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夢の人〔3〕

   『夢の人』


 紀枝のマンションを出ると私と妻は車に戻り日向灘に面した小高い丘の斜面を下って行った。暫く走り国道沿いの駐車場に車を停めた。そこで海を見た私はとてつもなく違和感を感じた。その光景は日向灘ではなく東京湾の、京浜工業地帯の湾岸の光景だった。日向灘であれば視界の半分に青い海と水平線が広がっている。私と妻の目の前に広がる光景は右手が工業地帯、左手が海に面した小高い丘だ。木更津、君津、富津と内房を南下して行くと京浜工業地帯は自然の多い風景へと移り変わっていく。私と妻は人造物と自然の境界にいた。

 私は妻を見た。妻は喋ることなく海を見ている。妻の横顔を見て私ははっとした。妻は化粧していなかった。素顔のままだった。

 妻は私の左側に立っている。妻の横顔の背景は内房の木々の緑だ。化粧をしていない妻の横顔がとても自然に見えた。



「ここで目が覚めたよ。」

 修一郎が朗読を終えると由利は

「夢でもない、ファンタジーじゃない。生々しすぎるわ。リアリティ在り過ぎ。」

と笑い、

「じゃあ、私の感想を言いますね。」

と言った。修一郎は

「主観を交えずに客観的に喋ってくれよ。」

と由利に言う。由利は

「何ですか、それ。」

と笑う。

「由利ちゃんはちゃんは弥生のことをよく知ってるからな。僕の知らない女同士の話だってしているだろう。」

「それはそうですけど。じゃあ〈限りなく客観に近い主観〉と〈限りなくわがままに近い主観〉の二つを言いますね。」

 由利は少し口を尖らせて言った。

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