夢の人〔2〕
ペットボトルのジャスミン・ティーを二口ほど飲んだ修一郎は再び朗読を始めた。
『夢の人』
最初、私は延岡動と再婚した女性が紀枝だと妻に言われるまで気付かなかった。見た感じが〈紀枝に似ているな。〉程度のものだったのだ。紀枝もそんな私の雰囲気を察したのか、お茶を出す際に「どうぞ。」と言っただけで私に話しかけることはなく妻と話していた。
紀枝に昔の面影は全く無い。顔も別人のようで体は筋肉質なのだが横幅がかなり広くなっていた。私を意識してはいるものの避けているようだ。私も妻の横顔と出された湯呑みを交互に見ているだけだった。妻も確かに老けはしたが体型は昔と変わっていなく、顔の輪郭も昔のままで遠目に見ると年齢よりはかなり若く見える。
私は妻が老けた紀枝を見せたくてわざわざ連れて来たのかなと詮索してしまった。妻も紀枝も口には出さないものの〈お互い、もう若くないわね。〉と言っているようだ。二人とも若い頃とは違う自分を充分に認識していた。
お茶を一杯飲むと私と妻はマンションを出た。私は延岡動とは全く口を訊かなかった。
「さて、もう一服するかな。」
修一郎が朗読を止めると由利は言った。
「あんまり楽しい夢じゃなかったのね。先生の小説にしてはセリフが極端に少ない。それで夢は何色でした。」
「セピア色だ。」
修一郎は簡潔に答えた。
「モノクロじゃなくてセピア色だったんですね。モノクロは叙事でセピアは叙情とか、モノクロに感情が加わるとセピアって言われるけど動さんが舞さんのアバターなら先生の脳内優先順位は顕著です。」
由利は寂しそうに喋ると、
「じゃあ先生、続きお願いします。」
と言った。




