはしっかりと残っている。今でも春になると興梠修一郎と吉野由利の交信に登場する。

 でも蓮はその場所に敢えて行かなかった。当然、カメラに収めていない。

 通信通話記録を覗く蓮だがこの場所には触れてはいけない。そんな気がした。

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