被害者Xの献身〔20〕
「よかった。でもこれから話すことは本当に変な話かもしれません。」
東郷やよいがポツリと言った。
「叔母の話で恐縮なんですが、叔母は綺麗な人で更に自分を綺麗に見せようと努力してました。人の面倒を見るのも好きで可愛く振る舞って相手が喜んでくれると嬉しかったみたいです。既にご存知でしょうけど叔母の父は平等民衆党の元内閣総理大臣東郷信作で義理の父が元幹事長の藤川繁人です。だから東郷信作は私の祖父でもあります。平等民衆党が平等党と民衆党の時代から東郷家と藤川家は家族ぐるみの交流がありました。それで繁人元幹事長の三男将治さんが叔母を好きになり結婚した訳です。繁人元幹事長は〈これで平民党は永遠に不滅だ。〉と言ったとか。戦国時代の政略結婚みたいでしょ。叔母は良い奥さん、良き嫁を演じてましたが疲れていました。下の子が中学に上がると気分転換で会社勤めを始めて、そこで友人の元彼と再会したんです。友人の元彼は上司だったんですが容姿が学生時代と殆ど変わってなくて、楽しかった学生時代を思い出したと言ってました。途端叔母は魔性の可愛い表情をするようになってビックリ…で、鈴木さんと知り合った聡美は叔母みたいな表情をするようになりこっちもビックリ。前置きの方が長くなりましたね。」
やよいの話を聞き終わった蓮はハッキングして読んだ小説を思い出した。小説は現時点で非公開だがタイトルは『天使になりたかった魔女』。著者は興梠修一郎、主人公も興梠修一郎でヒロインは藤川弥生。〈つまり実話なのか。書籍化等の公開時に固有名詞は変更するだろうけど、やよいさんの話とピタリ重なる。〉
「ためになる話をありがとう。」
蓮はそう言ったものの気になったのは握馬聡美の変化ではなく興梠修一郎と校閲担当者吉野由利との通信内容だった。
「鈴木さん、謎が解けたみたいにスッキリした顔してます。氷山先生がそうなんですよ。」
そう言うやよいの顔もキラキラ輝いている。東郷家の血筋は魔女なのか。藤川弥生を覚醒させる呪文は興梠修一郎、東郷やよいは氷山耕介。それとも眠れる森の美女の目を覚まさせる王子様か。蓮はそんな気がした。




