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夢の中でもヒロイン

「さあ、そろそろ夢の話に戻るか。」

「最後まで話したんじゃないの。」

 由利が修一郎に尋ねる。

「その後、二度寝三度寝でまた夢を見たんだよ。」

 修一郎は楽しそうに言う。

「まず二度目の夢。自転車を漕いでいたんだ。後ろの荷台に弥生が乗っていた。」

 由利はクスッと笑い再び修一郎に尋ねた。

「弥生さんは荷台に股がってたの。それともお上品に横座り(サイドサドル)だったの。」

「それがな、〈お尻が痛くなる。〉って荷台の上に立っていた。僕の肩に手を掛けて上機嫌だったよ。」

 由利にはその光景がすぐに浮かんだ。そして〈あはははは。〉と笑い、

「弥生さんらしいね。」

とその後も暫くはクスクス笑っていた。

「それで弥生さんが静かに立っていたとは思えないんだけど。」

 由利が言うと修一郎は

「当然だ、飛び跳ねたりわざと揺らして楽しんでいた。」

と答える。

「現実にされたら怖いかな。でも夢でしょ、自転車は何処をどんな風にどこを走っていたの。まさか坂道を下りながらブレーキに手を掛けていたとか。」

「歌の歌詞の話か、そっちじゃないな。」

 由利が

「えっ。」

と言うと修一郎は笑いながら話し始めた。

「雰囲気的には江東区の富士見橋あたりかな。」

「結局、どこかのPV みたいね。」

「ただ違うのはPVとは走る方向が反対だった。」

「それってやっぱり先生がひねくれてるからかな。弥生さんの言葉を借りると〈変よ。〉かしら。」

「一方通行じゃないんだぞ。何で変なんだ」

 修一郎はそう言って話を続けた。

「それでな、弥生が荷台で飛び跳ねるから車道側の(ガード)レールに接触して車道に転げ落ちたんだよ。」

「痛そう。」

 真顔で由利が言う。

「夢の中だから痛み感じなかったけど橋の進行方向の右端を走って道路に転げ落ちたから正面から車がくる訳。」

「それで大丈夫だったの。」

「レールの上から落ちてくる弥生を抱き留めて夢から醒めた。めでたし、めでたし。」

「よかった。」

 由利は実際に起きたことのように修一郎と弥生を心配していた。

「もう一つは小説がうまく書けずに部屋の中で喚いていると、蟹沢が軽蔑したような視線を向けるんだ。そこに弥生が〈ただいま。〉って帰ってきて笑ってた。それがな、弥生は十代後半ぐらいで紙製の買い物袋に何かいっぱい詰めて両手で胸の前に抱えていたな。夢の中だけど髪がストレートの弥生は初めて見た。」

 由利は悲しくなった。由利は髪型がストレートの弥生を見た事がある。それは亡くなる前だった。入院してから美容室に行くこともなくなり髪にはまめに櫛を入れていたがその時だけなのだ。

 由利が

「もう本田紀枝さんと延岡動さんの夢はどうでもいいよ。」

と言う。

 修一郎が

「夢判断は。」

と尋ねると、由利は

「申し訳ないけど夢の分析はもう終わろう。弥生さんは夢の中でも主役だね。」

と寂しそうに笑った。

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